勝つためのリカバリー戦略その3 疲労回復方法
後編は、より実践的に睡眠対策、温浴、冷浴、食事について紹介し、コラムの最後に甲子園大会に向けての実際のリカバリーと、ピッチャーリカバリー及びトレーニングの方法を紹介させて頂いています。
もちろん、新チームの夏のコンディショニング方法としても利用できると思います。これを参考にして、ベストコンディショニングで甲子園で頑張って欲しいと願っています!!
睡眠
睡眠のサイクル
睡眠は、リカバリーにとても大切なことです。睡眠不足はグルコースの取り込み不足と、コルチゾールレベルをあげる、つまり交感神経をあげることです。グルコースの取り込み不足は、パフォーマンスの低下につながります。
睡眠は浅いノンレム睡眠です。ノンレム睡眠の場合、筋がゆるみ、眼球運動が遅くなり、脳波がゆるやかになり眠りに落ちることが確認できます。ノンレム2の段階で、眼が動かなくなり、ノンレム3では、デルタ波が出て、深い眠りに入り、ホルモンが分泌され、身体を回復させて行きます。次の4段階で、レム睡眠がおきて、記憶の摂理でスキルの定着がおきます。このサイクルが90~120分間のサイクルでおきます。
ベッドに入り、およそ20分で睡眠につくのが理想です。十分な睡眠をとることでリカバリーも上手くいくのです。
睡眠は、だいたい8時間で自然に目を覚ましますが、アスリートならばトレ―ニングで疲労している分、8時間以上の睡眠が必要です。週に20時間以上のトレーニングをしているのであれば、+2時間の睡眠が理想でしょう。午前中にトレーニングをしたら、昼寝を取るのも効果的です。90分ほどの昼寝だと、ノンレム睡眠からレム睡眠への1サイクルとなります。
睡眠には同じ時間に起きて、同じ時間に寝るリズムが大切です。寝室は静かで涼しく、暗いことが効果的でしょう。心が落ち着く環境を整える事です。また、寝る前に体温を上げることは禁止です。睡眠の30分ほど前に、ハーブティを飲んだり、リラックスできる呼吸法やストレッチなど一定のルーティンワークも効果的でしょう。
[page_break:冷却療法と温熱療法・水分補給]冷却療法と温熱療法
冷却療法とは基本的に炎症をおさえるためにおこないます。急性からオーバーワークの部位(ピッチャーの肩や肘)などに行います。また水風呂などで筋の老廃物除去にも役立ちます。目安としては、13度から15度ぐらいの水に15分ほど入るとよいでしょう。
力投の後、クールダウンをする投手
筋肉痛の対応はストレッチを行い、15度以下の冷浴を運動後すぐに行います。その後タンパク質を補給して、睡眠をきちんと取れば筋肉痛の対処法となります。
温熱療法は、血液の循環をよくして、硬くなった筋をほぐしたりすることで、試合の後のストレスを取り除く効果があります。注意すべきは夏場です。夏は脱水状態になりがちです。水浴をメインにして、温熱療法は控えるほうがよいでしょう。サウナは血圧を下げたり、呼吸器疾患に利用されますし、冬にはリカバリーの効果もあります。しかし、先ほど書いたように、夏場は脱水状態になることを考えて、短めの利用か、常に水分を補給しておくなどの配慮が必要になります。
温浴は、筋肉が張ったときにエプソム塩(硫酸マグネシウム)を入れて利用すれば効果的です。温度は37度から40度ぐらいでしょうか。風呂は、水圧が体全体にかかるので、むくみを取り除き、効果的です。
42度の風呂に3分、15度の水風呂に1分を1セットとして、4〜5セットおこないます。血管の拡張と収縮で代謝を高めていきます。しかし、交互浴は血圧を高めるため、リラックスの効果は高くありません。ゆっくりしたいときは、温浴の半身浴で3分、湯船から上がり3分休む。これを3セットほどおこないます。
打撲と捻挫には、40度の温浴と5度の冷浴をおこないます。注意するのは、必ず30度以上の差が必要です。3分暖めて、1分冷やす。これを4、5セットおこないます。アイシングとホットパックでも効果的です。
水分補給
夏場のコンディショニングでは水分補給が一番大切なリカバリーとなります。
1.20分に1回、0度から5度ぐらいの水をコップ1杯(150ミリリットル)補給するのが理想です。一気飲みは禁止。胃に負担がかかります。一口ずつ飲んで下さい。
2. 脱水症状は前日の水分補給でなるかどうかが決まります。毎日の体重をチェックして適正な水分補給を把握しておきましょう。
