明徳義塾vs室戸
前田克樹(明徳義塾)
緊迫の投手戦を制したのは試合巧者・明徳義塾!
(試合経過)
室戸の2年生左腕・北川和矢は7回までに2安打11奪三振。明徳義塾の3年生右腕・前田克樹も7回2死までに北川同様に2安打を許すも、擁した打者はおつりなしの20人。共に非の打ち所のない素晴らしい投手戦が動いたのは8回裏であった。
1死からの連続四死球でチャンスをつかんだ明徳義塾は、その後2死2塁から5番・先田弦貴(2年)へ北川和矢が投じたチェンジアップが暴投となって先制点。そして先田もバッテリーの動揺を見逃さずセンターへはじき返すタイムリーでダメ押しとなる2点目。終わってみればシング・アンドリュー(3年)の強肩を活かしたライトゴロ2つなど「今年は守って勝つ」馬淵史郎監督の教えを体現した明徳義塾が、試合巧者ぶりを存分に発揮してベスト8へと駒を進めた。
(インサイドレポート)
「春に明徳義塾とやった練習試合では三振も取れたし、ピンチでも要所を抑えられたので、今日は最初から勝つイメージで持てる力を全部出そうとしました」。
「5回で2点しか取れなかったのでピッチャーがええのは、わかっていた」と敵将の馬淵史郎監督もその時から実力を認めていた室戸の2年生左腕、北川和矢。大会3日前に右足親指を骨折するアクシデントにも屈せず扇の要に座った正木勇貴(3年)との二人三脚で作り上げたこの日のピッチングは、凄みすら感じるものであった。
低めの直球はことごとくストライクゾーンギリギリに吸い込まれ、カーブ、スライダー、チェンジアップも切れ味鋭く低めへ。元気のなかった6月の高知県総体から一転、気迫を全面に押し出して向かってくる明徳義塾打線も、これでは1球でも球数を投げさせるくらいしか策を講ずることができなかった。
一方、明徳義塾のマウンドに「6番」を背負って立った前田克樹(3年)も、「昨秋や春と比べて自分の気持ちの整理ができるようになった」メンタル面での成長を、これまでになく走っていた直球の勢いだけに任せず打たせてとる投球術で体現。普段、今年の投手陣を「厳しい」と明言している名将をして「今日は低めにきていたから安心して見られた」という高評価を与えたことが、何よりも彼の好調を示している材料といってよいだろう。
となると最後の勝敗を分けるのは修羅場をくぐってきた経験である。「6月まではチームも全く打てなかったが、智弁和歌山との練習試合において、みんなで守ってリズムを作って1球に集中することで連勝できたことが、今につながっている」明徳義塾・前田に対し、「鍛えればもっとスピードも出るし、まだ自分のよさをわかっていない」(田中祥裕監督)室戸・北川。その差は表に無死1塁にあっても落ち着いて併殺で切り抜けた前田に対し、2死1・3塁を踏ん張りきれなかった8回の攻防で如実に表れた。
ただし、室戸・北川には幸いにもまだ1年間の高校野球生活が残されている。「自分以外は全員3年生がスタメンだった中で、エース番号を付けさせてもらった」感謝の思いは、今度は先輩たちが3年前の春に現実とした甲子園で晴らすしかない。事実、彼にはそのポテンシャルは十分あるのだから。
(文=寺下 友徳)
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室戸:北川和矢-正木勇貴 明徳義塾:前田克樹-杉原賢吾