話題のスパイク【開発秘話】を調査 GEハイストIQ・ミズノプロCQ 鷲見将成さん
ミズノから12月に発売開始となったGEハイストIQと、ミズノプロCQ。クイックネスを追求し、走塁に特化したスパイクとして、約2年の歳月をかけて開発されたスパイク。今回は、その開発秘話をミズノ社の鷲見 将成氏にたっぷりと伺いました。
長所を伸ばすGEハイストIQ、走攻守のバランスに優れるミズノプロCQ
【取材にご協力いただいた方:ミズノ株式会社 鷲見 将成さん】
――実際に、試着会などでも、新商品のGEハイストIQやミズノプロCQを試し履きした選手たちが、口々に「フィット感がすごくある」「加速しやすい」と嬉しそうに語っていました。
今回、僕らが着目したのは、塁に到達するまでの速さです。トップスピードに乗るまでの時間を少しでも早くしようというテーマで、まずは開発メンバーで共有して制作を開始しました。
野球は、短い距離を走る競技なので、足が速くても、塁に到達するまでにトップスピードに乗っていなかったら全く意味がないため、とにかくその部分にこだわっていきました。
――その中で、グローバルエリートのシリーズの中でGEハイストIQという、これまでとは全く違う新しいスパイクを開発されたのは、どんな思いがあってのことだったのでしょうか?
ミズノ株式会社 鷲見 将成さん
選手によっては、4番・ピッチャーで、攻撃でも守備でも、走る時でも、中心にならなくてはいけない選手と、『僕は走塁で特化するんだ』と自分の特技を伸ばしていく選手と、大きく分けると2タイプいるだろうなということをまずは軸に置きました。
というのも今、サムライジャパンでも、走塁に期待されて招集された選手もいれば、バッティングに期待されている選手もいる。徐々に、日本のトップ層は、自分の長所を生かせるプレーヤーを育てて、そういった組織で勝っていこうという野球に変化している流れがあるんですね。
そのため、数年後にはきっとアマチュア野球でも、走塁や守備などのスペシャリストという形で、ベンチ入りできるような世界になってくると思うので、そういった選手たちが、自分の長所をさらに伸ばせるための野球用具があったらいいなという思いで、まずはGEハイストIQの開発をスタートさせました。
一方で、ミズノプロCQは、クイックネスを求めながらも、投攻守ともにバランス良く力を発揮できるスパイクとして開発を進めていきました。
――とても大きなビジョンを持って、今回、開発をスタートされたのですね。
そうですね。今までベンチに入れなかった選手も、自分の特技を伸ばすことでベンチ入りできるかもしれない。その可能性があるんだよということを今の日本の侍ジャパンを見て感じてもらいたいですし、ミズノ社としても、野球用具を通じて発信していき、野球自体がもっと楽しくなっていけばいいなという思いもあります。
――では、今回、走塁に特化したスパイクということで、GEハイストIQの開発を重ねる中で、苦労した点というのはどんなところでしたでしょうか?
一番は『フィッティング』ですね。足との一体感というところが、一つ大きなポイントになりますし、あとは、いかに力を逃がさずに、スムーズに動作に移れるか。止まっている状態から動きの状態にスムーズに移ることが出来るかが、非常に難しかったところですね。
[page_break:静から動へ、強い蹴り出しの実現]静から動へ、強い蹴り出しの実現
――ミズノプロCQを作り出す上でも、走塁だけでなく、“バランス”を求めるといった部分では、難しい部分も多かったのではないでしょうか?
そうですね。CQに関しては、どういうシーンであっても本当にバランス良くプレーをしたいと願っている選手に向けてのスパイクですので、そういった選手というのは、自分のイメージしている動きをしっかりと持っていたりするんですよね。
そのため、より素足の感覚でどういう動き方をしても、その人が動きやすいような形に、ソールが曲がるとか、止まっていてもスパイクを履いているという違和感を持ちにくい構造を求めていきました。金具の配置、靴の曲がり方、硬い部分と柔らかい部分の出し方など、工夫を凝らしながら制作していきました。
――実際に開発段階の中で、加速を高めるといった実験もされたのでしょうか?
野球というのは、元々止まっている状態から動くスポーツです。ピッチャー以外は、何かしらアクションがあったものに対してパッと反応しなきゃいけない。その上で、止まっている状態から素早く動き出して、より速くトップスピードに乗るための“加速力”を求めた実験は重ねていきました。
GEハイストIQ
その中で、GEハイストIQは、スタート時の一歩目の力、つまり進行方向に対しての力が、一番強いという結果が出せました。これは他社だけでなく、自社の以前のスパイクも含めた検証結果ですが、より向かいたい方向に強い力が発揮できる。強い蹴り出しが実現できた結果となりました。
――走塁以外でも、蹴り出しの強さという部分で、数値測定は行っていったのでしょうか?
