試合レポート

百合丘vs横須賀

2011.09.18

将来に期待のサウスポー 佐々木 凌貴

 2試合目は県横須賀百合丘の試合だ。
この試合の注目は百合丘のエース左腕・佐々木であった。
今夏の大会で慶応義塾と対戦。春の神奈川大会優勝し、スラッガー谷田成吾を軸とした強力打線から3失点に抑える好投を見せた。惜敗に終わったが、慶応戦の好投により彼の評判は高まっていった。神奈川県の公立を代表する左腕として見ておきたかった投手の一人である。

第一印象。

体型は華奢。上背はなく、手足もそれほど長くないが、身のこなしが良い印象を受けた。動きにセンスの良さを感じさせ、面白い投手であると思った。

まずは投球以外の技術で驚かす。無死から1番村川に四球を許したが、間髪いれず村川を牽制で刺した。走者は完全に引っ掛かり、戻ることが出来なかった。鮮やかな牽制であった。佐々木はこの後2回牽制で走者を刺す。牽制でランナーを3回刺した投手は記憶にない。クイックは速くなくても牽制なのか、ホームへ投げるのか戸惑ってしまう巧妙な牽制技術が際立っていた。
横須賀のランナーは完全にリードの幅が狭まり、釘付け状態。これで自分の投球に専念した佐々木はランナーが出てからの安定感も素晴らしかった。

ゆったりとワインドアップから始動する。右足を真っすぐ上げていき、左足は一本足で立つ。足を上げるまでにワンテンポ間を置いている。右足を一塁方向に向かって伸ばしていき、インステップしていく。左ひじを折りたたむようにトップに入る独特のテークバック。スリークォーター気味に腕を振っていく。投球フォームに力みがなく、脱力している。リリースの瞬間で力を入れて投げ抜く。
球速は常時125キロ~130キロ(マックス132キロ)だが、キレがあり、横須賀打線は次々とボールの下を振っている。ボールにしっかりと力が伝わっているストレートだ。
変化球は90キロ前後のカーブ、110キロ前後のスライダー、110キロ前後のチェンジアップ。割合が多いのはカーブ。ストレートとカーブのコンビネーションで緩急をつけていく投球だ。


 一方で県横須賀の先発・貝原も個性のある左腕だ。
体を沈み込ませてアンダー気味に腕を振り抜いていくサイドハンド。球速は120キロ~125キロ前後だが、スライダーの切れに光るものがあり、ストレートとスライダーのコンビネーションで打たせて取っていく。ストレートのスピードはまだないが、体が出来ていない高校生の2年生の段階で左サイドから125キロ前後を投げられるのは素材としては面白い。本格化していないが、体が出来て、腕の振りが鋭くなれば、かなり打ち辛い雰囲気を持つサイドスローに成長する可能性があるとみて取り上げて見た。

試合は投手戦となり、5回の裏に百合丘が3番大谷の中前適時打で1点を先制する。リードをもらった佐々木だが、7回の表にピンチを招く。3番酒井に左前安打、4番伊藤は四球、5番赤羽は三塁失策で無死満塁。ここで佐々木はコースぎりぎりに狙っていくものの6番福島に押し出し四球で1点を許す。だが佐々木はここからギアを入れていく。まず中飛に打ち取ると、続く宇佐美、貝原を連続三振。ストレートは125キロ前後から何度も130キロを計測し、ねじ伏せた。気合を入れてマックスの力を入れて相手をねじ伏せる勝負度胸も備わっていることも確認した。

 貝原はここまで力投を見せていたが、8回二死に足の故障により降板。二番手に斎藤を送る。斎藤は後続の打者を抑えて勝ち越しを防ぐ。両チーム決定打が出ないまま延長戦を迎え11回に入る。一死から8番中村が左中間を破る二塁打。サヨナラのランナーが出塁すると9番平野が遊ゴロで二死三塁。1番宮崎が打席を迎える。

次の回に備えてキャッチボールしていた佐々木は宮崎に声をかける。しっかりと呼びとめて声をかける。それに頷く宮崎。良い声かけだと思った。
それが後押しとなったのか、宮崎は直球を捉えてセンターへ抜けるサヨナラヒット。延長11回に及ぶ激闘は百合丘がサヨナラ勝利を決めた。


お互いが粘り強く守った試合。緊張感のある試合が両投手の持ち味をしっかりと引きだした。横須賀の貝原は惜しくも負傷登板となってしまったが、その悔しさをバネにこれからも伸びていくだろう。途中から引き継いだ斎藤も難しい状況の中で自分の投球を続け延長11回までの粘り強い投球が光った。

 佐々木は慶応義塾を3失点に抑えこんだのも頷ける内容を示してくれた。ワンテンポ間を置いたフォームからキレのあるストレートとカーブを投げ分ける技術だけではなく、ここぞという時にギアを入れられる気持ちの強さ。良い投手に共通する技術が備わっている。
体つきが華奢。身のこなしは良いが、内に秘めるエンジンはまだ小さい。体づくりを行い、エンジンが大きくなり、今の技術を維持出来れば上の世界が切り開かれるかもしれない。この男の今後の成り行きを注目していきたいと思う。

(文=編集部:河嶋宗一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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