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第4回・徳島県高等学校野球体力・技術向上研修会

2012.12.08

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アグリあなんスタジアムでの開会式の様子

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 一昨年「徳島県勢躍進のために~」と称し、一連の動きをレポートした「徳島県高等学校野球体力・技術向上研修会」。その後、翌春の選抜大会においては21世紀枠出場の川島が善戦。一昨年は同じく21世紀枠の徳島城南が報徳学園(兵庫)撃破で続き、そしてついに今年は鳴門がベスト8へ。加えて昨年は徳島商が選手権1勝。さらに山口国体ではベスト4に輝くなど、県勢躍進は早くも現実のものとなっている。

 では、その理由はどこにあるのか?ここでは、あれから2年を経て今回、第4回目を迎えた「徳島県高等学校野球体力・技術向上研修会」を再び取り上げ、躍進の秘訣を探ると同時に徳島県高校野球の新たなる担い手たちも紹介していきたい。

すっかり定着化した「徳島県高校野球向上の集い」

 12月1日・土曜日。場所は徳島県阿南市の[stadium]アグリあなんスタジアム[/stadium]。研修会は午前9時からの質素な開会式、参加選手全員アップ、そしてロングティー・ベースランニング、遠投の順に極めて整然と進んだ。これは、やや進行手順に戸惑いがあった2年前とは様変わりの風景。そこには「自らの能力を十二分に出し切ろう」と挑戦する選手側と、「選手たちに一皮剥けるきっかけを与えたい」とする指導者側の阿吽の信頼関係が存在していた。

 参加選手全員によるアップ

「1年目は実戦を入れたり、2年目はプロ野球OBクラブからの指導を受けたり・・・。まだまだ発展途上だし、改善の余地はありますけど、いい意識付けにはなっていると思います」

 この研修会の発案者であり、今年のドラフトでは高校通算28本塁打のエース・美間優槻を広島5位指名へと導いた髙橋広・鳴門渦潮監督はこの様子を見ながら笑顔が絶えない。実はこういった「オール徳島」での結束こそ最も髙橋監督が願っていたことだからだ。

 結束力は研修会のクオリティ向上にも寄与している。今回は、ロングティー・遠投については建築工学科を有する阿南工業高等専門学校から借用した最新測量機器の活用によって、2年前より精巧な数字が測定できることに。これにより、各種目のべ80名以上が参加した1種目あたりの所要時間も1時間足らずとなり、待ち時間が増えることによる選手たちのテンション低下も大幅に軽減された。

「この研修会に向けた出場選手選考の中でチーム内における自分の位置づけもわかるし、研修会では県内でのポジションもわかる。『井の中の蛙』にならず、1つの指標を作る部分では(他県より)一歩リードしていると思いますね」。

 昨年度一杯で徳島県高校野球連盟監督会会長こそ退いたものの、今もなお徳島県そして四国地区監督のリーダー的存在であり続ける氏の4年間総括。そこには「徳島県高校野球向上の集い」としてこの研修会が定着し、県勢躍進の結果につなげたことへの自信と誇りがあふれていた。

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[page_break:夢を叶える登竜門、全体レベル向上と伏兵の健闘光る]

夢を叶える登竜門、全体レベル向上と伏兵の健闘光る

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各種目1位・右からロングティー1位・青枝諒(板野2年)
遠投1位・大西弾(池田2年)・ベースランニング1位・高岡桐士(小松島2年)

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 いざ、測定。その全体レベルも2年前から明らかに上がっている。各種目の最下位数値で比較しても、遠投では8.8m。ロングティーは8.2m、ベースランニングに至っては3.53秒の大幅な伸びが。「ここで昨年遠投114..9mを投げて1位(歴代2位)になったことで本人には自信になったし、『鍛えていったら面白い存在になる』と、スカウトにも評価してもらったと思う」(髙橋監督・談)美間が残した影響も大きい。この数字が夢を叶える登竜門になることを認識した選手たちの飛ばす火花は、ともすると試合以上に白熱したものとなっていった。

