試合レポート

健大高崎vs前橋育英

2014.07.21

低目を捨てた健大高崎、7回一気に逆転で昨夏の全国王者を下す

 朝早くから、高崎駅ではプロ野球のスカウトやら大学野球関係者、スポーツ新聞のアマチュア野球担当や野球オヤジなど、球場でよく見かける顔に出会った。みんな目指すところは同じなのである。

 [stadium]高崎城南球場[/stadium]は、試合開始1時間前からすでに満員に近い状態になっていた。まだ、3回戦なのに、何だかスタンドは決勝戦かというような異様な空気に包まれていた。
それもそのはずで、前橋育英前年全国制覇を果たした学校だ。しかも、そのエースだった高橋光成君が残っている。また、健大高崎2年前のセンバツではベスト4に進出した実績もある実力校。昨秋も県大会を制しており、今春ベスト4である。言うならば、現在の群馬県高校野球を引っ張るも両校の対決である。だから、もちろん両校選手のモチベーションも十分に上がっているはずである。

 そんな中でのプレーボールだったが、前橋育英の注目の高橋光成君も、健大高崎の背番号11の左腕川井君も、どちらも入れ込み過ぎという雰囲気はなかった。平常心で始められたのではなかっただろうか。

 先制したのは前橋育英で2回、先頭の6番喜多川君が右前打で出るとボークで二塁へ進む。さらに兵頭君が送って1死三塁。四球後、飯塚君の初球スクイズは小飛球となったが、ダイビング捕球しようとした川井君が届かず内野安打になってしまった。それでも、その後は川井君が踏ん張って抑えた。

 その後は、投手戦の展開という様相で5回までが過ぎていった。

 そして、6回から健大高崎はエースナンバーをつけている左腕高橋和希君を投入。両高橋投手の投げ合いとなっていく。
試合の流れからしても、次の1点が勝負所かと思われたが、それが7回、前橋育英に入った。四球の8番森平君をボークで二塁へ進めた前橋育英は、バントで三塁へ進めるという、2回の得点パターンと同じ流れで1死三塁とすると、ここで工藤君が一二塁間を破り前橋育英に2点目が入った。

 何とか反撃したい健大高崎は、その裏先頭の6番平山君が中前打で出るも、併殺でたちまち2死走者なし。意気消沈するところだった。ところが、そこから驚くべき大反撃となった。


 続く中筋君が四球で出ると、9番の高橋和君も一二塁間を破って2死ながら一二塁。さらに、1番長島君のところで、カウント2ボール2ストライクとなったところで高橋光君の暴投もあって二三塁となった。ここで、健大高崎の青栁博文監督は勝負を賭けた。というのは、二塁に進んでいたエースの高橋君のところに代走を送り込んだのだ。

 この場面で長嶋君は四球を選んで2死満塁。青栁監督の勝負がどう出るのかと注目されたが、続く星野君は死球となって、思わぬ形で健大高崎に得点が入った。なおも2死満塁というところで、健大高崎としては最も信頼の出来る打者の脇本直人君だ、脇本君はここまで、3四死球と打たせてもらっていなかったのだが、この場面でカウント1ボール1ストライクからしぶとく一二塁間を破って2者を帰して逆転タイムリーとなった。

 いささか気落ちした高橋光君に対して、続く柴引君がやや強引に打ったという印象もあったが、中堅手頭上を破る三塁打となってさらに2者を帰した。もう、健大高崎ベンチと応援席は大騒ぎとなっていた。こうしたムードがさらに前橋育英にプレッシャーをかけていったのか、柘植君の一打は失策を招いてさらに1点が追加された。

 健大高崎としては、せっかくの無死の走者を併殺で2死としながらも、そこから6点を奪うビッグイニングを作ったのだから見事だ。健大高崎はここまで、とにかく徹底していたのが、低目のボール、に手を出さないことだった。とくに高橋光君の鋭く低く曲がり落ちていくスライダーに手を出さなかったことである。これは、健大高崎のスタッフが「甲子園へ行くためには、前橋育英高橋光成を攻略しない限り、その実現はあり得ない」として、昨年秋以来データを集め研究し尽くしてきた成果でもある。その結論として、「低めに曲がり落ちるスライダーに手を出したら、一つの三振が三つ分くらいのダメージがある」ということだったのだ。そうした集大成でもあったと言える。

 逆転を果たしてからの健大高崎は3人目となる松野君を送り出したが、松野君は2イニングをしっかりと3人ずつで抑え込んだ。

 こうして、昨夏全国制覇を果たした前橋育英は、この段階で姿を消すこととなった。公式戦の結果だけでいえば、全国制覇以降の新チームの成績は1勝3敗ということになってしまった。初出場初優勝という快挙で、学校も選手たちも、そして荒井直樹監督自身も、それまでとは違った環境が多く訪れたことも確かである。それらを踏まえての、全国制覇後の前橋育英の1年だったのではないだろうか。

 高橋光成君は、今後どういう道へ進むのかはわからないけれども、全国制覇の投手という看板は野球を続けていく限りはずっと背負い続けることになる。そして、この高橋君をはじめ、前橋育英の躍進が間違いなく群馬県の高校野球のレベルを上げたことは確かである。

(文=手束仁

【僕らの熱い夏2014 第27回】健大高崎高等学校(群馬)
今までやってきたことをすべて出し切りたいと思います!!

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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