埼玉西武ライオンズ 栗山巧 選手(前編)
2001年のドラフト4巡でプロ入り。4年目の05年に85安打(打率.297)を放って一軍に定着し、08年には最多安打王を獲得、リーグを代表する好打者になった。
技術的な探究心が強いことで知られ、一本足、すり足、始動、ステップというタイミングを上手に取るための細かな動きが今回、本人の口から詳細に語られる。
一本足かすり足か、始動はどのタイミングで行うのか、ステップはどのように出すのか、打つときの「回転」は必要か必要でないのか――高校生だけでなく、すべてのバットマンに贈る栗山流バッティング講座を開演します。
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栗山巧選手の“タイミング”
――2008年ぐらいですか、追い込まれたときとカウントが若いときのタイミングの取り方がまったく違うので、すごいなと思って。追い込まれたら始動の動きを小さくして、ステップも小さくという形で。若いときは普通にタイミングを取って振っていくという感じなんですけれども、これは意識してやっていたんですか?
栗山巧選手(以下「栗山」) そうですね。2008年のときは、思い切り足を上げても、タイミングが取れる状態だったのでそういうふうにしていたんですけど、やはり課題は追い込まれてからの打撃をどうするかでした。
それで2008年は、カウント0-0からは足を上げて、2ストライクに追い込まれたら足を上げないでステップするという、それでやってましたね。

埼玉西武ライオンズ 栗山巧 選手
――今年はカウントに関係なく同じ形で打っていると思います。本人の中では微妙に違うんでしょうけど。
栗山 結局のところ、足を上げても上げなくてもバッティングは一緒、左足に乗るかどうかなんです。2008年は途中から足を上げるのをやめたんです。終盤のほうはカウント0-0でも足を上げるのをやめて、小さい動きの中で打ちにいって結構打てたので。
あぁ、足を上げる・上げないというのは関係ないんだと思って。タイミングが取りづらいとか、左足に乗りが悪いというときは足を上げてもいいと思うんですけど、相手ピッチャーも対応してきますので。カウント0-0から緩い変化球、カーブとか縦変化が多くなってきたんです。
それに対応するために動きを少し小さくした。それ以降はずっと、足の上げ幅というのはできるだけ小さくして。今はとにかく小さいところからどう相手に合わせていくか。相手のフォームがゆったりだったら、多少僕も早めにゆっくり足を上げたりとか、微調整はあります。
――2007年頃までは試行錯誤していたということですか。
ね。
栗山 試行錯誤してましたね。デビュー当時(21~22歳)ずっと足を上げて打ってたんですけど、スタメンで出る回数が減って、代打で出場するパターンになったときに、一発でタイミングを合わせなきゃいけないのに、足を上げてたらどうしても遅れてしまう。
投げてくるボールよりも、自分のフォームと勝負するところがあって、それじゃもう対応できない、勝負にならないということで、それでバットを短く持ったりして対応して、2008年にまたバットを長く持って足を上げるフォームに戻したんです。
――軸足に乗る感覚がほしかったわけですね。
栗山 乗る感覚と間合いがほしかったんです。2008年も途中から足を上げ始めました。最初のほうは足を上げていなくて。でも、どうしてもタイミングが合わない。
結局迷ったら1、2の3で振ったらいいやんという話になるんですけど、1、2の3のタイミングで振れないんです。自分のバランスになってるんで。
でも、足を上げたら1、2の3で打ちにいけるので、それで足を上げたりしてたんです。
ステップはどう出すのか?

