Column

「監督と選手間との意思の疎通を図る野球ノート」日本大学鶴ヶ丘高等学校

2015.10.03

 日大鶴ヶ丘野球部には3つのノートが存在する。それは、日大鶴ヶ丘高校野球部の核となる知識が詰まった「野球ファイル」、チーム全員で1冊を共有する「反省ノート」、2000年の秋頃から開始された朝清掃活動の内容を記す「朝清掃日誌」の3つだ。野球部の活動全てが、この3つのノートに集約されていた。

日大鶴ヶ丘の野球ノート誕生の経緯

日大鶴ヶ丘の核となる知識が詰まった「野球ファイル」

 日大鶴ヶ丘の選手たちが持つ野球ノートには、「107カ条」という共通の文字が並んでいた。野球ノートといえば、各々がその日あった出来事を振り返り、練習内容や反省を記載するというのをよく聞く。しかし日大鶴ヶ丘の野球ノートは一味違ったものであった。

 選手たちが普段持ち歩いている野球ノートは、萩生田 博美監督がミーティングで選手たちに話した「監督と選手間でのお互いの意思の疎通を図る野球のノウハウ」についてメモしたものを中心にびっしりと書かれていた。

 このミーティングでは、萩生田監督が持つ野球ファイルの中に詰まった野球の歴史、野球概論、戦術、技術など多岐に渡って選手に説明する。これは自分が考えているビジョンを、選手も一緒に見ていくことができるという意図も込めて行っている。

 では、文頭の「107カ条」とは?そして萩生田監督が持つ野球ファイルの内容は?近年野球部の伝統となりつつある、選手が持つ野球ノートについて迫る。

「この野球ファイルは、私オリジナルのものではないんです。大学を卒業した後に本大学でコーチを1年間やっていた時に、当時監督の鈴木 博識氏に見せていただいたのがきっかけです」

 この野球ファイルの内容は、107カ条にも及ぶ野球のノウハウが箇条書きで記載された野球教本のようなものだった。高校野球を3年間やれば1度は聞いたことがあるような内容なのだとか。だが、試合を進める戦術論が文章化されたものを初めて見た萩生田監督は当時カルチャーショックを受けたという。

「その後日大鶴ヶ丘で指導するようになり、ベスト4やベスト8までは勝ち進むようになりましたが、それ以上がなかったんです」

 鈴木 博識氏の野球ファイルに大きな影響を受けながらも「自分というものを出した指導」をした萩生田監督は、ベスト4の壁に直面していた。そんな時、原点に帰った際に「野球ファイル」のことを思い出し、指導に役立てる決心をし現在に至る。

 毎年1年生には、秋季大会の後の冬季を使って数ヶ月間にも及ぶミーティングで、このファイルの内容をみっちりと説明する。選手たちは、その内容をメモし知識をつけて春を迎える。

「導入として野球の歴史の話をします。いろいろなエピソードとくっつけて説明することで選手たちも興味を持ってくれているみたいです。そういう風にして選手たちに興味を持たせた上で、野球史、野球論(ルール)、野球戦術論と繋げて説明しています」

 選手のための努力を欠かさない萩生田監督の行動も、また選手に伝わる。


注目記事
・9月特集 野球ノートの活用法
・2015年秋季大会特設ページ

 『野球ノートに書いた甲子園3』 特設ページ

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[page_break:ミーティングを通じて「野球ノート」をつけてからの変化は?]

ミーティングを通じて「野球ノート」をつけてからの変化は?

野球ノートを持つ羽根 龍二主将

 とは言うものの「野球ファイル」の内容を聞いただけでは、難しそうなのではないかと疑問がわく。果たして選手たちは、このノートとどのようにして向き合ってきたのか。

「試合における心構え、グラウンドでのルール、打者編や投手編など細かく分かれています。この107か条を徹底すれば、試合で自分たちが優位に進められると思っています。試合前のバス内でのミーティングで毎回必ず読んで確認しています」
そう答えるのは羽根 龍二主将。

 2年生部員の誰に聞いても、107か条の中から「この項目が一番印象に残っている」「この項目を指摘されて、考えて練習を行った」など、全選手の中に野球ファイルの「107カ条」が浸透し、選手たちのプレーを後押しするものを感じる。

