東芝 林 裕也選手
第94回 東芝 林裕也選手2012年02月27日
2005年夏の甲子園で連覇を成し遂げた駒大苫小牧(南北海道)。そのチームをキャプテンとして率いていたのが、林裕也選手。高校卒業後は、駒大に進学。そして現在は、社会人野球の東芝でプレーしている。
今回は、「夏予選まで残り100日のカウントダウン」をテーマに、駒大苫小牧高時代の取り組みや当時のチームの雰囲気。また現在、社会人野球の強豪・東芝で野球をする中で改めて学んだことを語っていただきました。
僕たちは、本音でミーティングをしているか?
“現在は社会人野球の強豪・東芝でプレーしている”
――林選手が高校2年夏、3年春そして最後の夏と3季連続で甲子園に出場を果たしました。初めて甲子園で優勝した夏のあとすぐにキャプテンに就任した林選手ですが、新チームのレベルとしてはすでにスタートした時から高かったのでしょうか?
林裕也選手(以下「林」) 僕らの代は、前の年に甲子園で優勝を経験した選手が2人しかいなかったんです。秋の大会で優勝もしたけど、それは甲子園の勢いがあったからで、実際に翌春のセンバツに出て戦っても、2回戦では1安打完封で負けて帰ってきました。
そこで、自分たちのチームの力の無さを改めて痛感しました。それでも、毎年春っていうのは、駒大苫小牧にとっては、まだ通過点の時期なんです。常に、夏に照準を合わせているチームなので、当時もセンバツではなくて、「夏に勝てるチーム」になるための練習をしていましたね。
――3・4・5月の練習試合では、どんな意識でチームで取り組んでいたのでしょうか?
「林」 僕らのチームでは練習試合が終わるとベンチの中で、その日の試合の「良い点」「悪い点」を全部ノートに書くんですよ。
それで、帰りのバスの中や、自分たちのグラウンドだったらその場で選手だけで集まってミーティングをやりました。反省点を言い合って、それを選手だけで解決していました。
――なぜ、選手だけでミーティングを行っていたのですか?
「林」 やっぱり実際に試合をするのは僕たちなので、僕らがどう感じて、次はどうすれば良いかというのを自分たちが考えなくちゃいけないんです。監督さんもそういった意向でした。
そのミーティングを仕切る人も、毎回変えていく。僕は主将でしたが、僕だけが話すのではなくて、他の仲間に仕切らせてみんなで話し合っていました。試合っていつ、どこにボールが来るか分からないじゃないですか。だから、全員が色々なことを把握していなければならないと思うので、小さいことでも全員で解決できるまでミーティングをやるんです。
――実際に、ミーティングでは、どんなお話しをされたのですか?
「林」 とくに僕らは、カバーリングや走ることについての指摘はお互いに厳しかったですね。そこで指摘されたことは今、社会人になっても役に立っているので、あの頃、やってきたことは間違ってなかったのかなと思います。
他にも細かいプレー、めったに出ないプレーも、その場で話し合ったりしていました。夏まで残り一年もない中で、いかに不安をなくしていくのか。練習試合は、改善すべき部分が出てくる場なので、その試合で気づいたことをノートに書き記して、みんなでチームを作っていくんです。もめる時は、本当にもめてケンカになったこともありますよ(笑)
僕らの代なんか、下級生に「先輩は、もう試合に出なくていいと思います」とか言われてましたからね。
――そういったことを学年関係なく言い合える雰囲気というのは、林選手の代からですか?
「林」 違います。僕が入学してきた時からそういうことを言い合える雰囲気がチーム内にありました。それは、僕らの先輩たちがつくってくれた雰囲気でもあるので、そういった伝統を僕たちが引き継いで結果的に甲子園で優勝することができただけの話しです。
だから、「駒大苫小牧の優勝」って僕たちだけの力じゃなくて、先輩たちが作ってきてくれたものの結果だと思うんですよね。
仲間から言われて、心が痛むんじゃないか?って思うかもしれないけど、全員が「勝ちたい」っていう思いを持っているから、ミーティングで本音で言い合っても、受け入れられるんだと思います。
メンバーも監督の目線でチームを見ているか?
“夏までに不安をすべてなくしました”
――これから4~6月の間で、レギュラーを取れる人、またはレギュラーを取れない人の差はなんだと思いますか?
「林」 (高校時代)僕たちの代でも、春はレギュラーだったけど、夏にレギュラーを外れてしまった選手もいました。レギュラー争いは、常に激しかったですね。春の甲子園で1桁の背番号つけていても、夏はベンチ入りできないなんてこともある。
やっぱり最後の夏は、チームで戦うって考えた時に何が必要か?って考えると、情ではなくて、力のあるやつを入れざる得ないんですよね。
力のあるやつっていっても、野球が上手い選手ばかりを入れておけば、強いチームが成り立つわけでもなくて、役割があると思うんです。
そのチームのカラーにもよると思いますが、どういうことが望まれているのか?ということに早く気付くこと。3年間もいれば、それは分かると思うので、自分の技術も磨きつつ、周りを見て求められてるものを感じて、それも同時に磨いていく。
それが、打つ守るとか目立ったものでなくても、自分で磨いた武器が、チームにとって必要と思われるのは嬉しいじゃないですか。
――常に「何がこのチームに足りなくて、何が必要か」を意識して練習に取り組むのは、大切なことですが、難しいことのようにも感じます。駒大苫小牧の選手たちは、それが出来ていたのでしょうか?
