試合レポート

浦和学院vs北照

2013.04.01

試合中の一つのプレー・瞬間のジャッジで大きく結果が変わってくるのが野球である。
今大会、松倉雄太が試合を決定づける「勝負の瞬間」を検証する。

完勝と完敗

 北海道チャンピオン・北照と、関東チャンピオン・浦和学院が対したゲームは1点を争う接戦が予想されたが、終わってみれば10対0と大差がつく形となった。

 「完敗です。投手力も一枚上でしたし、打力も大串(和弥=3年)の低めのボールをしっかりと見極めて、甘いボールを狙われた。浦和学院さんはすばらしいチームでした」と振り返った北照の河上敬也監督。エースの大串が本来のリズムに乗れず、打線も相手エースの小島和哉(2年)にわずか1安打。四球を含めても走者を出す機会が2回しかなくては、どうすることもできなかった。

 勝敗に繋がる最大のポイントは、初回の攻防にあるように思える。
 先攻の北照・河上監督はこの日、ここまでの2試合からオーダーを少し変えてきた。不調だった1番の高山大輔(3年)をスタメンから外し、2番の五十嵐竜太郎(3年)を1番に上げて、2番には同じく不調ながら「チームのために」と西谷圭祐(3年)を下位から上げてきた。さらに9番には打撃練習で好調だったという岡本飛雅(2年)を抜擢した。
 浦和学院の小島と西川元気(3年)のバッテリーは、「特に意識はしなかった」と声を揃えるが、タイプの違う1番打者には注意を払った。

 高山はここまでの2試合でヒットこそ出ていなかったが、初回の第1打席ではファウルで粘るなどして相手投手に球数を投げさせている。それを見て打席に入っていた五十嵐は積極的に早いカウントから打っていた。
 五十嵐が1番に上がったとしても、「初球から振ってくる」と思っていたというバッテリー。相手の狙いを見透かして、初球をファーストゴロに仕留めた。

 最初にアウトを取ったことで気持ちが乗った小島は、2番の西谷と3番の吉田雄人(3年)を打ち取り、1回をわずか9球で終える。「3人で切ることは今日の試合で一番注意しないといけないところだった。その部分では良かった」と話す小島。
 逆に北照は打撃絶好調の吉田の前に走者を出せず、その吉田も初球を引っかけてしまったことで、ゲームの主導権を握ることができなかった。

 1回裏。大串と小畑尋規(3年)の北照バッテリーは、「最も警戒していた」という1番竹村春樹(3年)をピッチャーゴロに打ち取る。小島同様、ピッチングのリズムに乗るかと思われた大串だが、続く2番贄隼斗(3年)にはボールが先行して四球を与えた。
 先に仕掛けたい浦和学院の森士監督は、3番山根佑太(3年)の場面でヒットエンドランを敢行。山根の打球は狙い通り一、二塁間へ転がるが、不運なことにスタートを切っていた一塁走者・贄の足に当たってしまい、守備妨害となる。思わず膝に手を当てて項垂れる森監督。指揮官の一手が裏目に出てしまった。

 立ち上がりは両チームとも主導権を握れないのか?

 そう思われた次の場面で大きな出来事が起きる。「初回が勝負。先制点を取りたかったので(後ろの打者に)繋ぐ気持ちで」と打席に入った4番髙田涼太(3年)が1ボール1ストライクからの3球目をレフトスタンドへ運んだ。
 「あんなに早く点が入るとは」と山形中央戦に続いて4番の援護弾に小島も驚く。さらに指揮官が仕掛けた策の失敗を取り返した意味でも大きな一発となった。

 逆に、「甘い球だった。あれでチームが意気消沈をしてしまった」と河上監督。打たれた大串は、「四球で動揺して自分のピッチングができなくなってしまった」と悔やむ。
 主導権を握った浦和学院は、最後まで北照に流れを渡すことはなかった。

 浦和学院が完勝へと繋げる要因となったのはやはり小島のピッチング。初回の三者凡退と2点の援護で2回以降はスイスイとリズムよく投げる。その小島が唯一ピンチを迎えた4回表が勝負の瞬間。北照にとっても絶好の攻め時だった。


 このイニング先頭は1番の五十嵐。初球を打ち取られた第1打席とは一転、ファウルで粘ってボールを見極め、四球を選んだ。小島に対して足のプレッシャーをかけられる絶好の好機。2番の西谷は2球目に送りバントを決め五十嵐は二塁へ進んだ。打席は3番の吉田。

 だが早めのカウントでのバントで、足を意識する間がなかった小島にとっては吉田の勝負に専念できる状況になったのはプラスと捉えていた。マスクを被る西川が北照・河上監督の思惑を想像する。
 「前のイニングで(自分が)盗塁を刺していたので、それで堅い攻めになったのかなと思います」。

 西川が振り返るのが3回の場面。二死から9番岡本がヒットを放ち、北照は初めて走者を出した。だが、1番五十嵐の2球目で盗塁を仕掛けるもアウトになる。西川も強肩を見せていたことが、直後の4回に繋がったという捉え方だ。

 4回一死二塁で3番吉田の場面に話を戻す。
 小島と西川のバッテリーにとっては相手が堅い攻めをしたとしても、吉田に打たれることが一番怖かった。まさに勝負の瞬間(とき)

 内角の直球を2球続けてファウルを打たせた小島。前半から内角攻めを見せていたこともあり、吉田にも十分意識付けをさせていた。
 そして3球目。マスクを被る西川は「ボールになってもいいので、振ってくれれば」という気持ちで外角へのチェンジアップ。内角への意識が強かった吉田のバットが思わず出てしまい、空を切った。
 「狙っていた」という小島に対して、吉田は体が泳いでしまうような本人にとっては珍しい形での三振。このゲームを象徴しているかのような場面になった。
 続く4番小畑をサードゴロに打ち取ってピンチを切り抜けた小島。逆に北照は走者を出した最後のイニングとなった。

 5回に待望の追加点を挙げた浦和学院。ここでも2番贄がスクイズを一度失敗するという森監督にとって痛恨の策失敗があったのだが、それを贄自身が打ってタイムリー三塁打。
 指揮官の策を上回る選手の取り返しが、浦和学院打線を勢いづかせる要因となっている。そして守備陣に綻びが見え始めた北照に対し、7回の6得点で大差の勝利となった。

 一方、北照にとっては一度も流れを奪えないまま。力を入れてきた走塁も、走者がでなければその術を発揮する場がない。後手に回ったまま、気がつけば大差。これだけ離されてしまっては、ドラッグバントなど走者がいない場面での揺さぶりもできなくなってしまった。
 吉田主将は「自分達の実力不足。技術を身につけて、夏に戻ってきたい」と完敗を痛感。エース・大串も「パワーをつけたい」と決意を新たに球場を後にした。

 

(文=松倉雄太)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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