昨夏の甲子園初出場初優勝の前橋育英。その原動力となったのは、当時2年生の高橋 光成だった。9月1日から開幕する18Uアジア選手権の代表メンバーに選ばれた高橋選手に、これまでの取り組み、昨夏の甲子園でのエピソードなどを伺い、高橋選手の素顔に迫ってみました。
――身長188センチ、体重は82キロだとお聞きしました。いつごろから体が大きくなったのですか。
高橋光成選手(以下、高橋) 中学生のときです。中学へ入学したときは167センチでしたが、卒業する頃には185センチになっていました。体重は、まだ78キロぐらいでしたね。
――ご家族も身長が高いのですか。
高橋 いえ、僕だけです。父は175センチぐらい、母は160センチぐらい。姉も160センチ、弟も172センチです。
前橋育英高等学校 高橋光成 選手
――なぜひとりだけそんなに大きくなったのでしょう。
高橋 牛乳を毎日飲んでいたのがよかったのかも。食べるとき、飲み物をいつもたくさん飲んでいて、牛乳を毎日1リットルは飲んでいました。それだけが原因ではないのでしょうが、それくらいしか思い浮かびません。
――前橋育英を選んだ理由を教えてください。
高橋 中学時代の2つ上の先輩が3人いて、1つ上の先輩も1人いました。それで、もともと親しみがあったんです。実際に練習を見学にきたのですが、雰囲気がすごく明るくて。自然と、ここでやりたいなと思わせてくれるチームでした。
――昨冬での最高球速は、夏の群馬大会の決勝戦、最後の1球で記録した148キロだということですが、球速はどのような感じで上がっていったのでしょう。
高橋 中学時代は軟式野球をやっていたのですが、130キロぐらいです。高校に入学したときは135キロぐらいでした。1年夏に相当走り込んだら、その成果が1年秋に出て、144キロが出ました。
――昨夏の甲子園の初戦、岩国商戦(2013年08月12日)では、自己最多となる13奪三振をマークしました。そのとき印象的だったのが低めに制球された落ちるスライダーです。あの変化球は、いつマスターしたのですか。
高橋 中学のときです。中学時代は縦のスライダーと、カーブを投げていました。ただ、高校に入って、横に曲がるスライダーをマスターするなど、カウントや打者によって、微妙に調整できるようになりました。今は、基本的にカウントを取るときは横、三振をねらいにいくときは落ちるスライダーを投げています。
――具体的に、どのように調整するのですか。
高橋 握り方と、手首の角度を少し変える程度です。ひねり方を変えたりはしません。スライダーは握りだけ気をつけて、ストレートと同じように腕を振っています。フォークも同じですね。大事なのは、いかにストレートと同じ腕で振れるか。
――岩国商戦のあとの奪三振数は、2回戦は6個(対樟南)、3回戦は5個(対横浜)、準々決勝は10個(対常総学院。リリーフで5回を投げる)、準決勝は7個(対日大山形)、決勝戦は5個(対延岡学園)と、常総学院戦以外はさほど多くはありませんでした。最初の試合は他の試合とどこが違ったのでしょう。
高橋 周囲が三振の数を期待しているのはわかったのですが、疲れがどんどんたまっていく中で、そこを意識し過ぎると、自分で自分を追い込んでしまう。そもそもそんなに三振がたくさん取れるタイプでもないので。だから、三振の数を取るよりも、ゼロで抑えることが大事なのだと言い聞かせていました。
[page_break:記録に惑わされない思考力]2013年の甲子園では、初戦で記録的な好投をし、続く試合であっけなく敗退してしまうケースがよくある。高橋選手がそうならなかったのは、この「思考する力」にあった。荒井直樹監督は、そんな高橋選手についてこう語る。
荒井直樹監督(以下「荒井」) 話し方とかを聞いていると、たどたどしくて心配になるところがあるのですが、意外と自分で考えることができる選手なんです。今日は調子が悪いから、こうしようかな、とか。甲子園の初戦の快投は、コンディションがよかったということに尽きると思います。その後は、疲れもあって、それなりの投球をしただけ。もちろん、それなりの投球で抑えられるということろはすごいんですけどね。
――確かに、インタビューなどを聞いていると、非常に不器用な印象がありますが、投球に関しては器用ですよね。
荒井 ただ、なかなかスイッチが入らないんですよ。「あいつのスイッチは頭のてっぺんにあるんじゃないか。だから、誰も押せない」なんて言われてるぐらいで(笑)。2013年夏の群馬大会もなかなか調子が上がらず、初戦は2番手の喜多川 省吾が投げています。それでも、大会が進むごとに調子を上げ、決勝戦では完封した。しかも最後の打者はMAX148キロの真っ直ぐで三振。あのあたりから、ようやく一本立ちしてきたような感じでした。1年秋の頃は、1試合で10個近くフォアボールを出してしまうようなピッチャーだったんですけどね。