3. 何を飲むのかも意識しておいてください。水で十分ですが、熱けいれんを防ぐには、ナトリウムやカリウムなどのミネラルが大切です。しかしこれは毎日の食事で補給できれば十分です。独りぐらしの選手はサプリメントやスポーツドリンクで補えばよいでしょう。またエネルギー補給としてデキストリンドリンクなどの糖質が入ったドリンクも効果的です。
トレーナーをしていて思ったのは、ゲームの直前に食事を摂る選手が多いという事です。特にビジターだと、1時間前に摂ることもありますが、これは避けたいことですね。食事をすることでインシュリンが分泌され、低血糖状態になり、逆に筋けいれんがおきやすくなります。
高校生もゲーム前、アップが終わってから食事を行うチームがありました。思った通り立ち上がりの悪いチームでした。自分で立ち上がりが悪いと思ったら、食事時間を逆算してマウンドに上がって欲しいですね。ゲームの後は、十分な水分補給をします。体重を量って体内水分量を確認してください。
[page_break:疲労回復の食事方法・ゲーム後のリカバリー]疲労回復の食事方法
ゲームやトレーニングの後には、バナナ、おにぎり、パン、オレンジジュースがおすすめ
疲労を回復するために必要なことは、早めに糖質と水分を補うことです。
ゲームやトレーニングの後には、バナナ、おにぎり、パン、オレンジジュースがおすすめです。
また、クエン酸も疲労回復効果が高いです。クエン酸が含まれているのは、グレープフルーツ、オレンジ、トマト、イチゴ、キムチ、そして酢の物です。他には、ビタミンB1も効果的です。糖質がエネルギーになるために必要になります。含まれているのは、豚肉、落花生、うなぎ、きな粉、抹茶、鰹節、たらこです。うなぎにはビタミンB1が含まれているので、体力回復にうなぎは効果的なのです。体力が低下しがちな夏の暑い日にうなぎを食べるのは、体力回復に効果的なのです。
筋肉の修復には、BCAAが必要になります。これが含まれているのは、牛肉、まぐろの赤身、卵、牛乳です。
タンパク質を効果的に身体に取り込むには、ムチンが必要です。身体はすべてタンパク質から出来ています。(体重の数字)×2gぐらいの摂取は必要ですね。そのムチンは、納豆、オクラ、ナメコ、もずくなど、ネバネバした食物に多く含まれます。またビタミンB6も必要で、これはまぐろ、かつお、さば、さわら、ぶりといった魚、牛肉、鶏肉、豚肉に多く含まれます。あとはご飯やパン、バナナにも含まれます。
筋肉が収縮するには、カルシウムとマグネシウムも必要です。ビタミンDも必要で、しいたけや青物野菜に多く含まれます。カルシウムは干しえび、、キクラゲ、はまぐり、のり、カレー粉、昆布、レバーに含まれます。カルシウムはほうれん草や大豆に多く含まれます。
ゲーム後のリカバリー
これから、甲子園大会が始まり、リカバリーが勝敗を分けてきます。そこで、大会中の実践的なリカバリー方法を紹介しようと思います。
まず、軽いジョグとウォーキングを交えて、有酸素エクササイズをおこないます。スタティックストレッチでゆっくり身体を戻しながら、体温を下げていきます。その後、アイシングをしながら炭水化物、プロテイン、BCAA、マルチビタミン、クレアチン、オレンジジュースを補給します。ピッチャーなら、軽めに肩の周囲のエクササイズをおこないます。
その後、冷浴をおこない、マッサージを受けます。それが終わって2時間以内に食事を摂ってください。ゲームの翌日は積極的に休養を入れて、体重の確認を行います。およそ2日後に、遅発性筋痛がきます。この日まで、軽めのトレーニング、中程度のウエイトトレ―ニングでセーブしておきます。これは血行を良くするのと、筋力の維持が目的です。個人差はありますが、3日目から普段通りに練習して大丈夫です。試合の1日前には、調整の日が必要です。この日はコンディショニングトレーニングのみ。
試合が続く期間は、ウエイトに重点を当てる必要は無いでしょう。2セットで、6〜8のレップで十分です。週2回できるなら、クイックリフトを入れてパワーの維持につとめたいところです。
体調の維持が成績に直結します。これから始まる新しいシーズンを、コンディショニングのミスで失敗しないように、きちんと準備をおこなってください。
「100パーセントの準備を己で行う」
これが秘訣です。
勝つためのリカバリー戦略を練ってください。そして勝ってください。応援しています。
(文・殖栗 正登)
【リカバリーについて以下のコラムもチェック!】
勝つためのリカバリー戦略その1 チームでの実際例
勝つためのリカバリー戦略その2 実践編