富士大学 多和田真三郎 投手 (中部商出身)
第125回 富士大学 多和田 真三郎 投手2013年01月13日
第43回明治神宮大会大学の部で、国際武道大を相手にノーヒットノーラン(9奪三振2四死球)を達成。同大会では21年振り4度目という快挙を成し遂げ、鮮烈な”全国デビュー”を飾ったのが富士大・多和田真三郎(中部商卒)投手だ。
181cmの長身。歩幅にして7足はあるというステップから、キレのあるストレートと抜群の制球力で秋のリーグ戦、70イニングを投げて防御率僅か0.51という驚異的な数字を残した。以下参考までに代表的なピッチャーの今季の記録を並べてみた。
氏名(大学) | 防御率 | 被安打率 | 奪三振率 | 与四死球率 | K/BB | WHIP |
---|---|---|---|---|---|---|
多和田真三郎(富士大) | 0.51 | 3.86 | 10.16 | 1.41 | 7.18 | 0.59 |
東浜 巨(亜細亜大) | 1.02 | 6.14 | 11.25 | 1.84 | 6.11 | 0.89 |
三嶋 一輝(法政大) | 0.89 | 4.02 | 10.50 | 1.79 | 5.88 | 0.65 |
田中 将大 (楽天) | 1.87 | 8.32 | 8.79 | 1.09 | 8.89 | 1.03 |
前田 健太 (広島) | 1.53 | 7.02 | 7.46 | 2.27 | 3.89 | 0.99 |
リーグが違うので厳密に比べることは出来ないが、それでも多和田の成績が、ドラフト1位指名を受けた東浜巨と三嶋一輝に引けを取らないほど際立っていたのが一目瞭然ではないだろうか。
※K/BB→三振から四死球を割った数値。この数値が高いと、制球力があり且つ三振が奪える、いわゆる”ピッチャーとしての完成度が高い”と言われる。(ちなみに2012年度のMLBナンバーワンが上原浩治で14.33だった)
※WHIP→被安打と与四死球を足して、投球回数で割った数値。”1イニング当たりに何人の出塁を許したか”ということ。走者を多く出せばそれだけ失点の確率が高くなるので、この数値が低いと、ヒットを打たれにくく且つ四死球で走者を出さない、”安定したピッチングをする投手”といえる。
最速146キロを持ち、しかしその数値以上に打者の手元で伸びてくると言われる多和田のストレート。大学1年生ながら明治神宮大会への切符を手に入れた見事な集中力と精神力。そして多和田の特徴でもある打者の手元で球を離すリリースポイントや制球力を上げる方法など語ってもらった。
ピッチャーは気持ちが大事!

富士大学 多和田真三郎 選手
――秋はリーグ戦の防御率が0.51と成長の証が見えました。
多和田真三郎(以下「多和田」) 春に比べて特別変わったことはしていなかったのですが、秋へ向けて真っ直ぐの精度を上げることには取り組みましたね。あとは4年生が最後ということもあって、気持ちが入りました。
――代表決定戦での3連投では25イニング無失点。多和田投手といえば“連投に強い”が挙げられますが?
多和田 宮里豊(中部商 外部コーチ)コーチからは、マウンドに立ったら絶対に顔に出すなと教わりました。疲れた顔やピンチでの表情など、そぶりを見せないことを、大学でも通してやった結果なんだろうなと思います。ピッチャーは気持ちが大事なんです!
高校3年での夏の選手権沖縄大会。多和田投手は浦添商との延長13回を完投した翌日もマウンドへ上がり、豊見城との延長12回を一人で投げ切った。大学での代表決定戦でも、もちろん疲れはあったというが、この打者を抑えたら神宮へ行ける!という強い気持ちで投げたのだ。
ブルペンでいかに集中して投げるか
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――また、多和田投手といえば何と言っても”制球の良さ”が光ります。制球力を上げる効果的な練習方法はありますか?
