沖縄水産vs那覇西
戦況を見つめる沖縄水産ベンチ
14安打8得点のスコアに見え隠れする走塁ミス。
何度も栄光を手にしてきた沖縄を代表する古豪沖縄水産。対するは3回戦進出が最高の那覇西。2009年の夏と秋にぶつかっている両者だが、どちらも沖縄水産の圧勝で終わっている。しかし今回だけは、今までの流れと違う”何かが起こりそうな”可能性を那覇西は持っていた。今年の夏の選手権で那覇西18年振り4度目の3回戦進出を果たし、新チームに移行しての地区予選を1位で通過し新人中央大会への出場に導いた立役者である、サウスポー具志虎河(ぐし・たいが)というとっておきのコマがあるのだ。沖縄水産と比べると個々の体力・能力では劣る那覇西の勝利のカギは、具志一人に託されたと言っても過言ではなかった。
古豪らしからぬボーンヘッド
沖縄水産・玉寄勢と具志の両サウスポーが先発。玉寄勢はノーワインドアップから前足を約3秒ほどかけてゆっくりと上げていきそこから一気に解放。球速こそ125kmほどではあるが、同じようなフォームから90km台の緩いカーブを織り交ぜ、打者のタイミングをずらす貫禄のピッチングで5回までに打たれたヒットは僅かに1本。三塁を踏ませない。
一方の具志は、各打者への殆どがスリーボールとなるが要所を抑えていく。これはしかし、逆に制球力に自信を持っているから早いカウントではギリギリの球で勝負を仕掛け、相手の打ち損じを狙っているのだろうなという印象を受けた。
沖縄水産は3回、先頭打者がレフトオーバーの二塁打を放つ。力が入り過ぎた具志のワイルドピッチで無死三塁と絶好の先制のチャンスを得る。次打者をショートフライに打ち取った具志だったが1番に四球を与えてしまい一・三塁とピンチを広げてしまう。だがここで古豪沖縄水産らしからぬボーンヘッドが具志を助けてしまう。
沖縄水産・山城学監督
「彼からは中々点は取れないだろうなと覚悟していました。前半のチャンスで1点取りに行くかどうか考えたのですが。。。非常に良いピッチャーでした。」
無死三塁の時点でスクイズをするか迷ったが、まだ序盤。アウトになっても1番に回るということで打者に任せたところ結果チャンスは拡大。ここで沖縄水産ベンチはエンドランを指示。打者は空振りしてしまうがそこも織り込み済み。例え空振りしても一塁走者が盗塁という形で二・三塁にしてしまえば良いし、キャッチャーの送球次第では三塁走者がスタートを切れば良いのだ。無論成功したならば、ゴロGo!で本塁へ突っ込むだけ。だが空振りのあと三塁走者は三本塁間の真ん中近くまで走ってきていた。判断のまずいボーンヘッドに対し那覇西は落ち着いて挟殺に成功。助けられた具志も渾身のボールで次打者を空振り三振に斬り、このピンチを乗り切った。
沖縄水産打線を苦しめた具志虎河
だが沖縄水産の走塁ミスはこれで収まらない。今度は5回、ツーアウトから二つの四死球で一・二塁とすると打球はショートへの深い当たり。レフトへ抜けると思ったのか二塁走者は三塁をオーバーラン。ショートのプレーを見ていたサードがすかさず塁へ戻り、察知し帰塁しようと滑る走者へタッグアウト。さらに6回、一死一塁から打球はライトライナー。だが一塁走者がセカンドへ向かって走っているではないか!ライトから一塁へ転送されての併殺。この場面を一緒に見ていた某氏も「まるで少年野球だね。」と苦言を呈するお粗末なミスの連発で、得点チャンスを潰していった。
こういう荒い野球をしているとそのうち痛い目を見る。案の定那覇西はその裏一死一・三塁とこの試合初めて三塁へ走者を進める。次打者はニゴロとなるが三塁走者が思い切りの良いスタートを切り生還!だがここも、セカンドからの送球が三塁方向へ逸れずストライクならアウトだったろう。とにもかくにも先制は終始押していた沖縄水産ではなく、ワンチャンスをものにした那覇西となった。
