Column

野球に必要なスタミナをつける

2011.12.15

「野球選手に必要な」スタミナをつけよう

こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

オフシーズンでは体力づくりの一つとしてスタミナ強化があげられます。でもスタミナってどのようなもので、どうしたらスタミナがつくようになるのでしょうか。「スタミナ=長距離を走る」と思っている人も多いかもしれませんが、一番大切なのは「野球選手に必要な」スタミナをつけること。今回はスタミナ強化のために必要な知識やトレーニングについてお話をしたいと思います。

スタミナについてお話をする前に、スタミナを支える体力について考えてみましょう。オフシーズンは基礎体力づくりをメインにすることが多いと思いますが、体力とはさまざまな要素から成り立っています。体力は大きく3つに分類され、それぞれの能力を高めるためにトレーニングを行います。

1)行動を起こす能力(筋力、スピード、パワー)
2)行動を調整する能力(敏捷性、柔軟性、バランス)
3)行動を持続する能力(全身持久力、筋持久力)

スタミナとは主に3番目の「行動を持続する能力」と考えることができます。野球に置き換えてみると、試合などでピッチングフォームが崩れずに9回最後まで投げられることであったり、走者としてベース上を全力疾走した直後に息を整えてピッチングを行うことであったり、連戦が続く試合日程においても、前日の疲労を残さず翌日も同じようにプレーできることであったりします。栄養などで蓄えたエネルギーを利用して運動を持続できる能力のことであり、エネルギーを一気に使い果たしてしまうと「バテた」、ゆっくり持続してエネルギーを使うと「スタミナがある」という表現になると思います。

このようなスタミナを高めるために必要となってくるのが、全身持久力、筋持久力、そして疲労に対する耐久力の強化になります。


ランニング

【全身持久力の強化】
心肺機能を向上させるためのトレーニングを行います。血液中の酸素運搬能力を高めるために、あえて心拍数の高い状態を作り出し、そこでさまざまな負荷をかけていきます。長距離走も行いますが、どちらかといえば400m程度の中距離走を繰り返すことでも心肺機能は向上します。心拍数を最大心拍数(簡易的な計算式にあてはめると、18歳であれば220-18=202)の70~85%程度まで徐々にあげていくようにしましょう。体力レベルには個人差がありますので、最初はムリをしない程度から身体を慣らしていくようにします。

またこのようなトレーニングを行う場合には、あらかじめメディカルチェックや健康診断等で心肺機能に問題がないかどうかを確認しておく必要があります。

【筋持久力の強化】
同じ動作が何度も同じようにできるためには、筋力とともに筋持久力が必要です。心肺機能だけではなく筋肉そのものにも持久力を持たせるようなトレーニングをすすめていくようにします。負荷は軽めに設定、もしくは自重(自分の体重)のみとし、何度も反復して行うようにします。腹筋・背筋などの体幹トレーニングは繰り返し行われることが多いですが、これは筋力強化というよりは、バッティングやピッチングの姿勢を維持し続けるために必要な筋持久力の強化といえるでしょう。また筋持久力が低下すると終盤に足がつったり、身体が重くなってキレのある動きがむずかしくなったりする原因ともなります。

【疲労に対する耐久性の強化】
心肺機能を向上させるトレーニングに加えて、休息を取る時間を計画的に決め、心拍数がある程度下がったところから再度トレーニングを開始するようにします。インターバルトレーニングとよばれるこの方法は、高負荷のトレーニング(心拍数が高い状態)と低負荷の状態(休息によって心拍数を元に戻す)を繰り返すことによって、心拍数が高い強度のトレーニングから元に戻る能力を高めることを目的としています。トレーニングと休息の比率は、行うトレーニング内容によっても変わりますが、「トレーニング:休息=2:1」から「トレーニング:休息=1:1」程度に設定します。心拍数を一つの目安として、心拍数が70%にまで下がったところをトレーニング再開の目安とする場合もあります。疲労物質をできるだけ早く体内で分解・再利用・排出することで、疲労に強い身体をつくることができます。


島袋投手【10,千葉国体より】

このようにスタミナをつけるためにはエネルギーを持続させる体力が必要であり、ただ長い距離をゆっくり走るというよりは、心拍数をコントロールしながら負荷をかけて走ることが求められます。距離と強度を考慮しながら計画的に行うことが大切であり、必ずしも長距離・長時間でなければならないということもありません。

2010年春夏連覇を果たした沖縄・興南高校のエース島袋洋奨投手(現:中央大)は、夏の連戦に備えて暑くなる6月頃から、グランドコートを着用して投球練習を繰り返していたといいます。

マウンドでの投手の1分間の心拍数は最大200回にまでのぼるとも言われ、身体的にもそして精神的にも過酷な状況でのプレーを強いられることも考えられます。そんな状況下においても、普段どおりの投球が続けられるスタミナをつけるため、あえてこのような練習を積んだのではないでしょうか。体力面でのリスクが高いため、一概にこのトレーニングを推奨することはできませんが、エネルギーを持続しながらプレーできるスタミナが身についた例ではないかと思います。

スタミナをつけるためのトレーニング、ランニングというと「キツイ」というイメージが先行してしまいがちですが、基礎体力という土台を作るためにはなくてはならないものです。試合のときに「もう少しスタミナがあったら・・・」と後悔しないためにも、オフシーズンであるこの時期を利用してじっくりと、「野球に活かすための」スタミナ作りに取り組んでみてくださいね!

参考図書)「逆境に生き抜く力」我喜屋勝 著

【野球に活かすためのスタミナ作り】
・スタミナは野球に必要不可欠なもの。行動を持続する能力のこと
・全身持久力、筋持久力、疲労に対する耐久性を高める
・全身持久力のトレーニングを行う前には必ずメディカルチェックなどで問題ないか確認すること
・距離や時間よりも心拍数を意識したトレーニングを行う
・試合のときに後悔しないように、今の時期にじっくり取り組もう

(文=西村 典子

【関連コラム】
 西村典子氏がトレーニング指導している東海大野球部のオフシーズンの取り組みを取材した『東海大学野球部から学ぶ!オフの身体と心のスタミナアップ法』を公開中!3名の大学生選手が高校球児へのアドバイスと、実際のウエイトトレーニングの様子などを紹介。こちらのコラムも合わせてご覧ください。

次回、第35回公開は12月30日を予定しております。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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