Column

みなさんからの質問へのアドバイス

2010.06.26

安福一貴の「塁間マネジメント」

第3回 みなさんからの質問へのアドバイス 2010年06月26日

 今回はみなさんからいただいたランニングトレーニングに関する質問を見ていきながら、私なりのアドバイスをしていきたいと思います。
まとめられた質問をいただいて、最初に思ったのは質問の数がこちらが考えていた以上に多かったことです。私が中高校生で逆の立場だったらサイトを眺めるだけで終わっていたと思いますから、みなさんの意識の高さを感じました。

これだけでも第一歩です。
しかし心配していた通り、考えていた以上に間違った認識が多いな、ということも再確認しました。せっかく一生懸命練習していても、トレーニングが効果的でないために身にならない。もったいないですよね。

誰だってパフォーマンスを向上させたくて努力しているはずです。意味のあるトレーニングをすることの大切さを、しっかり頭に入れて練習しましょう。

寄せられた質問はみなさんがどんな練習をしているか知りたかったこともあり、各自のランニングメニューを書いていただいた上で質問する形式にさせていただきましたが、その中から誰にでも参考になる話ができるものをいくつかピックアップして回答していきます。

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Q&A

まず気になったのは、瞬発系のトレーニングをやっているつもりなんだけど、実際はそうなっていない練習が多いこと。

【体のキレを出すために30mダッシュを30本やっています】

 30mを30本も走ったら、体はどうなりますか?途中からどんどん疲れていって、体にキレはなくなっていきませんか。そんな状態で走っても瞬発系機能を向上させることは難しいです。狙いがそこにあるなら本数は10本くらいでいいので、しっかり1本ごとの間隔を空けて、なるべく体がフレッシュな状態で行うべきだと思います。

【シャトルランで20m20往復を3、4セットを時々やります】

これも最後の方は疲れてダラダラとした走りになってしまっていませんか。そうだとしたら瞬発系のトレーニングではなくなってしまいます。このメニューは、1セットにつき800m走ることを複数回繰り返すトレーニングですから数字から見ても、瞬発系機能を向上させるトレーニングとは言えないですね。ハードな練習に耐えうる精神力を強化する目的なら、多少は理解できますが。私ならシャトルランは時間で区切りますね。1分30秒とか1分とか。セット間はちゃんと時間を空けて体を回復させ、決められた時間をしっかり走る。効果は全然、違ってくるでしょう。この時間で区切るシャトルランは、実際に私が指導しているプロの自主トレでも、定期的に取り入れているメニューです。

【アップで30mダッシュを10本こなします】

瞬発系を意識してのことなら良いと思います。ただ体を温める程度に走っているなら目的は違うものになりますし、アップとしては物足りないですね。体が疲れていないときにダッシュ系をやるのは効果の期待できる1つの方法なので、みなさんも意識してもらいたいですね。

【家から高校まで5㎞あるので走っています。途中で坂もあるので、そこでダッシュしたりしてメリハリをつけているつもりです。キレがないときはダッシュ系を多く取り入れたり、練習で疲れているときはゆっくり走ったり。5㎞を使った色々なメニューを教えて下さい】

走りながら坂でダッシュをしても、さっきも言ったように体が瞬発系機能を向上させる状態になっていないわけですから効果は望めないでしょう。それはメリハリではないんです。それはそれ、これはこれと、分けて考えることが大切です。
 5㎞を使ったいろいろなメニューということでしたら、関節の可動域を広げるようなブラジル体操にするか、一定ペースのジョグにするか、若しくは心肺機能を強化するレベルのハードな有酸素系にするか、この3つでしょうね。

【全身のバランスを鍛えるために山をランニングしています】

山を走るのは体のバランスを良くするためだけではなく、足首周辺の関節や筋力も強化することができます。しかし、捻挫などを気にするあまり、上半身下半身共に無駄が目立つフォームになりやすくもなります。今後は全身のバランスだけではなく、フォームも意識して走ると良いと思います。その意識が難しいなら、山でのランニングに拘る必要もないように思えますね。

【インターバル走 200mのトラックを10周】

こういうのは必要だと思いますね。自分の体に溜まってしまった乳酸を除去する能力を高めるトレーニングとしてもいいですね。ただ、そのインターバル(休憩)がどのくらいなのか。ジョグで200m繋いでまた200m走るのか、何分か休憩して走るのか。それによって効果に違いが出てくる。200mは陸上選手のような脚力がない限り、瞬発的な能力だけで走りきることは難しいです。ある程度、乳酸の蓄積を意識しながら400mくらいを走るスピードでトレーニングするならセット間はジョグで繋ぎますね。それ以上の全力に近いスピードで走るなら数分間の完全休憩。もちろん、いま挙げた2つの例も期待する効果はそれぞれ異なりますよ。体に疲労がたまった状態でも、運動しながら乳酸を除去していく能力を高めてあげれば、最終的な疲労の蓄積は少なくて済むようになるでしょう。それから体の抵抗力をつけることもできます。ハードな練習をこなしても、それに耐え得る体を作るということは、競技力を向上させていく上で、非常に大事な要素になります。

