漫画家 河野 慶 さん ※コピペ用
第126回 漫画家 河野 慶 さん2013年01月14日
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野球漫画「グランドスラム」(集英社)を描く河野慶先生に独占インタビュー!
作品は、野球素人の少年・世界一心が高校に入学して硬式野球部に入り、仲間と一緒に甲子園を目指すお話し。しかし、世界一心が入部してから、神奈川県立美咲高等学校野球部は、まだ公式戦未勝利。一体、チームは強くなるのか?彼らはどう成長していくのか?今後が楽しみなグランドスラム!今回は今後の展望を含め、河野先生自身の高校時代の思い出や、野球経験談を伺いました!
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印象深い、一度きりのファインプレー!
机に並ぶ原稿の数々
――河野先生は中学時代は野球部。高校ではバスケットボール部だったと伺いました。当時は、高校野球に対してどんな思いがありましたか?
河野 慶さん(以下「河野」) 僕は、山口県の宇部商業高校の出身なんですが、“宇部商”といったら、山口県内では強豪校と言われている高校のひとつでした。そのため、学校全体が、『野球部を強くしよう』という機運が高まっていましたね。また学校の中でも中心的な存在で、生徒会長も野球部員が任されていたほどでした。だから、僕は高校の野球部というのは、それだけ注目が集まるのが当たり前と思っていて、他の高校もそうなんだなとずっと思っていました。
――強豪校ならではのエピソードですね。そんな中で、漫画家になられてから、なぜ高校野球を題材にしたマンガを描こうと思われたのでしょうか?
河野 僕は中学校までは野球をやっていましたが、当時は部員数が少なくて、最上級生になれば、全員がレギュラーとして出られるチームだったんですよね。
僕はものすごく下手だったんですけど、試合に出させてもらって、一度だけファインプレーが出来たことがあったんです。その瞬間の時間が止まったような感覚がずっと忘れることが出来なかった。あのときの印象が強くて、いつか野球のマンガを書きたいと思っていました。その中でも、あのシーンを描いてみたいなという思いをずっと持っていたんですよね。
――その時の場面は、今でも覚えていますか?
河野 9回二死一、三塁のピンチで、僕はセカンドを守っていたんですけど、ライナー性の打球がセンターへ抜けそうになった。いつもは、僕はそういった打球をエラーしていたのに、その日は『なんとしてでも、捕球してやる!』という気持ちが強くて、飛び込んだら捕ることができたんですよね。そしたらベンチが大きな歓声で沸いたんです。とても嬉しかった。自分にとって、これが一生に一度のビッグプレーになりました。あのときの喜びをマンガで描きたい。そんな思いがずっと残っていたんですよね。
――では、いつか作品の中にも、そんな場面が出る可能性もありますか?
河野 そうですね、今は分かりませんが、可能性はあるのかもしれないですね(笑)
[page_break:初めての甲子園観戦で見えたこと]初めての甲子園観戦で見えたこと
河野先生に、甲子園を初めて観戦した時のお話しを伺いました。
河野先生直筆の下書き
――河野先生の高校時代の担任の先生は、硬式野球部の顧問だったと伺いました。
河野 そうなんです。僕が高校3年生の時の担任が中富力先生といって、かつて宇部商業が甲子園でベスト4、8まで勝ち進んだ時の当時のレギュラー選手でした。
その時のエースが、秋村謙法さん(法大‐日本石油‐広島‐日本ハム)でした。秋村さんは、その後、パ・リーグの審判員をやられて、地元ではとても有名な方なんです。中富先生は、その秋村さんとバッテリーを組んでいたんですよ。
僕は、その当時、将来は漫画家になろうと心のなかで決めていたんですけど、なかなか口に出せませんでした。だから、ずっと周りには秘密にしていたんです。でも、3年生になってからの進路指導の時に、卒業してからどうしたいかを言わなくてはいけなくなって、初めて先生に『漫画家になりたいので、進学も就職もしません』と言ったんです。
怒られるかと思っていたら、意外にも先生は喜んでくださって、それからはずっと応援してくださいました。
卒業後も、野球漫画を描きたいと言ったら、宇部商業が甲子園に出た時にはチケットをくださいました。甲子園では隣の席に座っていただき、野球の解説までしていただいたこともあります。
――その甲子園観戦で、印象的だったシーンはありますか?
河野 僕が見に行ったときは2005年の夏。好永貴雄君がエースだった時です。あの年はベスト4まで行きました。最も感動したのは、準決勝の試合ですね。
最後は暴投してしまったんですが、その時に観客の人たちが一斉に好永君に声援を送っていたんです。『好永、頑張れ!』『好永、よくやっているぞ』と。その雰囲気が球場全体に伝わって、僕はその雰囲気に感動してしまった。テレビとは、また違う雰囲気で、本当に感動しましたね。
――そういった場面や、甲子園の雰囲気を味わったことで、今までの高校野球のイメージとは何か変化した部分はありましたか?
河野 彼らの勇姿を目の前でみて、僕が高校時代の野球部の仲間たちを改めて見直しました。野球部は、ものすごく頑張っていたんだなと、改めて尊敬しましたね。
当時は、ちょっと怖いなと印象もあったんですが、もっと試合にも観に行って応援すればよかったかなと今では思いますね。
――高校野球や球児への印象が、変わったんですね。
河野 そうですね。野球漫画を描き始めることが決まってからも、直接取材に行くようにもなったんですが、高校球児がとても高校生に見えないんですよね。大人に見える時もあります。毎日、練習が辛くても、充実した一日を送っているのかなと思いました。今の自分も、高校球児に負けないように頑張ろう!って刺激をもらいますね。
[page_break:強いチームの共通点とは?]強いチームの共通点とは?