 その結果、この秋、四国大会に届かなかったチームの中にも好成績を残す選手たちが何人も見られた。代表格は「50m走は6秒1だが、ベースランニングがうまい」と、豊富尚博監督も高く評価する高岡桐士小松島2年・中堅手)である。昨年、前人未到のベースランニング13秒90を叩き出した中山拓哉(当時鳴門工2年、鳴門渦潮から東京の大学に進学予定)に並ぶ驚異のベーランを魅せた左打席のリードオフマンは「(中山さんの)記録は意識していました」とキッパリ。168㎝55㎏の小兵ながら、彼が春以降の県注目選手となることは間違いないところだろう。

 もう1人は板野では3番左翼手を任される左打者。ロングティー部門1位の青枝諒(2年)。
 当人は「全く1位は狙っていなかった」と殊勝なコメントに終始したが、強い追い風があったとはいえ107.5mは一昨年・当時徳島城南のエース・4番・選抜大会では報徳学園田村伊知郎(東京の大学に進学予定)から豪快に3ランを放った竹内勇太(現・関西学院大外野手・1年)の107.3mをしのぐもの。今秋県大会1回戦・富岡西戦で放った3三塁打は、100m11秒9の俊足のみによって生み出したものではないことを証明している。

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[page_break:個々の得意をチームに落とし込み、徳島勢は更なる飛躍を期す]

個々の得意をチームに落とし込み、徳島勢は更なる飛躍を期す

 四国大会出場チームの中でも、この研修会でスランプ脱出のきっかけをつかんだものがいる。歴代3位タイとなる112.4mを記録。「これまでの遠投は105mだったので自信になった」と話す遠投部門1位の大西弾(徳島池田2年)は、県大会での打撃不振により、四国大会ではベンチスタートを強いられた中堅手。「今後はコントロールをよくして、好返球を連発できるようにしたい」と、研修会後は自らのストロングポイントを磨き、再び定位置を奪い返す決意を固めていた。

「これまで3回やったことでつながりも出てきていますね。目的を持った競技会は得意分野を伸ばそうと選手たちにもいい励みになります。注目されて、緊張した中で走る、投げる、打つ。それもいい経験だと思いますよ」。

 学校行事で欠席の城西を除く
 加盟30校の選手たちが勢ぞろいした

 その徳島池田を率い、4月からは徳島県高野連監督会の会長も務める岡田康志監督は、この研修会が個々の得意分野を知るきっかけになっていることも指摘した。スモールベースボールの徳島池田、川島。豪快打撃の徳島城南、鳴門徳島商。確かに過去数年の甲子園出場チームを振り返っても、こういった個の力は各チームのカラーを作る基盤にもなっている。

 すなわち、己を知り、敵を知り、そして己と敵に勝つ心・技・体を高める。そこに時間をかけて取り組める冬を前に、その重要性を身をもって知る格好の機会を共有し、強み・弱みを明確に数字で表す。それが「徳島県高等学校野球体力・技術向上研修会」なのだ。

 秋季四国大会で鳴門が準優勝したことで、3年連続での選抜大会出場も濃厚な徳島県。こういった理詰めの結束力が途絶えない限り、徳島勢の躍進は決して留まることはない。

(文・寺下友徳

第4回各種目ランキングベスト10

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<ロングティー>
1.青枝 諒(板野2年・左翼手)107.5m *歴代7位タイ
2.小板 健太郎徳島商2年・一塁手)107.2m *歴代11位
3.山田 貴仁新野1年・捕手)105.4m
4.植本 真晃海部2年・投手)104..0m
5.中川 拓実小松島2年・内野手)100.1m
5.岡田 律徳島科学技術2年・投手)100.1m
7.岡村 遼(徳島城東2年・投手) 97.5m
8.久原 拓也穴吹2年・左翼手) 97.1m
9.藤本 真之(徳島池田2年・中堅手) 96.4m
10.森 祐大海部1年・捕手) 96.3m

