Column

広島県立祇園北高等学校(広島)

2013.03.02

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 広島市安佐南区にある祇園北高校。歩いて5分はかかる長く急な坂道を上がり切った場所に、この学校の正門はある。祇園北といえば、地元では進学校として名前が通っている高校のひとつ。昨今のクラブ活動でも、科学研究部が全国高等学校総合文化祭、囲碁将棋部が全国高等学校囲碁選抜大会への出場を決めている。

 硬式野球部においては、全国大会への出場経験はないが、過去10年間の戦績を振り返れば、2002年夏は県ベスト4。2009年秋も県で4強入りし、21世紀枠候補にも選出された。昨春の県大会でも8強入りを果たしている。もちろん、部活だけではなく、卒業後は国公立大学に進学する部員が多いだけに、文武両道を目指して入部してくる生徒も多い。

全員がキャプテンのようなチームを目指す

▲就任8年目となる祇園北 大前芳隆監督

 祇園北野球部は安定した戦績を残してはいるが、他の公立校と同様に、限られた練習時間と場所の中で、強いチームを作っていかなければならない。
 1週間の練習のうち、週3回は1時間~1時間半。他の平日も、2時間程度の練習で、18時すぎには練習を終えて完全下校をしなくてはならないのだ。土日は、他クラブが校庭を使うため、遠征に出掛ける。
 限られた環境だからこそ、今年で就任8年目となる大前芳隆監督は、『全員がキャプテンのようなチーム』を目指してきた。

 というのも、学校教員の監督であれば皆そうであるが、学校の行事や会議などでグラウンドに出られない日が多い。練習時間も短いため、会議を終えて帰ってきたら、もう練習が終わりということは日常茶飯事だ。では、どうしたら一日一日が彼らの上達につながる練習にすることが出来るのか。それを求めた結果が、今の祇園北のグラウンドには、ある。
 グラウンドに立っている選手一人一人が、自分が今、やるべきことが明確に、効率良く練習を進めていく。

 それは、全体練習が終わり、彼らが帰宅したあとも続く。キャプテンである上野暁が教えてくれた。

「僕たちのチームは、練習の時間が短いので家に帰ってからも個々に練習しているんです。投手陣はランニング、野手は素振り。筋トレはみんな毎日していますね」

 自分で自分をマネジメントしながら、上達に結びつけていく祇園北ナイン。一体なにが、今の彼らのモチベーションになっているのだろうか。

 「夏の大会に初戦で負けた悔しさからです。先輩たちの代だったんですが、僕らの代の27人が同じように悔しさを感じていました。大会のあと、2年生みんなで『次は俺たちがみせてやろう』って話しをしました。『祇園北高校、史上最高の成績を残そう』って、みんなで決めたんです。高校野球をやるからには、勝ちたいじゃないですか。僕たちはまだあの夏の悔しさは忘れていませんから」(上野キャプテン)

▲秋季大会時のクリーンナップ

 しかし、秋季大会では2回戦で近大福山に5対4で勝利するも、3回戦では広島新庄に0対5で敗戦した。
 秋は4番・遊撃手だった市加裕弥(2年)が振り返る。
「この秋、自分が出来たことは意識して声を出してみんなを引っ張れたということ。出来なかったことは、4番としての結果が出せなかったことです。際どいコースや変化球を芯で捉えられなかった。試合の中で力んでしまったところがありました。この冬は、自分なりに走り込みをして下半身を強くしてきました。バッティングも、スイングとスピードの両方を追い求めるために、朝練習ではロングティーをしていました。僕たちの目標は、祇園北で29期生の名を残す結果を出すことです」

 秋は1人で投げてきたエースの本田祐樹(2年)も春、そして夏への意気込みを語る。
「僕は、勉強も出来て野球もやるんだったら、祇園北だと思って入学しました。私学は強いですが、公立からでも甲子園に行きたかった。ただ、秋はコントロールが定まらず、打たれて負けました。細かいボールの出し入れが上手くできず、変化球の精度も甘かったですね。僕はストレートは125~130キロなので、コントロールで生きていくしかない。冬はそこを磨いてきました」

