Interview

県立岐阜商業高等学校 藤田 凌司選手

2013.03.06

第135回 県立岐阜商業高等学校 藤田 凌司選手2013年3月08日

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 18年ぶりに春の聖地に登場する県立岐阜商のエースは、同校の藤田明宏監督の長男でもある藤田凌司投手だ。ほぼ一人でマウンドを守り、伝統校の大黒柱となっている。
 投球の進化も顕著だ。昨夏、松井裕樹投手(桐光学園)の快投に影響を受け、フォームにひねりと躍動感を加えたことが奏功。体幹トレーニングの効果もあいまって球速が数キロ増した。新チームになってから試したスライダーもハマり、昨秋は相手打線を料理してきた。
 では、その安定感の裏には、どんな「準備」があるのだろうか。実は藤田投手、昨秋の明治神宮大会で思わぬ準備ミスをしたそう。苦い経験も踏まえ、この春は万全の態勢で臨もうと努力を重ねる藤田投手にお話を伺いました。

選抜大会で取り入れる新調整法

 十分な準備ができなかった失敗経験をバネにする。藤田投手は昨年11月の明治神宮大会の試合当日、入念なアップができぬままプレーボールを迎えてしまった。そこから学んだのは、試合までの時間の意識と、新たに取り入れた調整法。ジャストフィットな感触を抱く今、「肩をつくる」ことへの心配はない。

肩甲骨のストレッチ

――高校野球ドットコムの3月のテーマは「準備力」ですが、藤田投手は「準備」と聞いて、どんなことを思い浮かべますか?

藤田 凌司選手(以下「藤田」) やっぱり、試合にスムーズに入っていくための準備が一番大切だと思っています。自分の場合、明治神宮大会で、試合前に十分な準備ができませんでした。遠投もろくにできないまま、ピッチングをちょっとだけやって、試合に入る感じになってしまったんです。肩がしっかり出来上がっていなかったので、当然調子も良くなかったですね(2対6で初戦敗退)。そこから、アップとかトレーニングについて、もっと考えるようになりました。

――神宮大会の試合当日、思うような段取りで試合に臨めなかったのはなぜですか?

藤田 試合までの時間が結構限られていたのですが、その短い時間をうまく使えなかったっていうのが理由です。時間が短いということは、知ってはいたのですが…。

――その分、選抜大会では、リズムよく試合に臨みたいところですね。

藤田 それで、センバツで新しく取り入れようと思っていることがあります。1つ目は肩甲骨の運動。ここ最近、肩甲骨を動かすような練習をしているんです。たとえば縄跳びにしても、普通に跳ぶんじゃなくて、肩甲骨に意識を集中させる。単に腕を回すのではなく、(腕を)引くようなイメージで縄跳びをしています。これで肩甲骨が動きやすくなります。2点目は、バットを使って肩を柔らかくするストレッチ。バットを肩に押し当てるんです。こうやって肩に刺激を入れて、温かくしてからピッチングに入ろうと考えています。試合前に、じっくり刺激を入れるんです。
 こうした運動をやる以前は、投げるのにも時間がかかっていたんですが、普段の練習で導入してからは、肩がちょっと早くつくれるようになってきました。肩の状態がスムーズに整うようになっていると思います。

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[page_break:神宮大会前を反省「投げなさすぎた」]

神宮大会前を反省「投げなさすぎた」

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 試合当日のみならず、大会本番までにどう仕上げていくかも、投手にとって大きな課題の一つ。投げ込むべきか、肩を休ませるべきか。藤田投手は昨秋、東海大会が終わってから投げずにいたが、それが裏目に出てしまったという。その経験をもとに、選抜大会までの期間を逆算しながら、「投げるスタミナ」をつけるべく投球練習に励む。

投げるスタミナをつけるべく投球練習に取り組む

――昨年の神宮大会では、慌ただしかった試合直前だけでなく、東海大会が終わってから神宮大会に入るまでの期間も、思うような調整ができなかったようですね。

藤田 はい、東海大会が終わってからしっかりピッチングができないまま、神宮大会を迎えてしまいました。なので、今度は、センバツまでの間にどれだけ肩をしっかり調整できるかっていうのが大事になってきます。

――神宮大会まで、あまり投げなかったというのは、どういう経緯だったのですか?

