
無名の公立校、名取北高時代は3年夏の宮城県大会で2回戦敗退。
東北高の2枚看板、高井雄平(当時3年)、ダルビッシュ有(当時1年)がマスコミの注目を集める中、本人曰く、のんびりと野球をやっていたという。
仙台六大学リーグに所属する東北学院大に進学しても、無名のまま3年間を過ごすが、4年春に“絶対王者”東北福祉大を破って大学選手権に出場、一躍脚光を浴びる存在になる。
06年ドラフト会議では希望枠で西武ライオンズ入り、プロ入り後は肩の故障で不調だった11年以外、毎シーズン10勝以上の勝ち星を挙げ、リーグを代表する投手に成長する。
2008年の日本シリーズでは巨人の2勝1敗で迎えた第4戦、被安打4、奪三振10というみごとな完封劇を演じ、これがシリーズ史上12人目となる「初登板・完封勝利」。2勝3敗と王手をかけられた第6戦ではリリーフ役をまかされ5回3分の2を無失点に抑える好投を見せ、シリーズ後にMVPを獲得した。遠投による調整方法や下半身主体のピッチングフォームなど多岐にわたって話をしてもらった。
投球フォームのことを考えるときは調子が悪いとき
――もし、今の考え方や意識を持ったまま、体は高校生の状態で、高校1年生に戻れるとしたら、何をしたいですか?
岸孝之選手(以下「岸」) もうちょっと真面目に練習やってますね。
――もっと意識を高くしてやっていればよかった、というようなことではなくて?
岸 意識を高くしてやりたいんだったら、(高校は)違うところに行っていたと思います。それこそ仙台育英や東北に行こうと思っていたと思いますけど。
――でも、今は、プロ野球で一線級のエースとして投げている。当時の岸投手からしたら、不思議ですか?
岸 不思議ですね、自分でもびっくりしています。ここまでやれるとは思わなかったです。
――東北学院大では早くから主戦で投げて、4年の春には東北福祉大を破って、神宮大会に出場しました。東北学院大の頃は、高校時代とはまた違う意識だったのでしょうか?
岸 大学では、1年から投げさせてもらいました。でも、下級生の頃は高校時代と気持ちは変わらなくて、ちょっと意識が変わったのは大学4年になってからですね。
――あの頃は、ストレートとスライダーがものすごくよくて、今みたいにカーブはあまり投げていなかったような気がします。
岸 いや、投げてはいたんですけど、今ほど遅い球ではなかったんです。それで皆さんはスライダーのほうに目が行っていたのかなと思います。
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投球フォームのことを考えるときは調子が悪いとき
――ピッチングフォームのことも聞きたいんですけど、最近ちょっと変わったかなと思っているんです。
岸 1年目とは多分違うとは思いますけれども、自分の中では変わったという意識はありません。映像で見ればちょっと違うなとは思いますけれども。
――バックスイングが今は内側から上がっているような気がするんですけど。
岸 そうですか。自分ではあまり分からないですが、なるべくこっち(背中のほう)に入らないようにしようとか、そういう意識はキャンプではしますけど、やっぱり本番になると入りますね。でも、昔からそれでやってきましたので。直るなら直したいが、それでおかしくなるんだったらやらないです。
――直そうと取り組んだことはあるんですね。
岸 毎年、意識はしています。キャンプとかそういうときは。
――腕を中に入れないようにしようと思うと窮屈になる?
岸 そうですね。タイミングも合わなくなって。
――投球フォームのことはよく考えるほうですか。
岸 あまり考えないようにしますけど、考えちゃうときは本当に考えちゃいます。
――そういうときはだいたいよくない時ですか?いいときは、本能で知らずに腕を振って、というような感じになっているんですか?
岸 下半身を意識したらこっち(上半身)は勝手に動いていきますね。上はついてくるものだと思っています。
――ステップは考えますか?
岸 体重移動とか、そういうことですかね。昔は若干インステップしていました。
――今はスクエアに真っ直ぐ?
岸 今はちょっとアウトぐらいです。インステップだと横振りになっちゃうというのが3年目ぐらいにあって、やめました。
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全身を使って投げる遠投の効用
――高校生の投げ過ぎが問題になりますが、岸さんの高校時代はどうでしたか。
岸 高校のときはそんなの考えもしなかったですね。毎日ブルペンに入って。
――だいたい50球から100球ぐらい投げていましたか?
岸 学生の頃はそんな感じでしたね。ちょっと1回投げて、試合が近づいたら下げて。それと高校、大学のときは常に遠投していました。
――上原浩治投手(レッドソックス)がデビューした頃、遠投で調整すると言って話題になりました。
岸 やっぱり遠投は大事だと思います。
――遠投の一番のいいところはどこですか。
岸 全身を使って投げられるし、バランスを考えて投げないと遠くに飛ばないので。よくわからないけれども遠投だけは毎日しました。
――距離はどれくらいあればいいですか。グラウンドのどこからどこまで?
岸 ホームからポールまでとか。自分が投げてバッターの人が打ってどっちがホームランにできるか勝負したり、くだらないことをして遊んでいました。
――高校生にも遠投は有効だと思いますか。
岸 それはわからないです。でもやらないよりはやったほうがいいんじゃないかなと思います。やっぱり肩が強くなりますから。
――岸さんはウエイトトレーニングはよくやるほうですか。
岸 プロに入ってから、とくにケガをしてからやるようになりました。
――カーブについても聞きたいんですが、実際にカーブを投げるようになったのは何年ぐらいからですか。
岸 小学校ぐらいからです。今のような、ああいうふうに(スピードが)遅くなったのはプロに入ってからです。
――誰かに教わって?
岸 いや、特別教わったわけではありません。1年目から投げていましたから特別な球とは思っていないんです。大学のときも投げていましたけど、もうちょっと速かったですね。
――抜くような投げ方ですか。手首を返したりはしない?
岸 イメージは抜く感じで。
――では用具選びについても教えてください。グラブ選びのポイントってありますか。こういうグローブを選んでいるとか。
岸 あまり大きすぎないことです。硬さはちょっと硬め。でも普通に使っていたら軟らかくなるので。今、自分が使っているのは、ミズノさんが考えて作ってくれたんです。大きすぎるとしっくりこないんですよね。大きいと、ボールを捕るときの感覚が全然違うし、重いので、今のグラブがちょうどいいですね。
岸投手、ありがとうございました!
(インタビュアー・小関順二)
