小倉全由監督に聞く チームの徹底力の生み方
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これまでに率いたチームでの甲子園出場回数は15回。2011年夏には二度目の甲子園優勝を果たした。圧倒的な打力で全国を勝ち上がった強さは、まだ記憶に新しい。今回はチームの徹底力の生み出し方を小倉監督に伺いました。
日大三の打撃力における徹底力とは
日大三・小倉全由監督
打撃については、自分は選手たちに簡単に伝えるようにしています。例えば、アウトローやインローの球の難しい打ち方を教えるのではなくて、一番打ちやすいボールを打つための正しい打ち方です。
自分のベルトの高さで、自分が一番打ちやすいボールを打てるスイングを作ることが一番確率を上げることではないかと思うんです。自分が打てるボールの高さを逃さないで打っていくこと。だから、各コースに応じた難しい打ち方は教えていないですね。とにかく、自分が打てるベルト寄りのゾーンを正しい打ち方で打つことを重視しています。それを身につけさせれば、十分打てると思いますし、他のコースも打てるようになってくると思います。コースに応じて身体を向けて打っていけばいい。
自分の中で、肘の使い方であったり、手首の使い方は言いますけど、難しいことは言わないですね。誰でも、自然とできるものなんです。ただ、それをいざ18.44メートルから来たボールを打とうとすると、自分のスイングがなかなか出来ないんですね。
まずは、素振りで正しい振り方を身に付けると、正しい肘の使い方が出来るようになる。いいスイングをしたら、褒める。そのあと、今のスイングでいいから、投手が投げたボールを打ってみなと伝えます。それだけでも、打撃は上達していきますよね。
もっと野球を簡単に考えればいいと、よく伝えていますね。
2011甲子園優勝メンバー
左:畔上翔(法政大)、右:横尾俊建(慶応大)
練習法に関しては、ティー打撃もたくさん打ちますが、一番は緩いボールに対して、カーブマシンで一番打ちやすいポイントに合わせて打つ練習をやりますね。ボールが来る位置はいつも同じです。そこを引きつけて正しいスイングで振り払う。
それが自分たちの一番の基本ですね。そこからスイングを作っていきますね。バットを振る1人あたりの量は、相当多いと思います。
なぜ、そこまでみんながバットを振り込めるかというと、みんな、自分が上達したいという思いを持っていると思うんですよね。選手には、よく言うんです。
上手くなりたいなら練習するしかないだろって。自分の人生なんだから良い人生にするのも自分次第で、悪い人生するのも自分次第なんだよと。自分が良くなるためには、うまくなるためには、練習を一生懸命やるしかない。難しいことは何も言ってないですよ。
<参考記事>
実際に11年夏の甲子園優勝メンバーのキャプテン畔上翔選手や、当時の主砲・横尾俊建選手、高山俊選手も素振りの重要性について熱く語っていました。
畔上翔選手が語る素振りの重要性 (11年夏の主将/現法政大)
横尾俊建選手が語るバッティング理論 (11年夏の主砲/現慶応大)
高山俊選手が語るスイングスピードの高め方 (11年夏の主軸/現明治大)
戦術面での徹底を図るために
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2012年秋季大会 準々決勝 日大三ベンチ
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ここ一番で突破口を切り開く場合は、何か動かさなければダメな場面があるじゃないですか。バントで堅くいって、タイムリーが出て勝てる時もあるんですけど、なかなかそれだけではいけない。負けているゲームをひっくり返すときは開き直って思い切り行くしか無い時もある。
試合でサインを出すときに言いますけどね、選手を集めて、『いいかお前ら、このランナーが出たら、このカウントで仕掛けるぞ。でも、アウトになってもいいから、しっかりと振っていけ。結果なんて怖がらなくていいよ』と。選手は、監督が『そういうなら』と楽になって打席に立ってくれる。
小倉という監督は、他の監督に比べて何か特別なことをやっているのか?といわれても、そうではないんです。ただ、選手たちの変化を見落とさないようにやっているだけ。良いプレーをしたら、良かったと褒めて、練習でも、もっとできるよ、さらなる上を目指そうよという声掛けをするだけです。
毎夏、東京都予選の試合中のベンチからは、選手のプレッシャーをとく小倉監督の言葉が聞こえてきます。マイナスな部分に目を向けさせず、思いっきり自分の力をぶつけることに、集中させることが出来る。戦術の徹底といっても、技術的にそれがチームで出来るようになるための普段の練習ももちろんですが、本番で力を発揮させるための声掛けも大事な要素ということですね。
