純パフォーマンスで魅せた国体
第9回 純パフォーマンスで魅せた国体2011年10月06日
個々の力を存分に発揮して…
マウンドに集まる習志野 (第66回おいでませ!山口国体)
国民体育大会(国体)の公開競技として行なわれている高校野球は「真剣勝負じゃないから」だとか「3年生の思い出作りだ」とか、何かと軽視されがちである。
たしかに、すべての高校球児は甲子園を含む夏の選手権大会で燃え尽きる。また、監督をはじめスタッフや下級生選手たちは、夏の終了と同時に秋季大会に全力でシフトしていく。翌春の甲子園出場が懸かった秋季大会と同時進行となることから、当然国体の勝ち負けは二の次、三の次とならざるを得ないのだ。
では、国体の高校野球には魅力はないかというと、決してそんなことはない。習志野・小林徹監督は「普段どおりのプレーをする。一生懸命に走ること。それは対戦相手や試合を見てくださっている方への敬意を表すということでもあるのです」と言い切った。作新学院・小針崇宏監督も「緊張感のある試合をしなければ」と言っている。
また、選手個々が発揮する“純パフォーマンス”は、夏の選手権より高いかもしれない。
もともと夏の全国で8強以上、またはそれに順ずる実力を備えた強豪ばかりが集うのが国体だ。当代のオールスター戦といってもいいトーナメントの中で、選手たちは重く圧し掛かるプレッシャーやガチガチの緊張感から開放され、自由度の高い“魅せるプレー”で躍動するのだ。実際に、それ以前に規制をかけていたランニングスローなどを、国体で解禁するチームもある。プロ志望届を提出して国体に臨んだ関西の主将・渡辺雄貴は「この大会では自分が主将であることを忘れて、楽な気持ちで試合をしたい」と語っていた。
また、大学進学を控える日大三の横尾俊建も「全打席ホームランを狙っていました」と証言していたように国体優勝を決めたのも横尾の逆転サヨナラ2ランだった。
練習量の低下で体重が増加している選手も多く見受けられるが、そのぶん打球の強さや投手の球威は目に見えて迫力を増している。しかも上級カテゴリーへのステップアップを予定している選手たちは、日頃の調整練習によって体のキレを維持しているため、とにかくプレーのひとつひとつが大学野球のような見栄えなのだ。
1日でも長く。本当のラストゲーム
釜田(金沢) (第66回おいでませ!山口国体)
出場したチームの3年生にとっては本当のラストゲーム。また、過去の歴史を振り返ってみると、この大会を最後にユニフォームを脱いできた監督も多い。今年で言えば、石川金沢の浅井純哉監督がそうだ。
この国体に向けて、一番練習を重ねてきたのは金沢だったかもしれない。甲子園終了後に指揮官の座を降りた浅井監督を、国体に向かう3年生たちが「監督、ノックをお願いします」とグラウンドに引きずり出したのだ。新チームが使用するメイングラウンドの脇の限られたスペースで、浅井監督は毎日1時間もノックバットを振り続けた。浅井監督は3年生ナインのリクエストに応え、打撃投手まで務めたという。
「1日でも長く3年生とやれることが嬉しい。最後は笑顔で送り出してあげたいから」と監督が語れば、大エース・釜田佳直は「1日でも長く監督さんと野球がしたいんです」という。3-3で引き分けた初戦の能代商戦で抽選勝ちした瞬間、浅井監督とナインは甲子園とはまた違った無邪気で爽やかな笑顔を浮かべていたのである。
作新学院の1年生捕手、山下勇斗が言う。「とにかくレベルが高かったです。国体に来ないと経験できないこともたくさんありますし、ここで収穫したたくさんの経験や知識を、現チームに帰って伝えていこうと思います」
能代商・工藤明監督は「これだけの強豪校の中に名を連ねることができた。こんな光栄なことはありません」と言った。
国民体育大会は今年の山口大会が第66回大会。そのすべてで実施されてきた国体・高校野球。そこに野球があるかぎり、秋の神宮、春夏の甲子園に並ぶビッグタイトルとしての価値は、たしかに存在する。国体王座の価値は、日大三が劇的な当代3冠を達成したことで、ますます輝きを増した。
(文=加来 慶祐)