そうですね。もちろん走塁以外で、守備の場合でも、例えば内野手でも外野手でも、後方にフライが飛んだ時は、後ろにも蹴らなければならない。その後方に走る時の一歩目の力の向きというのは、どういうふうにかかっているのか。バッティングにしても、ピッチャーのスローイングにしても、そうですよね。
スローイングについては、例えばショートの選手が、三遊間のボールを取って踏ん張ってファーストに投げる時に、より強く蹴りたい。そういうシーンの時に、どういう力のかかり方になっているかを測定して、それらをもとに開発をしていきました。
実際に出来上がって、測定した時には、GEハイストIQの場合は、蹴り出しという部分で、すごく高い数値が出ましたし、ミズノプロCQの場合は、どの項目でもバランスよく良い数値が出た。これらを僕らは想定した設計をし、制作してきたので、自信を持って出せましたね。
[page_break自分の中で持っているこだわりで履く靴を選んでもらえたら:]自分の中で持っているこだわりで履く靴を選んでもらえたら
――そこまで設計時に工夫を凝らされてきたのですね。
GEハイストIQに関しては、靴というのは屈曲すると、それがポッと跳ね返るんですが、そういった動きに着目して開発しました。そのため、IQの開発時のキーワードとしては、「ひねる」という言葉がマッチするかと思います。ひねる動きへの反発を特徴づけた構造になっているので、一番力が入る母指球に力を入れて、蹴った時に、必ず足はひねりが生じるんですけど、そのひねりが生じた時に、一番跳ね返りが強いような設計にしたんです。
そういったひねりに強い構造にしたということで、より一歩目に強いスパイクになったと考えています。
ミズノプロCQ
――ミズノプロCQの場合はいかがでしょうか?
ミズノプロCQであれば、全ての数値がバランス良い数値になったのは、どんな靴の曲がり方になっても力が逃げない、屈曲を邪魔しないように、屈曲ラインを広くとったというのも一つ。
また、歯の配置も、どの方向に蹴っても、きっちりと歯が地面を噛んでくれるような向きと位置というバランスをとりました。そして、もう一つは、反発性能といって、どんな向きで曲がっても、ちゃんと跳ね返ってくれるような、バランスのとれた反発が実現できる構造を作れたのも、ポイントです。
あとは、フィッティングの要素でみると、『素足のような感覚』だと選手の皆さんも話してくれましたが、これは数値化は出来ないのですが、どの方向に動く時でも、足と靴の中のズレというのを軽減したんですね。それによって、足との一体感を感じてくれたのかなと思いますね。
――試し履きした選手たちも、GEハイストIQは、『前に進む力が強い』『一歩目の蹴る感覚がこれまでと違う』というコメントを述べていましたし、ミズノプロCQにおいては、『足にジャストフィットする』『フィット感がある』というもので全く違うコメントでした。
そこは僕たちも求めてきたところなので、それだけこれまでのスパイクとの違いを感じてもらえると非常に嬉しいですね。より走塁での加速を求めていく選手はGEハイストIQを選ぶでしょうし、自分の足の感覚でプレーをしたいと思っている選手は、ミズノプロCQを選ぶ方も多いかと思います。選手が自分の中で持っているこだわりで、履く靴を選んでもらえたらなと思っています。
ミズノ株式会社 鷲見 将成さん
――それでは、最後にこのミズノ社からの新しいスパイクを履いて、プレーヤーたちにどんな活躍をしてほしいと思いますか?
野球って、何が楽しいかといったら、今まで出来ないことが出来るようになったり、練習する中で成長していったり、試合に勝つことが楽しいと思うんです。その中で、スパイクというのは、守備の時も攻撃の時も、ずっと履いているものなので、スパイク選びにはこだわってもらいたいですね。
今回、ミズノ社が開発した新しいスパイクは、自分が高めたいと考えるパフォーマンスが発揮出来るスパイクに仕上がりましたので、今まで出来なかったプレーが出来るようになったという喜びをぜひ感じてもらえたらとても嬉しいですね。
ミズノ社の日々進化していくスパイクの背景には、将来への大きなビジョンと、開発者たちのとても熱い思いがあったのですね。鷲見さん、貴重なお話をありがとうございました。