「林」 そうですね。打つとか投げるとかは一番大切なことだけど、それプラス、そういったことも意識しながらやると、レギュラーになる近道になるんじゃないかなと思います。
難しく感じるかもしれないですが、監督さんと話したり、選手同士で話したりする中で感じると思うんですよね。
僕はキャプテンという立場だったから、そういう部分を見ざるを得なかったんですけど、他の選手が意識して取り組んでいることも見ていたので。僕らのチームは、みんな選手目線でありながら監督の目線で、チームを見ていた部分もあったんだと思います。うちのチームはみんなが監督というか、キャプテンみたいなチームでしたね。
――いま、高校時代を振り返ってみて、なぜ甲子園で2年連続で優勝することが出来たのでしょうか?
「林」 やるべきことはやりました。高校3年間を振り返ってそう言い切ることが出来ます。
夏の大会までに、僕たちの不安はすべて無くしました。それまでに、試合をするたびに感じた不安をお互いに言い合って、それを夏の大会前までにみんなで全部クリアしました。その分、僕たちは他のチームよりも話し合いの時間が多かったと思います。
練習量にこだわるといっても、それはどこのチームでもやること。実際、僕も不安だったので、毎日自主練をやってました。部活が休みの日で、みんなが出掛けている時も、室内練習場でバットを振ってましたね。
レギュラーになれるか不安だったという気持ちと、自分が何としてもみんなを甲子園に連れて行く。そういう思いでやってました。
残り100日で上達するためには?
“自分の持ち味は何かを常に考える”
――高校野球は、夏の予選まで残り100日、この時期に上達するためにどんなことに注力して取り組んだらいいでしょうか?
「林」 3~5月も、僕たちは全体練習で、ひたすらバットを振りましたね。駒大苫小牧は、メンバーごとに分けて練習をしたりしないんです。だから、部員が100人いたら、100人で練習する。
他のチームって、20~30人にメンバー絞った練習をすると思うんですけど、僕たちは全員が出来るように工夫をしながらやっていましたね。ティー打ちなら、何箇所もティーが打てる場所を作って、連続打ちしたり。大体、20球×20セット打ったり、10球を分刻みで打ったり、なんだかんだ1日1000球はバットを振っていました。
というのも、僕たちはスイングスピードを大事にしていたんです。やっぱり高校野球はバットを振る力が無いとダメだと思うんですよね。パワーをつけたり、スイングスピードをいかに上げられるかということにこだわって、バットをひたすら振ってました。
――守備に関しては、どんな練習をしていたのですか?
「林」 高校時代は、雪の上でひたすらボディでボールを止めていた記憶しかないです(笑)一年中、外でも練習やっていたんですけど、気温がマイナスだから指とか曲がらないんですよね。
守備練習は基本的な練習は全体ではあまりしたことがなくて、チームの連携プレーの練習が年間通じても多かったですね。どれも夏につながる練習だったと思います。
――夏の予選まで、残り100日。まだまだ、高校球児たちは上達できる力を秘めてますよね。
「林」 そうですね。野球って、毎日の練習の積み重ねで突然気付くものってあると思うんですよ。いきなり上手くなることがある。だから、社会人になってからも日々の積み重ねって、とても大切だなと感じています。
だから、高校生の皆さんも、残り100日で自分のふとした時の気づきを大切にしながら、積み重ねていくことが上達につながると思います。
また、レギュラーを狙うには、今でもそう考えているんですが、自分が競ってる選手にはない部分でアピールしていくことだと思います。今、社会人野球でプレーしていても、僕はそういうのを前面に出しますね。
何をすれば隙に付け込めるか、僕の持ち味は何か?と考えたときに、極端な話、「元気を出す」とか「カバーリングをする」とか。そういう部分でアピールしなきゃ勝てないと思えば、まずはそこでアピールする。もちろん、立場が変わればやるべきことも変わってくると思うんですけど、レギュラーを取るまでが本当に大変なことなので、常にチームにとって必要なことを感じ取ってプレーしています!
林裕也選手、ありがとうございました。駒大苫小牧高時代の取り組みや、当時のチームの雰囲気など、参考になることばかりでした。
夏の予選までの残り100日、レギュラーの部員はさらに上達を追い求め、夏までにレギュラーやベンチ入りを目指す部員も林選手の言葉をヒントにぜひ明日から取り組んでみてくださいね。
(取材・構成=安田未由)