――結構リスクもありますよね。1、2の3で振ると、向こうがちょっとフォームでワンテンポ遅らせたらついていけないですね。
栗山 そうです。その中でもまずは、自分のフォームのバランスを取るのか、相手との勝負の中でボールに集中していくほうを取るのか。そのバランスをしっかり取りながらやっていて、たまたま足を上げたら打てたという。
――でもそれもリスクが多くなってきたから徐々に、カウントが厳しくなったらやめて、後半はもう若いカウントからもやめて今に至っているということですね。そういう取り組み方は高校生にもできますか?
栗山 できると思いますけど、難しいと思います。チャレンジすることは可能ですし、練習の中でそれをやっていくのは十分に有効。でも、高校生はずっとトーナメントですから同じピッチャーと対戦することがないじゃないですか。
プロ野球は144試合やってれば、先発投手とは少なくてもローテで回ってきたら年間で3回か4回できるんです。ということは最低でも15、6打席は立てるんです。
その中で自分の足の上げ方とかいろいろ駆け引きもできるんですけど。ゲームの中でやっていくというのは、高校生は難しいかもしれません。でも練習の中でそうやって覚えていくのはありだと思います。
――例えば一本足で打つ人は、滞空を長くするとか、相手のタイミングによってどこでステップしていくかとか自分なりに探っていけばいいわけですよね。では、どこで始動するのですか?ステップはどう出すのでしょうか?
栗山 どこで足を上げ始めるかという問題もあるんですけど。早めに足を上げる人もいれば、そうでない人もいる。
ピッチャーが足を上げて下ろすタイミングで、日本の選手はだいたい足を上げます。僕は2008年にやっていたときは、ピッチャーの足の上げと一緒に上げていたんです。
そこでシンクロさせてたんで、ピッチャーの足の上げ幅と僕の上げ幅で勝負していたんです。でもそれじゃクイックに対応できない。だってクイックは足を上げないですから。
クイックと一緒に僕もピュッと足を上げる。ピッチャーの投げ方に合わせて、僕は足の上げ方を変えていきました。
粘りのある間を作るために
――バッティングで一番大事なところを一言で言うと?
栗山 タイミングじゃないですか。理想の打球とかどこに打ちたいとかいろいろありますけど、結局はタイミングが合わないとできないので、最終的にはもうタイミングですね。
――一ステップの出し方というのも非常に重要だと思うんです。高校生なんかだとストレートを想定したタイミングであっさり出す選手が多いけど、栗山さんは粘っこく、探るように出していく。これは非常に大事だと思うんですけど、それはどういう意識でやられているんですか。
栗山 何パターンかあるんですけど、簡単に言ったら“着地”。地面に着きそうで着かないという感じでいく。
その中で大事なのは、爪先からちゃんと下りていくということ。爪先から優しくパッとこう入っていけるように。これがベターンと入ってしまうと、やっぱりバターンとなってしまうので。つま先から入ると、かかとを着くまでに時間がありますから、そこで間合いが取れたりするんです。
なので、できるだけバタンといかずに、イメージとしたらすり足に近いですよね。足を上げるんだけど、すり足に近い形で最後は行く。そしたら粘りのある間になるというか。

――田中将大(楽天)投手も同じことを言っていました。投手でもステップはゆっくりと出す、基本的には一緒ですね。その出し方でピッチャーとバッターは勝負しているというふうに思ってもいいわけですね。例えば田中投手と武田勝投手とでは、当然バッティングが変わるわけですね。
栗山 もちろんです。ただ、腕を振って130キロを切る真っ直ぐを投げる人はいませんし、腕振って150キロの真っ直ぐを投げるピッチャーは、抑えなんかにバンバンいますけど、武田勝さんの場合は、ちょっと擬似体験ができない。
マー君だったら150キロの真っ直ぐがピタッときても、抑えの投手ぐらいの真っ直ぐだと思えばいいとイメージできるんですけど、武田さんはイメージできない。ピュッと腕を振って128キロとか。『何投げてんのやろ』と思うときがありますね(笑)
――ネット裏で見ていて、変化球かストレートかわからないときがあります。あれはバッターも一緒ですよね。
栗山 はい。だから腕を振って128キロのときが調子がいいのか、腕を振らないで125キロのときが調子がいいのかがわからないんです。
他の投手の場合は、145キロとかで投げてきたら、あれ、ちょっとおかしいのかな、探りながら投げてるのかなというふうなバロメーターになるんですけど、絶好調がどこなのかわからないピッチャーというのは非常にやりにくいんです。
――配球を「読む」のと「対応」するのと、タイプは分かれると思うんですけど、栗山さんはどちらですか?
栗山 使い分けますね。明らかにこのカウントはスライダーが多いと思ったらそれを待たない手はないですし、かといって全部が全部配球を読んでいたら、向こうはキャッチャーとの共同作業でくるけれども、こっちは1人しかいないわけですから、絶対裏をかかれるので、そういうときはもう対応でいきます。
――できるだけミートポイントを体に近いところまで持ってきて。
栗山 僕はあまり呼び込む意識というのはないんですけど、結果としてポイントが近いというタイプらしいですね。
――呼び込んでいるつもりはないんですか?
栗山 できるだけボールは長いこと見たいなと思いますけど、自分のイメージしているより、ポイントが近いので。結構前でさばくイメージのときもあるんですけど、結果的には右足の前ぐらいまではポイントがきています。
――それって理想的ですよね。前さばきのつもりでも結果的には体に近いところまで持ってきているんですから。
栗山 そうですね。
(インタビュアー・小関順二)
次回は、栗山巧選手のバッティング講座の後編をお届けします!お楽しみに!