藤田 東海大会から神宮大会にかけて、期間が2週間ほど空いて、練習試合でも投げなかったので、調整しきれなかったですね。練習試合で登板を避けたのは、あまり無理をしたくないっていう自らの意思もありました。自分の感覚の中で、肩が少し張っているかなっていうのもあったんで。ただ、それにしても投げなさすぎたな、と今は反省しています。

――いわば「ぶっつけ本番」で神宮に向かってしまったという訳ですね。地方大会ではバッチリだった藤田投手ですが、全国大会ともなると様子が違うのですね。

藤田 そうですね。試合までの時間の流れというか、それが地方大会と全国大会では、全然違ってくると思うので。練習試合があるかないかによっても、変わってきますし…。単に地方大会と同じ調整をしていくだけでは、少し違うのかなっていう…。神宮大会のときも結構、大会までの時間の流れが速かったように感じました。

――選抜大会本番までは、どう調整していきますか?

藤田 2月に入ってからは、2~3日に一回ずつぐらいの割合で、軽くですが投げています。投げていないと、やっぱり「投げるスタミナ」がついてこないですね。

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[page_break:「対応力」アップこそ最良の準備]

「対応力」アップこそ最良の準備

 昨秋の東海大会では見事に敵を封じた藤田投手だが、他県の慣れないマウンドでも持ち前の安定感を発揮していた。「準備」について、藤田明宏監督は「『こうだから、こうする』というものがあるかどうか」と問いかけるが、背番号1のサウスポーには、間違いなくそれがあった。

昨シーズンの東海大会で快投した藤田投手

――昨秋の東海大会準決勝では、試合後の囲み取材の際に『(試合会場の[stadium]浜松球場[/stadium]は)マウンドの傾斜があまりない。そこだけは気をつけろと監督から言われていました』と話していましたよね。しっかり対応できたというのは、さすがだなと感じました。

藤田 あのときは、金曜日の公式練習でマウンドを確かめる時間があったんです。マウンドの傾斜がないと、その分、体が浮いてしまうような感じになりますよね。そうすると球も浮いてしまうので、リリースポイントを変えるというか、ポイントを前にするようなイメージで投球するよう心がけました。

――リリースポイントを微調整して、対応したのですね。リリースでの微妙なさじ加減は、どうすればうまくなりますか?

藤田 なかなか難しいですが、逆に、あまりリリースを気にしすぎても、指先だけで投げることになってしまうと思うんですよね。そうすると、ボールがワンバウンドになってしまいます。自分も時々、そういうことがありますが…。なので、それを防ぐために、普段のキャッチボールから全身を使って投げるようにしています。

――全身を使ったキャッチボールが感性を磨くわけですね。最後に、選抜大会を目前にして、メンタル面でのスタンバイはどうですか?藤田選手はあまり緊張はしませんか?

藤田 昨年の夏の甲子園では緊張があったんですけど、今度は周りを見渡しながら試合に臨もうかなと考えています。甲子園だと、いつも以上に観客の方が大勢いますよね。そういう光景も見渡しつつ、スタンドにいる全員が自分の味方だと思って投げたいと思います。

藤田明宏監督より

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 「準備」という話になると、やっぱり「対応力」ということになってくると思いますね。感覚の部分でどう微調整ができるか。自分の中で「こうだから、こうする」というのがあれば対応できる。それを日頃から持ち、どうやって処理するかです。
 「今(自分の体やフォーム、周りの環境などが)こうなっているぞ」というのを感じられて、修正がきくかどうか。そのためには、グラウンド状況や風向きなど、まずは頭に入っていないと対応は出来ないでしょうね。
 (藤田)凌司の場合、甲子園で一度投げて、自分の感覚の中には、そういうのがあると思います。普段、モーションなどもよく確かめながらやっているな、というのも感じています。現状に満足している気配もない。この冬に体が強くなって、その分バランスが変わってくるかもしれませんが、どう折り合いをつけるのかなと注目しています。

 藤田凌司選手、そして藤田明宏監督、貴重なお話をどうもありがとうございました。
 昨夏の甲子園で打ち込まれて以降、理想の投球フォームを追求し、球速や制球力などで進化を遂げてきた藤田投手。性格的にはのんびりしているといわれていますが、自分のピッチングを丁寧に確かめ、「こうだから、こうする」と考える習慣や、それに基づく対応力が、彼の中に血肉化している様子が伝わってきました。間もなく始まる選抜大会でも対応力を発揮して、全国舞台での自身初白星をつかみとる姿を楽しみにしています。

(インタビュー・尾関 雄一朗

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