那覇西と具志の課題が浮き彫りになった終盤
先制されて追い付きたい沖縄水産は7回表、ニ死二塁として8番義間強太がセンター前に運ぶ。二塁走者が三塁を蹴るがタイミングはギリギリ。
だが那覇西の中継が逸れて同点、試合をすぐに振り出しに戻す。なおニ死二塁として代打を送る沖縄水産だが、ここは具志がカーブで空振り三振を奪い何とか最小失点で切り抜けた。
だが那覇西の健闘もここまで。1回戦での北中城戦でも8回途中で「 力が入らなくなって 」変わった具志は、やはりこの試合でも7回まででいっぱいいっぱいだった。8回からマウンドに上った比嘉星太だったが、1年生には荷が重かった。一死一・三塁から4番當銘幸太がライト前へ逆転タイムリーを放つと、後続がキャッチャーの打撃妨害と二つの内野安打で得点しつつ満塁のプレッシャーを与え続け、先ほど同点タイムリーを放った義間が右中間への2点タイムリー!一挙5点を加え試合を決めた。
一度手に入れかけた大きな魚を逃してしまった那覇西。だがその実力は誰もが認めるほどになってきている。しかしこの先さらに上位を狙うには、エース具志の球速アップとスタミナアップが求められるだろう。身長160cmを僅かに超えるほどの小さな体に多くを求めるのは酷かもしれないが、投手としての質はかなりのものを持っているゆえに、もう一段階上のレベルを期待してしまう。打者も一気に5,6点を取るというわけにはいかないが、1点でも多く奪えるよう、この冬トレでのパワーアップと走力・走塁に力を入れて欲しいと願う。
沖縄水産先発・玉寄勢龍聖
沖縄水産・山城学監督
――振り返って――
「ピッチャー、前半ですね。玉寄勢が良く投げてくれたかなと。この前の1回戦もそうなんですけど先発の彼がゲームを作ってくれたので。今日の試合は先に点を取られたんですが、打つ方が後半(8、9回)しっかり取ってくれたので良かったかなと。特に作戦は無かったけど、打てる球がきたらとにかくしっかりスイングしなさいと。その結果がどうあれ自分が今、目の前にあることをちゃんとらやりなさいとだけ指示しました。」
――苦しめられていた具志の降板後に大量得点――
「ピッチャーが変わったことにはそんなに考えなかった。ただもう8回9回というだけで。7回に追い付いたんで、とにかく勝負だと。(そしたら)繋がってくれましたね。4番の當銘がタイムリー打ってくれて気持ちが楽になりましたね。これまで中々結果は出ていないんですが、自信つけてくれたら良いと思います。」
――走塁のボーンヘッドに――
「ホントはですね(手の平を真っ直ぐにして喉元へもってきて)ここまで来ているんですけどね。片目つぶってます(苦笑)。一死一・三塁で飛び出したのも、二塁からサードをオーバーランしてアウトになったのもおそらく同一人物(義間)なんですけど(苦笑)。良くやるんですけど、でもその分打ってくれるので(同点タイムリーとトドメの2点適時打)。逆に勉強してくれたらなと思ってます。」
(文=當山雅通)
沖縄水産 | TEAM | 那覇西 | ||
守備位置 | 氏名 | 打順 | 守備位置 | 氏名 |
捕手 | 伊良皆真夢 | 1番 | 三塁 | 石川裕也 |
遊撃 | 金城竜次 | 2番 | 二塁 | 前川拓也 |
左翼 | 末原昴岳 | 3番 | 投手 | 具志虎河 |
一塁 | 當銘幸太 | 4番 | 遊撃 | 中村謙太 |
右翼 | 玉城悠利 | 5番 | 右翼 | 宮城知史 |
投手 | 玉寄勢龍聖 | 6番 | 左翼 | 上原宇行 |
二塁 | 長田佳祐 | 7番 | 一塁 | 赤嶺大和 |
三塁 | 義間強太 | 8番 | 捕手 | 津覇健司 |
中堅 | 屋比久竜生 | 9番 | 中堅 | 安原太成 |