Column

工藤明の執念

2011.10.11

工藤明の執念 | 高校野球ドットコム

第10回 工藤明の執念2011年10月11日

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【目次】
1.夏の日
2.執念
3.満場一致

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夏の日

工藤明の執念 | 高校野球ドットコム

能代商・工藤明監督

 
試合を終え出てきた能代商・工藤明監督は、お立ち台の上でふと遠くに目をやった。この国体で終了する2010年度チームとの思い出が、走馬灯のように駆け巡っているのである。
「凄く長い時間をかけて、一緒に勝利を目指してこれたことは、私自身にとっても貴重な思い出になりました」

 秋田県勢として14年ぶりの初戦突破を果たし、同じく県勢16年ぶりの2勝を挙げ、甲子園ベスト16進出を果たした2011年夏。この快進撃の対価が、ひとつの栄誉といっていい国体出場だった。今夏、秋田県に大きな活力と多くの幸福をもたらした能代商だが、そのサクセスストーリーの源流は、鹿児島実に0-15で敗戦した昨夏甲子園にあった。

 25年ぶり2度目の選手権出場となった2010年の夏。能代商はその大会で17度目の夏出場となった南日本の王者・鹿児島実に挑戦した。しかし、2年生エースの保坂祐樹が早々に捕まると、田村清司畠山慎平と継投しながら合計23安打を浴び15失点。打線も3安打無得点に抑え込まれ、文字通りの完敗を喫したのである。
「とにかく悔しかったです。そこで新チーム発足後に、すべての目標をただの一点に絞りました。『鹿児島実を倒すこと』。それ以上でも以下でもない。本当にこの一点のみですね」

 ただひたすら「鹿実」の名前を意識し、チームとしての統一スローガンをナインに植えつけていった工藤監督。「あの悔しさを忘れないために」と、練習場には鹿児島実戦のイニングスコアを、そっくりそのまま表示しナインを鼓舞し続けてきた。


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【目次】
1.夏の日
2.執念
3.満場一致

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執念

工藤明の執念 | 高校野球ドットコム

能代ナイン(2011.8)

昨秋の九州大会で“仇敵”が優勝を遂げ、神宮大会で準優勝したことも、その内容とともにほぼ把握していたと工藤監督は言う。さらに今春センバツに出場した鹿児島実の試合は、選手全員を集めてテレビ観戦させた。練習試合で“鹿実を知る男”の保坂が好投すれば「これでは鹿実打線に呑み込まれてしまう」と叱咤し、打線の活躍によって大勝しても「こんな内容では鹿実の野田昇吾くんは攻略できない」と檄を飛ばしていたという。

 工藤監督と能代商の執念はそれほどまでに凄まじく燃え上がっていたわけだが、鹿児島実を通して全国レベルを見据えていたのも事実だろう。

「全国に行くと、あの時の鹿児島実のレベルが当たり前なのだということを思い知らされました。試合中のプレーもグラウンド内外の姿勢も、すべてが模範的。本当に大きな目標でした」

 つまり、能代商が設定した“全国”とは、神宮大会で準優勝を遂げるほどのチーム最低が最低ラインだったのだ。これでチームが強くならないわけがない。


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【目次】
1.夏の日
2.執念
3.満場一致

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満場一致

工藤明の執念 | 高校野球ドットコム

マウンドに集まる神村学園(2011.8)

能代商は2年連続で夏の選手権に出場を果たす。しかし、肝心の鹿児島実が夏の選手権出場を果たせずに敗退したことで、宿願は果たせずに終わってしまうのだった。

 それでも主将の山田一貴が抽選会で引き当てたのは同じ鹿児島県勢の神村学園だ。これで工藤監督とナインはチーム一丸、まさに執念をエネルギー弾となり甲子園で躍動。宿命の鹿児島県代表に終盤の集中打で逆転勝利を収めると、続く英明戦ではエース保坂が好投。プロ注目の長身左腕・松本竜也との投手戦を7安打完封で制した。3回戦の如水館戦こそ延長で力尽きたが、16年にわたり忘却していた甲子園複数勝利の歓喜を、秋田県民にもたらした功績は計り知れないほどに大きい。

 ファーストストライクを仕留める積極的な打撃、堅実な守備とダイナミックな走塁、そして「大会参加チーム中ベスト」と賞賛されたグラウンドマナーは、ファンや関係者の心をしっかりと捉えた。国体出場権は甲子園8強と地元校でまず決定するが、残る3チームの選考が難しくなる。しかし、満場一致で「9番目のチーム」に指名されたのが、この秋田県代表の市立商業高校だった。

 その山口国体では石川金沢を相手に3-3と引き分け、大会規定による抽選で結果的には石川金沢の勝利に終わった。しかし、工藤監督が「全国トップクラスの石川金沢を相手に、すべてを出し尽くせました」と言うように、この1年間で全国の強豪と五分に組み合えるだけのチームに成長したことは、充分に見せつけたといえる。
「去年の悔しさに始まり、終わってみればこんな晴れやかな気持ちになるなんて……。国体での試合終了後、選手たちの晴れやかな表情を見て、本当に良かったなと思いました」

 仇敵打倒に燃え、燃え尽きた1年間が過ぎた。その過程で立ち止まることを捨てた能代商は、さっそく秋季県大会で優勝。東北大会を経て、春の聖地を目指す戦いが続く。国体会場を後にする工藤監督の潤んだ目が、再び厳しさを帯びた。

(文=加来 慶祐・写真=中谷 明

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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