多和田 そうですね。人それぞれ感覚が違うので一概には言えませんが、投げる球数も大事だけど、僕はブルペンでいかに集中して投げるかに尽きると思います。
ブルペンで投げていて「 オイ、多和田! 」と言われて「 ハイ! 」と答えているレベルの集中力ではダメだと多和田投手は言う。誰の声も入らないくらい集中して投げておけば、試合での場面によって左右されないピッチャーになれると力説。春の大学リーグ戦ではそれによって一度やられたこともあった。
多和田 例えばインコースに放って死球を与えてしまった打者に対し、次の打席ではもう一度当ててもいい!と思うくらいの強い気持ちでインコースへ投げられるかどうか。それが打者から逃げないことです。
これも多和田の恩師でもある宮里豊コーチから中部商時代に教わったこと。多和田曰く、大学へ入って色々なピッチャーを見てきたが、打者から逃げているピッチャーは少なくないと感じた。打者から逃げないという教えを実行出来ていることが、今の自分の強みになっているんですと続けた。
―― ピッチングでの体の使い方で、今最も意識して取り組んでいることはありますか?
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多和田 軸足への意識に取り組んでいます。似たような体の使い方なんですが、高校の時は意識してなくて(上部写真中)、大学では割った後も、軸足に最後まで体重が乗るような(上部写真右)練習をしています。これにより後ろ足でプレートを蹴る力がついてきました。軸足が流れたら上半身も先に行ってしまいパワーがボールに伝わりません 。

キャッチャーよりのリリースポイント
上半身が先に流れていくと、いわゆる抜けた球やストレートがシュート回転してしまったりと、マイナス点が多くなるという意図を多和田投手は語った。
―― “球を前で離す”ことを課題にしている高校生がそれが出来るようになるために、多和田選手がポイントと考えていること、そして高校生へのアドバイスはありますか?
多和田 そうですね。身体を柔らかくすること、肩甲骨や股割りなどをして股関節を柔らかくすることはやっぱり重要ですね。あとはキャッチボールでしょうか。
そう言って多和田投手は立ち上がった。左の写真のように、かなりキャッチャー寄りを意識して前で離している。取材の前にアップしていただいたが、肩が温まった多和田投手のキャッチボールの球筋は、全て低く伸びていき、おじぎや山なりのボールは一度も無かった。普段のキャッチボールからこのくらいで離しておかないと試合では出来ないと多和田投手は答える。野球はキャッチボールから。改めてこの言葉の意味を思い知る。
多和田 僕は前で離している方だと認識していますが、それでどうやったら前で離せるの?と良く質問されるんですけど、人それぞれの感覚が違ってて当然。だからその人が一番力が入る所でリリース出来るのが一番良いと答えています。
[page_break:多和田投手のピッチングの根幹とは?]多和田投手のピッチングの根幹とは?
――高校時代と大学時代の体幹・上半身・下半身トレーニングなどあれば教えていただけますか?
多和田 高校ではポール間走など、どちらかといえばロングランが多かったのですが、大学では短ダッシュが多いですね。30mを10本とか、20mとといった瞬発系を多くやっています。三嶋一輝(法政大ー横浜DeNA)さんなどと比べると、僕はまだまだドローンとしているなぁと感じます
――他にも400mを60〜70秒で5本走ったり、300mを10本走ったり、大学の練習はとにかくキツイと苦笑いした多和田投手。大学だからさぞかし良い器具を使ったトレーニングをしているのですか?
多和田 いえいえ。僕は高校でも大学でも器具を使ったトレーニングはしていません。動きながらのトレーニングを重視しています。例えばランジトレーニングとかですね。
時間さえあれば誰でも出来るランジ。簡単に出来る練習ほど手を抜きがちになるが、しかし先ほどのキャッチボールでの意識の高さといい、彼の場合は目標を持ちながらしっかりやっているという印象を受ける。それが多和田投手のピッチングの根幹になっている。また、瞬発系をやっておくとピッチングのバネに活かされてくるのだという。
多和田 もちろんロングランも大事。良いピッチャーを目指すなら走ることを疎かにしてはいけないですね。
――マウンドでの意識の持ち方について多和田投手の思いは?

