履正社vs大阪桐蔭
力投する履正社の先発・東野
3度目の正直
9回二死。最後の打球が力なく三塁手のグラブに収まった。その時、履正社の優勝が決まったと同時に、大阪桐蔭の公式戦連勝が38でストップした瞬間でもあった。
「今日は(完投した)東野がよく投げてくれたと思います。攻めるところできっちり攻められていたし、試合中とにかく粘れと言い聞かせていましたから。(今夏の決勝戦で打たれた時の)意地もあったんじゃないでしょうか」と、履正社を率いる岡田龍生監督が振り返った。
優勝の立役者は、まず1失点完投した背番号10の東野龍二だろう。強打の大阪桐蔭を相手に、速いストレートとチェンジアップをうまく組み立て、7安打されながら要所を締めた。
激戦となった今夏の大阪大会の大阪桐蔭との決勝戦。東野は0対4とリードされた三番手投手として4回途中からマウンドに立ち、3回2/3を投げて3失点を喫した。この回だけで計5失点。
さらに突き放される場面を作ってしまい「悔しさしかなかった」と東野は振り返る。チームは今春、今夏と大阪桐蔭に立て続けに破れており、この試合にも当然期するものがあっただろう。
だが、履正社ナインは意外と冷静だった。「チーム全体的には特別な意識はなかったです。今日はリベンジするんだ、というよりひとつの公式戦として挑みました」(東野)。今年に入って負けのない強敵を相手に「ピンチでも焦ることがなく抑えられるという気持ちで投げました」と東野は笑顔をこぼした。
優勝旗を受け取る履正社の主将・沖田
そして、この試合を分けたもうひとつのポイントがある。
3回表の大阪桐蔭の攻撃。履正社は無死満塁のピンチを迎えた。ここで迎えたのは強打者の3番・森友哉。だが冷静に森をピッチャーゴロに打ち取り、続く4番の近田拓矢はセンターに大飛球を放った。センターの長谷川成哉が捕球し、どう見ても犠牲フライかと思われた。ところが、長谷川の好返球でホームを陥れた辻田大樹がタッチアウト。同点になるピンチを切り抜けたのだ。
「打者が近田だったので、外野に飛んでくるという覚悟はしていました。肩には自信はありますが、正直刺せるかな…という不安はあったんです。自分では“まさか”という気持ちでしたが、アウトにできたことは嬉しかったです」(長谷川)。
走者がたまっていた場面でもあり、ここでもし同点にされていたら、流れが一気に変わっていたのかもしれない。
以降、大阪桐蔭は6回に代打の村上智也のタイムリーで同点にしたが、7回に2番・吉田有輝と3番・宮﨑新の連続タイムリーで2点を挙げ、勝負を決めた。大阪桐蔭もチャンスを幾度かものにしたが、あと1本が出ず、9回もあっさりと3人で攻撃を終えた。
昨秋からの大阪桐蔭の“1人勝ち”をようやく止めることが出来た履正社。最後まで冷静かつ平常心で戦い抜いた履正社の戦いぶりは見事だったが、この2校のマッチレースは来春、来夏も続いていくことだろう。
一方、約1年ぶりの公式戦での黒星を喫した大阪桐蔭。
「相手と同じ7本のヒットを打っても、細かいミスなども多かった。まだまだ課題が多いということです」と西谷浩一監督は厳しい表情を見せた。
だが、「この課題をしっかり近畿大会で生かしたい」と前を見据えた。夏の甲子園終了後、世界選手権で不在だった森がいないままチームはスタートし、森が世界選手権から帰国後に間もなく公式戦、国体とハードスケジュールの中、秋の大会を勝ち抜いた。突貫工事のまま勝ち進んだ部分もあったかもしれないが「チームとしてのかたちが、ようやく見えてきた感じ」と指揮官。この敗戦を良い薬にし、次の舞台でさらにパワーアップした戦いを期待したい。
(文・写真=沢井史)