Column

青春時代

2013.12.13

第1回 館山 昌平選手 連載企画

 ここに、意外なエピソードがある。
「小学校や中学生の時の同級生と会うと、『まだ野球やっているの?』って会話になるんです。『あの館山がまだ野球やってるよ』って言われるんですよね(笑)
 
実は、僕は小学5年生まで、ずっとライパチ。6年生ではキャッチャーで7番。それまで、一度もピッチャーをやったことない選手が、今こうやってピッチャーやってるんですから、周りからみたら不思議でしょ」
そう言って、館山は笑った。
 
小学校2年生の時に、始めた野球。初めての試合で立った打席では三振して、涙を流した。小学生の時に唯一打ったホームランは、レフトのトンネル。
「高校野球でもホームラン打ったことのない選手が、その後、ハマスタで、バックスクリーンに放り込んじゃうんですよ」
 ヤクルトへ入団8年目の2010年8月に、[stadium]横浜スタジアム[/stadium]で行われた横浜DeNA戦で、なんと、館山は中越3ランを放った。
「本当に夢のある話ですよね」
 子どもたちへの野球教室では必ず、そんな話しをするのだという。

高校入学時の目標は、『3年夏にベンチ入りすること』

 小さい頃から、強く、プロ野球選手を夢見ていたわけではない。
「僕は小学校の卒業文集に『ピアノの先生になりたい』って書いているんですよね。夢叶ってないじゃんって思いますけど(笑)。実際に、プロ野球選手になりたいって思ったのは、中学生からですね」
 とはいえ、中学時代は3番手投手。プロ野球選手は、まだ遠い夢だった。

「中学の時の3番手投手というのも、途中で、エースだった選手が引っ越しをして、それでみんな繰り上がって、センターラインを守っていた自分もピッチャーをやることになったんです」
 中学を卒業後、神奈川県の日大藤沢高校に進学した理由も、館山らしいものだった。
「もともとはキャッチャーだったので、高校ではキャッチャーとしてやっていくイメージをしていましたが、キャッチャーってベンチに2人しか入れないじゃないですか。でも、ピッチャーなら4人はベンチに入ることが出来る。俺は2人の中に入るのは無理だ!と思って、ピッチャーができる可能性のある日大藤沢を選んだんです」

 
 そんな館山が高校入学時に立てた目標は、

 
“3年生の夏を迎えるまでに夏のベンチに1回入ること!”

「とにかく、ベンチ入りメンバーに入って、このチームで甲子園に出られたらいいな。その時に自分が中心選手じゃなくても、あの中に入れたら、どんなに嬉しいだろうっていう思いを持っていました」
 しかし、実際に日大藤沢高野球部に入部すると、なんと30人の同級生のうち、ピッチャーは13人。館山は、ここから、自らが立てた目標達成に向けて歩み始める。

「3年の夏までにベンチ入りするという目標の前に、まずは、2軍戦で1イニング投げることを目指しました。あれだけ同学年にピッチャーがいても、他の人の技術がすごいなとか、全然気にならなかったんですよね。というのも、高校野球での目標が、ベンチ入りの4人の中に入ることだったので(笑)志、低いんですよね。でも、そのために、1日1日、自分が上手くなるために、どうやったらいいのかなということは常に考えていました」

 
 実は、館山のそんな考え方は、日大藤沢高校野球部の代々受け継がれる部訓にピタリとハマっていた。

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[page_break過度な目標は不安へと変わる――]

過度な目標は不安へと変わる――

「野球部に“百ヵ条”というものがあって、入部したらノート100ページ分の野球部の教えを書かなきゃいけないんです。それで、1から100まですべて覚えていくんですけど、その中に、『過度な目標を立てるな。過度な目標は不安に変わる』って言葉があったんです。
 その言葉が、自分のやる気と一致したんでしょうね。
 
いきなり入学して、漠然とエースになりたいとか、甲子園に行きたいと思わなかったから良かったと思うんです。2軍の試合で1イニング投げただけで喜んでたら、監督に怒られましたけど(笑)目標は低いけど、1つずつクリアしていくというところは、あの野球部の百ヵ条の言葉に、すごく共感できましたね」

 

周りを気にせず、コツコツと、目の前の課題に前向きに取り組み続けた館山は、新チームになると、その背中には、エースナンバーがつけられていた。

 

97年の秋季神奈川県大会ではチームを準優勝に導くと、進んだ関東大会の決勝戦では、県大会決勝戦と同カードの横浜高と対戦。日大藤沢は、ここでも松坂 大輔の前に、1対2で惜敗。この試合は、館山は、10回途中で登板したのみとなったが、常に目の前には、横浜・松坂が立ちはだかった。

 
翌春には、センバツ大会に出場を果たし、4強入りに貢献。5月の関東大会決勝では、三度、横浜高と対戦。館山と松坂との投げ合いは、延長13回の熱戦の末、この試合もまた、0対1で敗れた。
 
97年秋の県大会ブロック予選から、翌10月まで公式戦44連勝の記録を残した松坂だが、彼の歴史を振り返る中でも、この館山の存在抜きには語れないだろう。

 最後の夏は神奈川大会準決勝で敗れ、夏の甲子園は惜しくも届かなかったが、入学時に自ら立てた『3年生の夏を迎えるまでに夏のベンチに1回入る!』という目標はゆうにクリアした。そして、中学時代は遥か遠くにみえたプロ野球選手の夢を自らの手で少しずつ手繰り寄せていった。

「僕は軟式の出身だったんですけど、高校では、中学時代に世界大会に行っているような硬式経験者のすごい選手たちが周りにいたんですよね。でも、それも過去の話。そういう経験って、ステージが上がれば、それほど通用するものでもないし、だからこそ、今なにをするかに僕はこだわっていました。常に、これからどうするかってことは考えていましたね。
 硬式を経験した人が上手いんじゃなくて、軟式だからこそ出来ることもあるかもしれない。軟式出身だから出来ないんじゃなくて、飛び込んだ世界で、どう上手くなるかだと考えていました」

 
そんな館山が抱く夢を叶えるための理念は、今でも変わらない。
 
怪我をしても、前を向くことが出来る。
 
挫折を、挫折と捉えない。
 
その心の強さはどこからやってくるのだろうか。

 次回は、館山選手がこれまで怪我とどう向き合ってきたのか。
 
館山選手の声をお届けします。

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(文=安田未由

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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