 また、萩生田 博美監督はプレーの中でできていないものがあった際には、この「107カ条」の項目で指摘をする。

「この項目ができないから試合に使わない」。明確な指摘のもと選手を追い込むことで、選手たちの記憶に残る「107カ条」の野球のノウハウ。

 それでは、選手たちは昨冬の「野球ファイル」を使ったミーティングを経て、どのような変化があったのか。井上 洸喜副主将は、

「『野球ファイル』には、投手編、捕手編、内野手編、外野手編などさまざまな項目がありました。特に走塁は練習の中で一番難しいと言われていて、走塁練習を普段行う際に、ケースを想定し『そこでどういう風にしたら良いのか』ということを三塁コーチャーたちと指摘し合えるようになりました」

 野球ファイルを用いたミーティングは日大鶴ヶ丘の選手の考え方も変えていた。


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[page_break:選手全員で共有する「反省ノート」/地域とつながる「朝清掃日誌」]

選手全員で共有する「反省ノート」

実際に書かれた「反省ノート」

 もう1つ日大鶴ヶ丘が行っていることに「反省ノート」というものがある。

 これは試合中に萩生田 博美監督がプレーヤーに対して言った言葉や指示、指摘などを逐一メモするというものである。チームで1冊のノートを共有し、試合後のミーティングで反省を確認しあうのだ。

 一番「反省ノート」を書いているという高島 凱哉選手は、
「監督さんが言った言葉を逐一書いているのと、自分たちで気づいたことを書いています。その他、相手バッテリーの配球だとか球種だったりとか、工夫しています」

 選手の中には、自分の中で反省をした上で、他の選手の反省を見て「チームとしてこういうことがあった」と振り返りをする選手もいた。

 選手たちの「次」への意欲の高さが感じられる取り組みである。

地域とつながる「朝清掃日誌」

毎日記録する「朝清掃日誌」

 さらに選手たちは、野球とは別に、地域の清掃活動を分担して行っている。
選手を4班に分けて明大前駅前、学校の前、グラウンドの前、永福町駅前と4か所で毎朝清掃活動を行う。全員1週間に1回当番が回ってきて、そこで行った清掃の内容を一言で書いているのが「朝清掃日誌」である。

 きっかけは、甲子園に出る時は東京都杉並区の代表として出場するということを知ったことから。

「うちは、杉並区の出身地の選手はあまりいないんです。でも甲子園に出る時は東京都杉並区の代表として出場することになるんです。だから、もっと地元を大事にして愛着を持ちたいと思いました。結局、杉並区の人たちに応援されないと杉並区の代表として出場する資格がないんじゃないかなと。だから地元を愛そうと、ね。そこから杉並区を綺麗にしていこうということで始めました」

 少しずつ回りの人に声をかけられるようになり、少しずつ地域と一体化してきたと感じる萩生田監督。

 この活動が結果となって現れたのは、2005年。日本善行会から表彰をされた。しかし、表彰をされた以上に、清掃をやっているうちに郷土を愛していくことや地域と一体化していくっていうことを理解できたことが大きいと萩生田監督は語る。

 実際に清掃活動を行う選手も、「杉並区の方々に応援されるようなチームにならなければいけないので。掃除は進んでするので全く苦痛ではないんです」と笑顔で話す。

 野球以外の地域貢献と、選手の人間性の成長が記されていたのが「朝清掃日誌」であった。

 選手としての知識や考えの統一においては、監督と選手たちとの意見の食い違いをなくすための綿密な「野球ファイル」を用いたミーティングと、それを吸収しようと選手たちが書き記す「野球ノート」が今では不可欠となった。

 そしてプレー面以外の人間性の部分では、朝の清掃活動から気づいた郷土愛という点が、彼らの人間力を成長させているように思わせる。

 もう間もなく「野球ファイル」を用いた1年生へのミーティングが始まる。新たな日大鶴ヶ丘の伝統を1年生も受け継ぎ、さらにレベルアップした彼らを見られることに期待が膨らむ。

(文・佐藤 友美


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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