山川 穂高選手(埼玉西武ライオンズ)「高い探究心で辿り着いたスラッガーの道」【前編】
肉体強化からスタートした中部商時代
今季、プチブレイクを果たしたのが埼玉西武の“おかわり君(中村 剛也<関連記事>)2世”こと山川 穂高だ。打撃成績は49試合(139打数)に出場して打率.259(安打36)、本塁打14、打点32とブレイク寸前を思わせる。目標とするチームメートの中村 剛也が最初に本塁打王になった2008年、128安打中ホームランが46本で、本塁打率(打数÷本塁打=11.4%)の低さが話題になった。それに対して今季の山川の本塁打率は10%を割る9.9という数値である。9.9打数にホームラン1本という数字の凄さは、今季の上位選手と比べてみてもよくわかる。
今季10本以上のホームランを放った選手の本塁打率ベスト5は次の通り。
1位山川(9.9%、14本塁打)、2位レアード(14.0%、39本塁打)、3位メヒア(14.6%、35本塁打)、4位大谷 翔平(14.7%、22本塁打)、5位中村 剛也(18.4%、21本塁打)
2位に4ポイント以上差をつけているのがわかる。この山川の今季の本塁打の足跡を追ってみよう。
山川 穂高選手(埼玉西武ライオンズ)
◇6/25 〇1号・左3ラン(ロッテ二木 康太)
◇7/30 〇2号・右ソロ(オリックス吉田 一将)
◇7/31 ●3号・左2ラン(オリックス東明 大貴)
◇8/14 〇4号・左ソロ(オリックス塚原 頌平)
◇8/19 〇5号・左ソロ(ロッテ石川 歩)、〇6号・左ソロ(ロッテ二木 康太)
◇8/21 ●7号・左ソロ(ロッテ涌井 秀章)、●8号・右ソロ(ロッテ涌井 秀章)
◇9/ 7 〇9号・右満塁(楽天大塚 尚仁)
◇9/ 9 〇10号・左2ラン(ロッテ関谷 亮太)
◇9/10 〇11号・右ソロ(ソフトバンク千賀 滉大)
◇9/11 ●12号・左ソロ(ソフトバンク森 唯斗)
◇9/20 〇13号・右ソロ(オリックス岸田 護)、〇14号・左2ラン(オリックス高木 伴)
勝ち試合10本、負け試合4本が示すように、山川がホームランを打ったときの勝率は.714と圧倒的に高い(今季チームの勝率は.457)。方向別では左(レフト)方向9本、右(ライト)方向5本と広角に打ち分けているが、本人には広角に打ち分けている意識は全くないという。
広角に打ち分けている意識はない、ミートポイントは投手寄り、チェックするのは腕の位置……等々、この取材で山川は現在に至るまでのバッティングの変遷を惜しげもなく話してくれたのだが、そこへ行く前に、高校(沖縄・中部商)時代の話をまず紹介したい。
中部商時代はどんな選手だったのですかと聞くと、「1、2年生のときは公式戦に1度も出場していないです。練習試合に少し出してもらった程度で」と平凡な高校生活を強調する。なぜ平凡だったのか聞くと、「ただ単に下手でした。体はこれぐらい(176㎝、100kg)ありましたけど、全然打てなくて。ホームランも、1、2年では練習試合で2、3本ぐらいじゃないですか」と言う。
4番に固定されたのは新チームになった2年秋から。
「秋の大会3回戦で負けたその日から変わりました。まず陸上部の先生のところに行って『僕、変わりたいです』と直接言って。やり投げの沖縄県記録を持っている赤嶺 永哲という先生で、その先生から教えられたトレーニングをやってから体つきが変わってきて、バッティングもスイングスピードや飛距離が一気に上がりました。春の沖縄大会に優勝して、春から夏にかけて練習試合で20本近くホームランを打って。そこからですね、ホームランを打ち始めたのは」
変わろうと思ったら真っ先に陸上部には行かないと思うが、「中部商業は陸上が強くて、やり投げの九州チャンピオンがいたり、砲丸、円盤投げの日本一や2位がいたりして、どうしてこの人たちはこんなに強いのかなとずっと思っていて。だからまず体を強くしようと思って。それは僕の判断で、一人で赤嶺先生のところに行きました」と明快に当時の心境を話してくれた。
ピッチャーが投げた瞬間に振るぐらいポイントが前
山川 穂高選手(埼玉西武ライオンズ)
私が初めて山川を見たのは富士大学時代である。このときはドカベン体型だけでなく、グリップの低い位置や、打球の飛距離や強さなどが中村 剛也とよく似ていた。そう言うと、「大学のときは中村さんを生で見たことがないからYou Tubeとかテレビを見て、本当に見よう見まねでした。でも、実際はそんなに似てないです」と笑う。
――中村選手のほうが力は抜けてる?
山川:はい。僕にそれはできないです。スイングスピードの違いとかいろんなものがあるんでしょうけど。ミートポイントは同じような感じかもしれないです。
――若干前?
山川:いや、若干というより僕のイメージの中ではかなり前です。投げた瞬間に振るぐらいを考えているので。それでちょうどいいぐらいです。
――今年は逆方向にも打っていて、だいぶ手元に呼び込んでいるような感じがしますが。
山川:いや、(自分が)動かないで引きつけて打つというのがあまりできないんです。球を引きつけてスイングすると全部ファウルになっちゃうので。それをプロ1年目に感じて、投げた瞬間に振る感覚で打ったらちょうどよかったので。変化球も、前で打つ分低めは空振りしますけど、浮いてきた球はホームランにしやすいです。
――もちろんストレートが強い。
山川:そうですね。やっぱりストレートが得意だと思います。
――ロッテの関谷 亮太(関連記事)から打った10号が低めのチェンジアップで、うまくレフトに打ったなと思った。あれは引きつけてという感じじゃないんですか。
山川:結果的な映像を見たら引きつけているんですけど、イメージは全然前です。
――頭の中ではバットの振り出しを早くしている?
山川:振り出しを早くします。
――そんなふうには全然見えないですね。
山川:練習では形をつくるためにセンターから逆方向も意識するんですけど、プロのピッチャーの球はキレも速さもすごいので、受け身になって待っていると負けちゃうイメージがあって、いつでも行くぞ、みたいな感じでいますね。中村さんにその辺の感覚は聞いたことがないですけど、ポイントは前だと思います。ただ、ポイントは前だけど中村さんは体が動かない。僕は体が動いてなおかつポイントは前で、という感じなので。
後編では山川選手が高校球児へ打てる選手になるために大事なポイントを語っていただきました。お楽しみに!
(文=小関 順二)