弱くても勝てます 高橋秀実著 新潮社
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書評
皆さんは日々野球の練習に打ち込んでいることと思いますが、それは野球が上手くなりたいという純粋な向上心から始まり、試合で勝つためであったり、甲子園に出場するためであったり、はたまた甲子園で優勝するためであったりしますよね。ノンフィクション作家の高橋秀実さんが5年にもわたり取材を続けた超進学校でもある開成高校は、時間や場所、施設といったさまざまなものを制約された中で、「弱くても勝つ」ためのビックリ仰天のアイデアや練習法で私たちを楽しませてくれます。
たとえば打順。一般的には1番、2番は足があり小技が出来る選手を置き、クリーンナップと呼ばれる3、4、5番は打力のある選手を配置することが多いのですが、開成高校は違います。打順を輪として考え、8番、9番が出塁した時こそがチャンスであると野球部の青木監督は説明します。8番、9番の出塁によって「下位打線が抑えられなかった」とうろたえる相手ピッチャー。そこに打力のある選手が1番に入るので、ヒットが続けば「こんなチームに打たれるなんて!」とさらに浮き足立つ(笑)。2番にも長打力のある選手を置いて、青木監督の言葉を借りれば「ドサクサにまぎれて大量点を取る」野球をするとのこと。
確実性を求める野球のセオリーからはかけ離れているものの、「何かギャンブルめいたものをやらなければ、そのまま終わってしまう」という必死さが手に取るようにわかります。事実、こういった打線を組んで何度も公式戦をコールド勝ちしてきたというところからも、これこそが「開成高校のセオリー」あることがうかがえます。
そして守備についても「ノックの練習をして、虚しくなったんです(中略)。いくら打っても捕れない。捕る前に打球に対してやることがあるだろうと思いまして、理屈で教えることにしたんです」(P33より引用)。すなわち球を捕るという行為には二つの局面があり、一つは球を追いかける局面、もう一つは球を捕る局面があります。球を捕る局面の動作は常に一定で、「機械的」であればよい。大切なことは、球を追いかける局面から捕る局面への切り替えポイントを正確にするということ。追いかけながら捕らなければならない打球がきたときは・・・。「ウチでは『例外』として考えます」とバッサリ。あまりにも単純明快なその理論にアッパレ!と声をかけたくなります。
その他にも「内野は打球が速いから、外野なら安全です」と外野を守る選手がいたり、「球を投げるのは得意なんですが、捕るのが下手なんです」という選手がいたり。それでも「超進学校として知られる開成高等学校の硬式野球部が甲子園大会に出場するまでの道のりを記録しようとしたもの(途中経過)」と冒頭にあるように、何かミラクルを起こすんじゃないかと思わされる開成高校野球部の今後に、ひそかに注目したいなと思っています。