――まだ安定感を欠いていた1年秋と、全国制覇した2年夏、どこがいちばん変わったのでしょうか。
高橋 ひとつにはフォームが安定してきたということがあると思います。1年秋までは体重移動するとき、軸足(右足)が曲がってしまう癖がありました。そうすると、腕を押し込むような形になってしまい、コントロールが定まらなかった。そこを少しずつ修正しました。ただ右膝ばかりを意識してもバランスを崩してしまうので、意識しつつ、でも意識し過ぎないように注意をしていました。
ただし、それは高橋選手が自ら工夫したことであり、荒井監督は、フォームに関してほとんど何も言ったことはないという。
荒井 僕がピッチャーに言うのは、だいたい二つだけです。真っ直ぐに立って、できるだけ横を向いたまま体重移動をし前の肩の開きを遅くする。手をああしろ、こうしろということは何もいいません。そこを言うとおかしくなってしまうので。ボールは手で投げるものなので、どうしたって手は意識してしまう。だから下半身だけを意識するぐらいで丁度いいと思います。高橋にもそこ以外はほとんど何も言っていません。
――甲子園では上がったりはしませんでしたか。
高橋 あんなにお客さんがたくさんいるところで投げたことがなかったので緊張はしたのですが、投げているうちに気持ちが盛り上がってきて。むしろ、いつもより楽しく投げられました。
――そういうタイプには見えませんが。
高橋 今までにない力が出たというか、ものすごく投げすかったですね。
――甲子園では準々決勝の常総学院戦(2013年08月20日)以外、全試合で先発し完投しました。それでいながら準決勝までは自責点0。決勝こそ自責点2がつきましたが、防御率は0.36です。驚異的な数字です。このスタミナの源は何だったのですか。
高橋 もともとスタミナはない方だったんです。だから疲れがあると、朝、起きられなかったり、目覚めが悪かったりしました。なので、毎晩、20分とか30分とか、長目にお風呂に入って、疲れを取るようにしていました。それでも決勝前夜は軽い熱中症で、ご飯も食べられず、目の周りも腫れてきて。決勝戦も最終回は下痢気味で、大変でしたね(笑)。閉会式は、じつはちょっと遅れてしまったんですけど、トイレに行ってたからなんです。
延岡学園との昨夏の甲子園決勝戦(2013年08月22日)、4対3と1点リードで迎えた最終回だった。前橋育英は二死一、二塁のピンチ。9番・奈須 怜斗を追い込んでいた高橋は、捕手のストレートのサインにクビを振り、フォークボールを選んだ。奈須は空振り三振。試合後、高橋は「今後はあそこで真っ直ぐを投げられる投手になりたい」と語っていたが、実は体調を崩していたとは知らなかった。荒井は改めて高橋の潜在能力に驚かされたという。
荒井 いや、たいしたもんですよ。決勝戦、途中「下半身にぜんぜん力が入りません」と言うので「代わるか?」と聞いたら、「大丈夫です」と。そうは言っても、そろそろ限界かなと思っていたんです。でも、5回に3対3の同点に追いついたじゃないですか。あそこからスイッチが入りましたね。高校生のエネルギーというか、眠っている力というのはとんでもないですね。
3年生が抜け、最初の公式戦となった秋季大会で、前橋育英は県大会初戦で太田工に3対4で敗れた。18歳以下のワールドカップ代表に選ばれていた高橋は、試合前日に台湾から帰国したばかりで、この日は3番手として登板。好調時とはほど遠い出来で、5回で5安打1失点だった。
――太田工との試合前日は、寮に戻ったのも夜11時ごろで、当日は第一試合。ほとんど寝られなかったということですが。
高橋 疲れがなかったと言えば嘘になりますが、それを言い訳にするわけにもいかないので、力不足で負けたんだと思うようにしています。
――2年夏で全国制覇し、その後の目標設定は難しくなったりはしませんでしたか?
高橋 正直、モチベーションはぜんぜん上がってこないんですけど、チームを引っ張っていかなければならない立場なので、過去は過去として忘れて、また一からやっていきたいと思っています。
高橋選手はまったく飾ったところのない選手だった。それは彼のもともとの性格であると同時に、じつに前橋育英らしいといえばそうだった。荒井監督が高橋選手の言葉をこう補足する。
荒井 モチベーションが上がらないというのは、自然なことだと思いますよ。だから、そこはそれでいいと思います。周りは「ドラ1候補」だ、「150キロ」だと期待されるでしょうが、こちらもそれに乗って追い込んだら彼も行き詰まってしまいますから。
今後は、伸び伸びとやっていく中で、もう少し下半身を鍛えて、安定感が出てくればいいなという程度に考えています。
高橋選手、荒井監督ありがとうございました!これからも高橋選手らしさを失わず、今後の活躍を期待しています!
(インタビュー:中村計)
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