<ベースランニング>
1.高岡 桐士小松島2年・中堅手)13秒90 *歴代1位タイ
2.犬伏 湧也生光学園2年・中堅手)13秒93 *歴代2位
3.鍛冶崎 智貴海部2年・中堅手)14秒15 *歴代7位タイ
4.光本 祥吾(徳島城東2年・遊撃手)14秒18 *歴代10位
5.荒川 裕介徳島商2年・外野手)14秒21  *歴代12位
6.中村 優太生光学園2年・右翼手)14秒25  
7.大内 大知(徳島池田2年・投手)14秒28
7.上徳 拓馬(徳島池田2年・右翼手)14秒28
9.三枚地 萌人小松島西2年・中堅手)14秒34
10.加賀谷 聖人小松島西2年・二塁手)14秒40
10. 佐々木 翔也徳島科学技術2年・一塁手)14秒40
10.藤本 衛(徳島城東2年・三塁手)14秒40

<遠投>
1.大西 弾(徳島池田2年・中堅手)112.4m *歴代3位タイ
2.内海 大寿徳島商2年・右翼手)110.7m *歴代5位
3.荒川 裕介徳島商2年・外野手)110.3m *歴代7位
4.徳田 誉顕生光学園2年・投手)109.7m *歴代9位
5.高原 克典徳島科学技術2年・内野手)109.4m *歴代11位
6.名西 宥人(徳島池田1年・投手)108.9m *歴代13位タイ
7.中村 優太生光学園2年・右翼手)105.5m
8.工藤 涼暉川島2年・投手)104.6m
9.小川 直哉阿南高専2年・投手)104.5m
10.吉田 勇気鳴門渦潮2年・中堅手)103.8m

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<ロングティー>
1.青枝 諒(板野2年・左翼手)107.5m *歴代7位タイ
2.小板 健太郎徳島商2年・一塁手)107.2m *歴代11位
3.山田 貴仁新野1年・捕手)105.4m
4.植本 真晃海部2年・投手)104..0m
5.中川 拓実小松島2年・内野手)100.1m
5.岡田 律徳島科学技術2年・投手)100.1m
7.岡村 遼(徳島城東2年・投手) 97.5m
8.久原 拓也穴吹2年・左翼手) 97.1m
9.藤本 真之(徳島池田2年・中堅手) 96.4m
10.森 祐大海部1年・捕手) 96.3m

<ベースランニング>
1.高岡 桐士小松島2年・中堅手)13秒90 *歴代1位タイ
2.犬伏 湧也生光学園2年・中堅手)13秒93 *歴代2位
3.鍛冶崎 智貴海部2年・中堅手)14秒15 *歴代7位タイ
4.光本 祥吾(徳島城東2年・遊撃手)14秒18 *歴代10位
5.荒川 裕介徳島商2年・外野手)14秒21  *歴代12位
6.中村 優太生光学園2年・右翼手)14秒25  
7.大内 大知(徳島池田2年・投手)14秒28
7.上徳 拓馬(徳島池田2年・右翼手)14秒28
9.三枚地 萌人小松島西2年・中堅手)14秒34
10.加賀谷 聖人小松島西2年・二塁手)14秒40
10. 佐々木 翔也徳島科学技術2年・一塁手)14秒40
10.藤本 衛(徳島城東2年・三塁手)14秒40

<遠投>
1.大西 弾(徳島池田2年・中堅手)112.4m *歴代3位タイ
2.内海 大寿徳島商2年・右翼手)110.7m *歴代5位
3.荒川 裕介徳島商2年・外野手)110.3m *歴代7位
4.徳田 誉顕生光学園2年・投手)109.7m *歴代9位
5.高原 克典徳島科学技術2年・内野手)109.4m *歴代11位
6.名西 宥人(徳島池田1年・投手)108.9m *歴代13位タイ
7.中村 優太生光学園2年・右翼手)105.5m
8.工藤 涼暉川島2年・投手)104.6m
9.小川 直哉阿南高専2年・投手)104.5m
10.吉田 勇気鳴門渦潮2年・中堅手)103.8m

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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