横浜vs横浜創学館
追い上げた横浜創学館、あと1点届かず、またも横浜の壁に泣く
昨秋の県大会では2回戦で当たり、横浜が9―2で7回コールド勝ちしている。
その敗戦を機に、横浜創学館の住吉君はフォームをオーバーハンドから右サイドスローに変えた。
「このまま上から投げていても、球威も増さないし、それならば少し投げ方を工夫してみよう」というところから始まったフォーム修正だった。そしてひと冬越えてフォームも固まり、春季大会以降、投球技術も幅が出来て安定してきたこともさることながら、森田誠一監督はそれ以上に、精神的な成長を評価していた。
それが、秋に大敗して、最悪のチーム状況という中から、ここまで勝ち上がれるチームになっていったのである。
緊張感のある試合は、横浜は2年生の柳君、横浜創学館はサイドスローのフォームが安定してきた住吉君が、ともに持ち味を出しながら5回を終わって0―0と抑えていた。しかも、放った安打も5本ずつとまったく互角の状態だった。
そして迎えた6回。横浜は4番齋藤健君が左前打すると、バントで進み、その後、四死球などもあって2死満塁となる。ここで9番伊達君がプッシュ気味のセーフティーバントを試みたが、この打球が投手と二塁手の間を抜けると、そのままセンターまで転がっていった。2点タイムリーの中前へのセーフティーバント安打という珍しい記録となった。
「決して打力があるワケではないから、左打者でもあり、足を生かすために自分自身で考えだしたテクニック」だったが、ものの見事に決まった。
もちろん、データも入っている横浜創学館としてもセーフティーに関しては十分警戒していたことでもある。そのため、三塁手も一塁手も十分に意識して前に詰めてきていたが、その意表を突くかのように、真ん中やや右に転がしていったのだった。
横浜は、さらに1番乙坂君の右越二塁打も出て、この回4点が入った。
それでも、横浜創学館もその裏、2死一塁から7番に入っている住吉君自身が右中間二塁打して1点を返す。
横浜も、すぐに7回、5回途中から柳君をリリーフして8番に入っていた相馬君が左中間二塁打してまた差を広げる。
ところが、横浜創学館は食い下がった。その裏、2死一二塁から4番佐々木君が一二塁間を破って再び3点差とする。
そして迎えた8回。再び、濱村君、住吉君と下位の連打で好機を作り、バント失敗がありながらも相手牽制ミスで1死二三塁の好機を得る。ここで、9番川村君が執念で中前へ持っていって二者を返して1点差。
なおも、1番関君も続いて一二塁。ここが勝負どころとみた森田監督は、2番矢作君のところでフルカウントからエンドランをかけたが、当たりがよすぎて左翼ライナーとなり、飛び出した二走が刺されて併殺となってしまった。横浜創学館にしてみれば、不運な一打だった。
結局、この1点差を詰めきることができずに、横浜創学館はまたしても、横浜の壁に跳ね返されることになってしまった。森田監督は、どうしても破ることが出来ない母校横浜の壁の厚さをしみじみと感じながらも、「新チームが出来た時のことを思えば、今年のチームは本当に、よくここまで来られたと思います」と、選手たちの心技体の成長を評価していた。それにしても、なかなか破ることの出来ない横浜の壁には、「うーん」と、腕組みをしながらも、「また、作り直してぶつかります」と、指揮官としてのチャレンジを誓っていた。
苦しい展開ながらも、最後は力で抑え込んだという形で勝った横浜。
一旦は外野へ退けていた相馬君を再びマウンドへ送り出すなど、思っていた以上の苦しい戦いになったのだが、終わってみれば、やはりさすがという印象だ。
ベテラン渡辺元智監督は、「こういう苦しい試合になることは、予想はしていましたけれど、こういう試合を勝っていかなくては、甲子園へはいけません」ときっぱりと言い切った。
そして、「チームはまだ、甲子園を本当に狙えるところまでは成長していない」と、厳しい姿勢は崩さなかった。
もちろん、横浜の場合、甲子園は出場するだけの場所ではなく、そこで優勝を狙えるチームという意味である。
(文=手束仁)