 部員ひとりひとりが、秋の振り返りから、オフシーズンの計画を立て、そこに向かって取り組もうとしてきたことが、彼らの言葉の端々から伝わってきた。

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[page_break:地味な練習ほど、盛り上がる不思議な練習風景]

地味な練習ほど、盛り上がる不思議な練習風景

 彼らの意識の高さがハッキリと現れるのは、冬場の練習風景だ。通常は、モチベーションも下がるはずのオフのトレーニング。それを、祇園北は、地味な練習ほど、盛り上がっていける。
 30秒のインターバルで1時間かけて行う『階段ダッシュ』、ノックの直後の30分間のダッシュ。休日の3~4時間に及ぶ1人のノッカーに対して3人で回るパートノック。これらの徐々に苦しさが増していくメニューでも、声が途切れることはない。

 その理由を上野暁は、こう話す。
「練習の雰囲気を大切にしようということをみんなが理解しているからです。とくに、冬になったら寒いし、気持ちが暗くなる。だからこそ、みんなで声を出していかに盛り上げることが出来るかが大事だと思うんです」

▲祇園北29期生 上野暁キャプテン

 この声掛け以外にも、祇園北のグラウンドでは、練習中に出たミスをその場で、部員同士で話し合う場面がとにかく多い。上手くいかない選手ほど、周りの部員たちから応援される。練習後の部員同士のミーティングも日々欠かさない。
 部員間のコミュニケーションによる意識の統一こそが、例え短時間の練習であっても、お互いの成長を促すための練習へと変えているのだ。

 祇園北野球部をそんなチームへと導いてきた大前芳隆監督は、部員たちに常日頃どんなことを伝えているのだろうか。
「話しているのは、ありのままのことだけです。きみたちは、ここで野球を学ぶだけではなく、高校生活の間に野球を通じて大切なことを学んでいくんだよ。グラウンドに立つための目的は、勝つためではなく、生き方を学ぶことだよ。それだけですね」

 練習試合でも毎回、全選手を起用しようとするのもそのためだ。
「とにかく、『みんなで頑張ろう』そういう采配ですね。勝ちにこだわり過ぎると選手起用にも偏りが出ると思うんですけど、うちは、とにかく、『みんなで頑張ろう』そればかり伝えています。実際に、試合に出て結果が出れば、こんなに嬉しいことはないでしょ」

 部員数は決して少ないわけではない。今年は2年生だけでも27名いる。それでも、練習試合では全員にチャンスがある。だからこそ、部員たちは、自然と意識が高くなるのだ。チームが勝つために、自分は必要な選手であるということを実感している。

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[page_break:史上最高の成績を残す年にしたい]

史上最高の成績を残す年にしたい――

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 最後に、大前監督は今年のチームについて、こう語ってくれた。
「今のキャプテンの上野の兄も、09年に県で4強入りした時の部員でした。厳しい環境と知っていても、上野と同じように、覚悟してきてくれる部員が増えてきたことは大きいですね。また、素直に耳を傾けてくれる子が多い。やっぱり素直な部員ほど成長は早いですから。
今年の代も、『自主的に頑張ろうぜ』と全員がキャプテンのように動いてくれるチームになりました。ただ、秋は、パワーで流れを変えていく力が足りなかった。でも、その悔しさをバネにみんなが取り組んでくれるので、この夏が本当に楽しみです」

 祇園北高校、史上最高の成績を残す年にしたい――

 部員たちが、昨夏の敗戦後に、彼らが自ら立てたこの目標を大前監督は知っているのだろうか。でも、それを知ったところで、大前監督の言葉や采配は、一切変わらないだろう。
 そんな大前監督の下で、祇園北というチームは、ここまで強くなってきたのだから――。

 冬が終わった。
 祇園北にとって、最高に熱くなるシーズンが今、始まる。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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