試合レポート

佐野日大vs明徳義塾

2014.04.01

観察後の判断ミス連鎖が生んだ「あの1球」

 「あそこは内角ストレートではない。カットボールを続けるべき」

 試合後、明徳義塾の馬淵史郎監督、佐藤洋部長、藤山晶広コーチが異口同音に悔いたのが、延長11回表二死満塁の場面。佐野日大の4番稲葉 恒成(3年)に2ボール2ストライクに追い込んだにもかかわらず、岸 潤一郎(3年)と水野 克哉(3年)のバッテリーが、決勝点となるショートへの内野安打を喫した「あの1球」である。

 指揮官の弁を聞こう。

 「岸が披露しているあの状況で内角球を投げるとシュート回転で真ん中に入ったり、抜けて死球になる可能性がある。それ以前にカットボール2球で空振りをしているんだから、あそこはカットボールしかない。ベンチからもカットボールと言っていたんですが…」

 ただ、バッテリーの判断は異なっていた。その前に外角にストレートを配した水野は、
「今思えばカットボールを投げればよかったが、『カットボールが抜けてバットに当てられてしまいそうだ』という心の迷いがあった。アイツを信じられなかった」と内角ストレートを要求した理由を説明。
 「四国大会準決勝(2013.10.26)で今治西にストレートを打たれたのですが、水野がベンチを見てから僕を見たので、そのボールを投げようと思ってしまった」。
 岸との選択ミスの符号が、あの場面を生んでしまった。


 ただこの試合、明徳義塾が敗戦に至った理由はここだけではない。岸は昨秋の県大会決勝の高知東工戦(2013.10.07)を思わせるような体の重さで3回までに4失点。
 「大丈夫と思ったが、自分自身の甘いところ」と彼自身は多くを語ろうとしなかったが、「初回、水野がベンチに帰ってきて『要求したところに1球も行っていません』と言っていた」(佐藤部長)状態では、終盤のスタミナ切れも必然の流れだった。

 バッテリーに加え、守備も攻撃も認識後の判断ミスが続出した。
 例えば「前の方は(一昨日夜の大雨で)まだ水を含んでいたが、後ろの方は乾いていた」外野の状況を認識しておきながら、初回一死二塁から3番吉田 叡生(3年)のライト前タイムリーを後逸し三塁まで進めてしまった真田 一斗(2年)。
 例えば10回裏一死満塁のサヨナラ機、1ストライク後前進守備から中間シフトへ変えた佐野日大守備を見て、「今考えれば外野フライを打つことを考えればよかったが、内野ゴロを打ったらセーフだと思って」ショートゴロダブルプレーに倒れた7番・森 奨真(3年)。
 その他にも攻守に消極的なプレーが目立ち途中交代を命ぜられた3番・多田 桐吾(3年)など、枚挙に暇はない。

 「開き直って投手を助けてやれ」と檄を飛ばした指揮官に反応し、佐野日大左腕エース・田嶋 大樹(3年)から5連打で4得点を奪い逆転した6回裏の攻撃は見事だったが、これだけ判断ミスが頻発しては勝利の女神もソッポを向いてしまう。

 状況を認識する力は各選手にある。この選抜で2勝を上げられた理由の一つもそれが大きい。
 ただ、馬淵史郎監督が常々語っている勝利への「確率」を上げるための正しい判断をいかにできるか。明徳義塾は「あの1球」に至る連鎖の中で全国制覇を目指す夏への大きな宿題をもらい、甲子園を後にした。

(文=寺下友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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