<参考記事>
11年夏の甲子園優勝時の捕手、鈴木貴弘選手も勝ち続けるチーム力の秘訣について詳しく語っていました。
鈴木貴弘選手が語る勝ち続けるチーム (11年夏の優勝捕手・現立教大)
毎年恒例の冬の強化合宿で身に付ける徹底力
この秋は、東京都大会準々決勝(2012年10月20日)で負けてから冬になったので、選手たちは苦しかったと思いますよ。この冬はとことんやるからなと伝えました。泣くまで練習をやって、一番の練習をやったという思いを持って、達成感を味わってほしい。
いつも冬の強化合宿の2週間の中で言うんです。
『合宿が始まる前夜、みんな逃げ出したいという思いがあるだろ?いいんだよ、隠さなくて。逃げ出したい、怖いという思いがあれば、紙に書いてみな』と。それで合宿初日が終わったあとも、絶対に気持ちの変化があるから、その気持ちの変化をまた紙に書いてみなさいと。
ノートには、『最初は想像以上の厳しさだった。3日経つともう身体が動かない』というものばかりでした。でも、1週間ほど経つと、『ここまできたんだ、最後までやり切れるはずだ』という気持ちに変わって、最後の3日前になると、『あと三日だ。身体は限界だけど、最後まで一生懸命にやりたい』と、最終日になるにつれて、前向きな気持ちになっているんですよね。
トレーニング中の指導風景
これをやることで、選手たちは自分たちで追い込んで練習をしたんだという達成感を味わってくれるんです。最終日の光景というのは、30年前の生徒と同じなんですよ。選手たちには、何かを追い込んでやりきった達成感を味わって欲しい。その達成感を感じられた選手は絶対に強くなりますし、人間的にも大きくなってくれる。
そのためには、自分が選手を盛り上げさせられるような言葉掛けをしないといけないですね。55歳になって、以前よりも少しは掛ける言葉が変わってきたかなとは思いますね。
<参考記事>
2010年12月の冬の強化合宿レポートでも、その様子がご覧いただけます。
冬の強化合宿レポート2010年冬 「練習で泣く経験が財産に」
小倉監督が抱く選手への思い
指導の根本は「人として正しく生きる」
自分はね、選手がうらやましいんですよね。自分の現役時代、熱く練習が終わったことはないですし、練習が終わって泣けたこともなかった。自分は、最後の夏に負けた時もそんなに泣けてないですよ。なんとなく終わってしまったなと。だからこそ、グラウンドで、思い切った練習ができるということが、うらやましいんですよ。
それに加えて、日大三を選んで来てくれたのなら、三高にきて良かったと思ってもらいたい。そして絶対に甲子園に連れて行ってやりたい。
自分が、監督して指導の根本に置いているのは、「人して正しく生きる」ということです。やっぱり正しいことは、どこの世界でも正しいですし、人から後ろ指を指されるようなことはよくないので、ルールを守らなければならない。だから、よくいうんですけど、電車に乗っていて、困っている人がいれば、席を譲ってやれよ。それだけでいいと思うんです。そういう日は、練習の動きが非常に良くなっているんです。そうなると、最高の練習ができるわけじゃないですか。
グラウンドだけのことではなく、人ととして、そういう人との関わりを大事にしてもらいたいですね。
また、グラウンドで一生懸命やることを決めたのならば、力を抜かないで、一生懸命やろうということも常日頃から伝えています。一生懸命やれば結果が出てくる。結果が出なければ、練習をする。その繰り返しです。僕はね、いい加減な生き方をする人間が嫌なんですよ。人の足を引っ張るのではなく、自分で結果を残し、這い上がっていく。競争だから、ライバルに勝たないといけないけど、足を引っ張る連中がいるじゃないですか。そうなるのでなくて、人として正しい道を歩んでいるものに良い思いをさせたい。だから、選手たちには、「人として正しく生きる」ということを伝え続けています。
約30年の監督人生の中で、ずっと小倉監督が指導の根幹に置いてきたもの。その軸があるからこそ、選手への指導もブレなかった。また、その言葉通りに生きている小倉監督の姿勢に選手たちは惚れ込むのだ。
『チームの徹底力』それは、ひとつに、指導者自身の覚悟から生まれてくる。また、その覚悟をどう選手たちに伝えていくのか。そのメッセージを受け取った選手たちが、指揮官と同じ目線を持てた時期こそ、チームの徹底力はさらに強まっていく。
もちろん監督だけでなく、選手自身も、監督が考えていることに日々興味を持つことも、徹底力の浸透が速まるポイントともいえる。
(文・編集部)