河野先生直筆の下書き
――グランドスラムを描くにあたって、色々な学校へ取材に行かれた中で、印象に残っている場面などはありますか?
河野 県立校や私立強豪校など色々と回りましたが、どの学校も特徴があり、また素晴らしい指導者の方々に出会うことが出来ました。
その中でも、携帯電話が禁止のチームもあったり、もし誰かが持っているのを見つけたら、選手たち自身で『こういうことは二度と起こらないようにしよう』と話し合える。『もっと練習に集中しよう』と言い合える。選手たち自ら、そういう工夫をしている姿が伝わってきて、心が広いチームなんだなと思いましたね。僕が知っていた高校野球の世界とは全く違う世界でしたね。
――色々なチームと出会った中で、強いチームになるための条件はどんなところだと思いますか?
河野 やはり監督がどれだけ人格者であるかということが大きいと思います。選手に『監督さんに付いて行きたい!』と思わせるには、監督さんの人格は非常に大きなものだと取材をしながら感じることが出来ました。
――実際には、そういったことが出来る監督さんからはどんなことが伝わってきましたか?
河野 自分の子供ように厳しく愛情を持って接することが、絆の強いチームを築く事ができるのかなと思いましたね。
――グランドスラムにある美咲高校のように、限られた環境の中で練習をするチームも全国ではたくさんあると思うんですけど、環境を言い訳にせずに、監督が選手のことを自分の子どものように愛情を持って接することが強くなるチームの秘訣でもあるのでしょうか?
河野 そうですね。漫画では僕たちが出会ったような立派な監督さんは出てこないけど、その分、キャラクターに強い個性を出すようにしたり、主人公である『世界一心』を中心にまとめるようにしていますね。
[page_break:高校スポーツを描くことで伝えたいこと]高校スポーツを描くことで伝えたいこと
原稿のラフスケッチ
――現在、ヤングマガジンで連載中の『グランドスラム』の主人公・一心君が今後、成長する過程でどんなところを高校球児の皆さんにも見て欲しいという思いはありますか?
河野 一心は強くなりたいという気持ちで、野球を始めるのですけど、『弱い自分を克服したいから何かを始める』というのは、いろんな人に共感してもらえると思うんです。
野球だけに限らず、いろんな人がいろんな努力をすると思いますが、一心を通して努力する楽しさと大変さを感じてくれたらと思います
――ちなみに河野先生の高校時代も、同じような心境はあったのでしょうか?
河野 僕は、当時バスケットボール部で、部員は10人もいなくて、練習に来るのは3人の時もありました。それでも、なんでやめなかったんだろう?と振り返ると、バスケットボールが好きだったというのが一つ。もうひとつは、ただの予感ですけど、高校生のスポーツ漫画を将来書く予感をしていたんですよ。それで、高校の部活を続けていたいという思いもありました。その経験が少しだけですが、今の漫画にも出ているのかなと思います。
――高校生が頑張る姿は、河野先生なりに何か伝えたいメッセージもあるのでしょうか?
河野 自分自身、あの時代にもっとやっておけばよかったという後悔がありますね。やっぱり、あの年代が一番、誰かを感動させやすい年代ですし、何をやっていても感動が大きい。
人間にとって一番大事で濃密な時間で、そういう時間だからこそ、勝ちたいと思ってやることが大切だなと気づき始めました。だから、そういったメッセージを込めたいなと思っています。
4スタンス理論×グランドスラム
――グランドスラムでは、廣戸聡一先生による4スタンス理論を漫画に取り入れていますね。とても画期的な試みだと思うのですが、その導入の背景は何でしょうか?
河野 指導者が選手に教えるときはいろいろな教え方があると思うんですけど、もちろん正しいほうが多いと思うんですけど、実はあまり正しくないということもある。でも成功している人がいるんだから、何か信じられる指導方法はないかと探した結果、廣戸先生の4スタンス理論にたどり着きました。4スタンス理論を多くの人が取り入れることによって、上達につながったらいいなと感じています。
もちろん、僕自身も半年ほど廣戸道場に通って、実際にトレーニングした結果、間違いないと感じました。
4スタンス理論は人としての動きが体系化された理論ですので、万人受けすると思います。いずれは野球選手だけではなく、多くのスポーツ選手に読んでもらえる漫画になってほしいですね!
今後の展開は?
河野先生の作業机
――実は、一心君の所属する美咲高校野球部は、まだ勝てないという現状ですが、そこにはどんな意図があるのでしょうか?
河野 そろそろ勝たせてあげてもいいと思うんですけどね(笑)野球漫画で、ここまで勝てないのは、あり得ない展開ですし、かわいそうだと思うんですよね。でも、短期間頑張っただけで、勝てるというのはあまり良くないんじゃないかなと。彼らが真剣に努力したのは、まだ入学して僅か3ヶ月だけですから。
本当に成功している人やチームは、長い下積みがあると思いますし、強豪校は育成理論だけじゃなくて、戦術面、戦略面も優れているじゃないですか。そういうのをしっかりと彼らが標榜する必要があるじゃないかなと。彼らが選手として、チームとして成長を見せていった時に、なにか起こそうかなと。どんな展開になるかは乞うご期待ください。
――今後のグランドスラムでの新しい登場人物も楽しみですね。
河野 読者にとって、憧れのスポーツ選手が出てくるような強烈なキャラクターを描いていければいいかなと思っています。そういうキャラクターの面で、面白さを手がけたらいいなと思います。でも、それが難しいんですよね。
――ありがとうございます。では最後に、河野先生から高校球児のみなさんに向けてメッセージをお願いします。
河野 高校3年間は、人生の中でも一番濃い時間だと思います。だからこの時期に頑張れた人は世の中に出ても、絶対に強いと思うので、ぜひ頑張ってほしいですね!