【ピッチャーはランニングメニューが多いんですが、そこまで走る必要があるのでしょうか】

目一杯やらないといけないとは言わないですけど、ある程度の基本的なメニューは必要でしょう。ピッチャーの場合は投げ続けるわけじゃないですか。先発ピッチャーだったら100球くらい投げる。高校生だったら200球、投げる子だっている。場合によっては1週間で5、600球投げることもあるわけじゃないですか。そう考えると、ある程度の基礎となるようなスタミナは持っていないといけない。投球時の瞬発的な力を支えるスタミナですね。投球の軸となる瞬発的な技術と並行して行うランニングのトータルバランスを、いかに整えていくかが重要。ジョグとか長距離ばかりをやっていて瞬発的な動きがおろそかになってしまったらスピードやキレのある球は投げにくいですからね。そのバランスを自分の練習の中で、どういう風に探していくか。それが大事です。

 瞬発系機能を伸ばすために1番早いのはウェイトトレーニングですが、ランニングメニューとしてはショートダッシュ。投げるスタミナは、その名の通りボールを投げ込まないとつきにくいですが、それに近い効果が期待できるランニングメニューは、30〜50秒間で少しでも長い距離を全力で走るというような瞬発系と有酸素系の中間に位置する強度のトレーニング。これは一例ですが、この距離が少しずつでも伸びていけば投げるスタミナも上がっていくと思って良いでしょう。これも、休憩を挟まず、20本も30本もやってしまっては狙いとは違うトレーニングになってしまうので、練習終わりだったら4、5本でいいですね。終わったら長い距離をゆっくり走って、疲労物質を流すようなイメージでしっかりクールダウンしてあげましょう。

 ただ、速い球を投げられない、変化球が極端に苦手とか、ピッチャーとしての技術が充分でない人はフォームを考えたり、球数を増やしてピッチングしたり、もっと技術的な練習をしないといけない。ある程度、投手としての基礎ができあがった選手はランニングでピッチャーとしての能力を効果的に伸ばせるでしょうけど、そうでない人は、必要以上に多くの時間をランニングに割く必要はないと思います。要するに、そのときの自分に意味のある練習をすることが重要なんですね。

【今の時期は全体でするのはベースランニングが多いです。沢山のケースを想定して行っています。本数はそんなに多くないです】

ベースランニングはみなさんもよくやっていますけど、ランニングのトレーニングだと考えている人が多いように思います。そもそもベースランニングは足を速くするための練習ではありません。野球用の走り方の練習、すなわちダイヤモンドを効率良く回れる走り方を覚えるメニューです。それがランニングトレーニングと一緒にされてしまっている。

 ですから本数は少なくていいと思います。問題はその他にどんなランニングトレーニングをしているか。みなさんのランニングメニューを見るとベースランニングに割く時間が多い。指導者の方の多くが「走り方の練習もしたいけど、打撃や守備、投球の練習が優先で、その時間がない」とよくおっしゃいます。そう考える気持ちもわかりますが、ベースランニングはいろいろな設定で、みんなが順々にやるため結構、時間がかかっているはずです。その時間をトロッティングを基本とした、効率的な走り方を身につけるためのランニングドリルに使って欲しいですね。例えば月、水、金曜日はベースランニング、火、木、土曜日はランニングドリルといった感じでも良いと思います。ランニングをレベルアップさせるトレーニングはバッティング練習とピッチング練習とそこまで差がないくらい大事な時間だと私は考えています。
以前にも言いましたが、ランニングの形が悪いだけで怪我もしやすくなってしまいますし、足が使えるようになれば確実にチーム力はアップするのですから、是非練習メニューに組み入れることを考えて欲しいですね。ランニングトレーニングで身に付けた力を、ベースランニングで融合する。これこそが最高の形であり、高い技術の習得と言えるでしょう。

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みなさんからの質問を拝見して

 第1回でお話しましたが、私がパーソナルトレーナーを務める埼玉西武ライオンズの片岡易之選手はもともとそれほど足の速い選手ではありませんでした。
ですが、走りを一から変えたことで球界屈指の走力が使える選手へと変わり、チームの日本一に大きく貢献して日本代表に選出されるまでに飛躍しました。
それは片岡選手の努力があってこそですが、みなさんも走り方の意識と練習を変えることで大きくレベルアップできる可能性があるのです。チームとしても1年間しっかり取り組めば、野球自体が変わるとさえ、私は考えています。
今回、みなさんの質問を見ていて1つ不安になったことがあります。それはしっかりとした休養が取れているのかどうかという点です。そこで次回は「休む勇気」についてお話したいと思います。

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みなさんへの質問

みなさんはチームで、どのようなランニングの練習をしていますか?
具体的なメニュー、時間、回数を教えてください。
今後の連載の中で、質問に対してアドヴァイスしていきたいと思います。
質問はこちら

また、トレーナー・安福氏への講習会についての問い合わせはこちら

(構成=鷲崎 文彦)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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