中部商・宮里豊コーチと談笑する
多和田真三郎投手
多和田 僕はマウンドへ上がったら最後まで下りる気は、さらさらありません。ピッチャー=先発完投が僕のイメージ。試合の主役なんです。あえて言えば初回の入り方と後半の7、8、9回は特に大事にしています。大事な試合ほど緊張するのがピッチャー。難しい初回を3人で切り抜けることが出来れば乗っていけますから。
大学野球はDH制を敷くリーグが多く、投手は打席に立つ機会が少ない。しかし高校野球は違う。4番ピッチャーというのは良く聞く話。だが攻撃が表の時ほど、その裏の初回のピッチングに移るときの難しさを感じるピッチャーも多いだろう。多和田投手は中部商時代8、9番を任されることが多かったので適切なメッセージは出来ないとしながらも、初回の大切さを説く。
―― 自分の力を本番で120%発揮するためにどのような考え方を持っていますか?
多和田 何をするにもピッチャーは気持ちが大事です。相手にすごい打者がいたとして、打たれたら……などと考えていたらホントに打たれます。マイナスイメージは絶対に良いピッチングを生みません。
先輩からの言葉:ストレートが良いピッチャーほど、嫌なピッチャーはいない!

「変化球のおすすめはカーブ」
―― 多和田投手のピッチングを教えていただきたいのですが、変化球はどれほど持っていますか?またこれを磨いておけばピッチングが楽になるというお勧めの変化球はありますか?
多和田 そうですね。カーブかな。カーブだとカウントを取りやすいし、それでストライクを取れれば真っ直ぐとの緩急の差を利用出来る。組み立てが楽になりますよね。
多和田投手のカーブの速度が105Km。ストレートとの差は実に35~40Kmもの差になる。それに三振を奪える武器というスライダーと、本人曰く芯を外すためのシンカー気味のフォークで変化球は十分とのこと。しかしその変化球を最大限活かすために必要なのが、やはりストレートなのだ。
多和田 同じ中部商の先輩で尊敬する山川穂高さん(今季の富士大主将)から、ストレートが良いピッチャーほど、嫌なピッチャーはいないと教わりました。これからも真っ直ぐ中心に鍛えていき、変化球は増やすつもりはありません。
回転の良いボールは当てられてもファールになりやすい。その逆の棒球が持っていかれる。さらに多和田投手は同じフォームから145Kmのストレートと135Kmのストレートを投げ分けている。元々力強さを前面に押し出しての投球フォームではないため、全体的に少し力を抜いてやれば出来ると語った。
高校生へのメッセージ
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―多和田投手を目指す高校生もたくさんいると思います。最後にそんな彼らにメッセージ、アドバイスをいただけますか?
多和田 練習は絶対に自分を裏切らない。一所懸命やっているのに結果が出ないとキツイと思うときもあるだろうけど、続けていたら結果は出てくる。練習で一番キツイのがピッチャーだけど、その分試合に勝ったときに一番嬉しいのもピッチャー。やりがいのあるポジションだと思います。
孤独という言葉も聞かれる場所がマウンド。ブルペンでは良い球を放っているのに試合になると・・・というピッチャーもいる。だからこそ気持ちが強くなくては務まらないポジション。それがピッチャーなんだと多和田投手は語ってくれた。
多和田真三郎投手、そして快くグランドを提供していただいた中部商の宮城隼人監督と宮里豊コーチ、ありがとうございました。今シーズンの多和田投手と、母校・中部商のご活躍を期待しております。
(取材構成・写真:當山雅通)