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甲子園大会での筋けいれんを考える

2015.08.11

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 8月に入り、夏の全国高校野球大会が[stadium]甲子園球場[/stadium]で始まりましたね。毎年暑い時期に行われるため、熱中症対策については大会運営側や出場高校はかなり注意をしながら対応していると思いますが、それでも今大会は試合中に足や手指をつって治療を受けたり、途中で交代するというシーンも見られます。今回は熱中症の一つである筋けいれんについて、その原因や対応、予防策などについて考えてみたいと思います。

筋けいれんは、試合では起こりにくい?

 熱中症の一つである筋けいれんは激しい運動中や運動した後に起こることが多いと言われていますが、これは攻撃と守備が交互に繰り返される試合中よりも、長時間にわたる普段の練習時間においてそのリスクが高くなると考えられます。実際の試合では守備時間にグラウンドでプレーを行い、攻撃ではベンチに戻り、打席を待つ間に水分や塩分の補給を行いながら、次のプレーに備えて休むことが可能となるからです。

 直射日光のあたるグラウンドで長時間激しい運動をしていると、体が熱くなったり、頭がボーッとする、痛くなる等の初期症状が見られますが、ベンチ内であれば日陰になるため、異変を感じる前に休むことができるでしょう。冷やしたタオルや氷などで大きな動脈部分(頸部、脇の下、そけい部、膝裏等)を冷やすことも熱中症の予防策として有効です。

それでも試合で筋けいれんが起こるワケ

変化球の多投によって手指の筋けいれんを起こすことがある

 それでも試合で足や手指をつる選手が見られるのはなぜでしょうか。筋けいれんの原因としては、脱水などの水分不足によるものや、汗を大量に書くことによる血液中のミネラル分不足といったこと以外にも、極度の緊張状態や、疲労の蓄積によるもの、食後などで筋肉への血流が不足している状態でも起こることがあります。体重を支える筋肉であるふくらはぎや太ももの筋肉は、守備や走塁を繰り返すことによって筋疲労を起こしやすく、さらに脱水や発汗によるミネラル分不足によって、神経から筋肉に送られる「動け」という伝達指令が誤作動を起こし、細かい収縮を繰り返すようになってしまいます。

 手指がつる原因としては、投球動作を繰り返すことによる筋疲労によるものと考えられますが、特に変化球の多投による握力低下などが誘因となるケースが多いのではないでしょうか。

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[page_break:生活リズムと暑熱馴化対策は? / 筋けいれんを起こしたら]

生活リズムと暑熱馴化対策は?

汗で失われたミネラル分を補う工夫も行おう

 甲子園大会に出場するチームは現地入り後、生活リズムが大きく変化することが考えられます。いつもの生活リズム、食事の違い等々なるべく試合当日のコンディションに影響がないよう、最大限配慮されていることとは思いますが、それでも試合時間によっては就寝時間、起床時間が早くなることがあるでしょう。熱中症になりやすい生活習慣としては「睡眠不足」と「風邪、腹痛などの体調不良」、「朝食を抜いてしまう欠食」などが挙げられますが、睡眠不足や夏風邪には十分注意して生活するようにしなければなりません(特に冷房の使い方や室内の乾燥対策)。

 緊張から前日あまりよく寝られなかったという場合であれば、筋けいれんを起こすリスクは高くなっていると考え、より慎重に試合に臨む必要があります。また大会期間中の練習については地域の公平性を鑑み、各校割り当てられたグラウンドで2時間という制限が設けられています。練習時間とそれ以外の時間をどのように使うかによっても、ずいぶんコンディションは変わってくると思いますし、体が暑さに慣れる暑熱馴化(しょねつじゅんか)には一週間ほど時間がかかると言われています。こうしたことも筋けいれんを起こす一つの要因ではないかと考えられます。

筋けいれんを起こしたら

 筋けいれんは筋肉が細かく収縮をしている状態であり、かなり痛みを伴うこともあります。痛みがあるとその痛みによって筋肉がさらに緊張し、力が入った状態になってしまいますので、まずは大きく息を吐いてみましょう。息を吐くことによって副交感神経を刺激し、緊張状態を和らげる効果も期待できます。そこからゆっくりと呼吸を繰り返し、けいれんした部分の筋肉をストレッチしていくようにします。状態が落ち着けば筋肉の収縮も正常に戻り、プレーを継続することも可能です。

 夏の時期であれば筋肉が冷えてけいれんを起こすケースは少ないと思いますが、極端に筋肉を冷やしてしまうとプレーにも影響が出ますので、血流が悪くならないように適度に動かしたり保温を心がけるようにしましょう。筋けいれんへの対策については「足がつる原因と対処法」もぜひ参考にしてください。

 まだまだ暑い夏と熱い戦いは続きます。普段からコンディションに対する意識を高め、実践することが、熱中症による筋けいれんを防ぐ一番の方法です。適度な水分・塩分補給とともに規則正しい生活を心がけ、緊張状態の中でも最高のパフォーマンスが発揮できるようにがんばってもらいたいですね。

(文=西村 典子

次回コラム公開は8月30日を予定しております。


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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