大阪桐蔭vs東洋大姫路
悔しいマウンド・横田徹寛投手(東洋大姫路)
挑んだ2年生左腕!掴んだものは・・・
球数104、被安打8、奪三振3、与四死球3、失点6。
大阪桐蔭に挑んだ東洋大姫路の左腕・横田徹寛(2年)が残した投球内容である。
これは最後まで投げ切ってのものではない。降板した4回までの数字だ。
特に目立つ球数“104”という数字。その3分の2は、6点を奪われた1回と2回で費やしたものだった。
「県大会が終わって、(近畿大会の相手が)大阪桐蔭さんと決まり、横田でいこうと決めて準備をさせていた」とこの日の投手起用を説明した東洋大姫路の藤田明彦監督。
前々日(金曜日)に行った練習試合では、1イニングを完璧に抑えていたという。だから決して調子が悪いわけではなかった。
だが1回のマウンド。大阪桐蔭の1番大西友也(3年)に対して投げた球が、この日の流れを決めてしまった。
大西に対して、1球目はボールの後、2球続けてストライクで追い込む、しかし大西はここから2球ファウルを続けた。横田にとっては、空振りが取れていないことが、少しずつ堪え始める。
気がつけばフルカウント。勝負にいった球がボールとなり、完全に流れは大西のものとなった。
迎えた11球目、横田の投じた直球を弾き返すと、打球は足元を抜けてセンター前に転がった。
「彼(大西)はホントに良いバッターですね。粘られたあとに、勝負しにいった球がボールとなって、横田は少しガックリきたのだと思います」と振り返った指揮官。
ここから2番白水健太(3年)と3番森友哉(2年)の連打に失策が重なって大阪桐蔭が先制した。
さらにこれだけでは終わらない。4番の近田拓矢(2年)が1ストライクから死球で出塁した。この近田は180センチ82キロと大きな体ではあるが、公式戦はこの大会が初めてのベンチ入り。もちろん打席も初めてだった。マウンドの横田は同学年ながら、昨秋から公式戦を経験している。ここはその経験という強みを生かしたかったが、立ち上がりの流れが少し怯みを生んでしまった。
結局この回は8番妻鹿聖(3年)にタイムリーが出るなどして計4失点。打者一巡で、左腕は41球も投げさせられていた。
甲子園後初登板の藤浪晋太郎(大阪桐蔭)
気持ちを切り替えよう臨んだ2回のマウンドは、大西を初球レフトフライ、白水も三振と簡単に2死を取った。しかし3番森に対してはストレートの四球。そこから3連打を浴びせられ、ゲームは6対0となった。このイニングは35球で、計76球を投じた横田。
「県大会では取れていた空振りがファウルにされたりした。(大阪桐蔭との)レベルの違いを見せつけられた感じで、苦しかったです。勝負の球がボールとなったり、(余計な)四死球を出したりして、ガクッと気持ちが沈んでしまうのが欠点だったのですが…」と悔やんだ。
しかし彼はまだ2年生。
「打たせて取ろうと」いう気持ちになった3回と4回は三者凡退。球数が100に近づきながら、しつこくて強打の相手打線を抑えたのは見事だ。
この日の藤田監督は、大量失点にもすぐに代えようとせず、あえて中盤までマウンドを任せた。その裏には、『この状況で何かを掴んでほしい』という願いも見え隠れする。
今年の兵庫県ではここまでの打線を持つチームは皆無に近い。だからこそ、横田が話した『レベルの違い』を肌で実感でき、これが良い経験になったと割りきって、次の舞台へ向けて取り組んでほしい。
最後に大阪桐蔭は、6回からエース藤浪晋太郎がマウンドに立った。春の選抜大会決勝が行われた4月4日以来となる実戦の舞台。
優勝投手の名前が[stadium]明石球場[/stadium]にコールされると、『キャー!』という女性ファンの歓声があがった。背番号1は久々の登板に気持ちが高ぶり、グランド整備があるのに気づかずマウンドに向かいかけた。すぐに気付きベンチ前に戻ったが、常に笑顔だったのが印象的だ。とにかく投げるのが楽しくて、しかたがないという表情で投球練習を開始した。
結局2イニングを投げて、球数24、打者6人、被安打1、奪三振0という内容で無失点だった。
「今日は8割くらいのデキで、指先の感覚を確かめながら投げました。(選抜が終わってからも)走り込んだことと、体幹を鍛えたので、フォームが安定してきたと思います」と再出発のマウンドを振り返った。
そしてゲームセットの瞬間、さりげなく打者のバットを拾いあげ、東洋大姫路の選手に手渡した。広い視野で気配りがあると感じられたこの日の藤浪だった。
スターティングメンバー
【東洋大姫路】
7林大地、9大西邑治、8中島廉太、2片山幸春、5西川大世、6中川広希、3西村裕太、4大澤亜門、1横田徹寛
【大阪桐蔭】
4大西友也、8白水健太、2森友哉、3近田拓矢(きんでん・たくや)、7安井洸貴、5笠松悠哉、9水本弦、6妻鹿聖、1澤田圭佑
(文・写真=松倉雄太)
(文・写真=試合シーン61~87・中谷明)