肩の前側が痛いときの原因と対処法
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
じめじめした蒸し暑い日が続いていますが、選手の皆さんは体調など崩さずに練習に励んでいますか?夏の大会が目前に近づいてくる中、ここからはいかに体調を崩さないようにするか、ケガをしないようにするかが大切になってきます。ところで練習や試合を行う中でときどき肩の前側に痛みを覚えることはありませんか?投げられるけれども痛みがある…という場合も含め、原因と対応について考えてみましょう。
痛みの程度を確認する
過度に投球動作を繰り返すと肩や肘に負担がかかりやすい。痛みの原因を知ろう。
野球は投球動作を伴うスポーツなので、どうしても肩や肘に負担がかかり痛みが出てしまうときがあります。このときどのタイミングで痛みが強くなるかを確認してみましょう。
1)動き始め(投げ始め)に痛みがあるが、練習を行っていくとだんだん痛みはやわらぐ
2)練習の始め頃はあまり気にならないが、時間の経過とともにだんだん痛くなる
3)投げ始めから、投げ終わりまであまり痛みが変わらない
1)の場合、肩周辺部(もしくは痛みのある部位)を中心にプレーに必要な筋肉の柔軟性や関節の動きやすさなどが十分ではないことが考えられます。全体でのウォームアップだけでは足りないことも考えられるので、練習や試合前にプラスして患部を積極的に温めるようにします。肩の場合であればホットタオルなどで直接温めてもいいですし、ダイナミックストレッチなどを行って関節可動域(関節の動く範囲)を徐々にひろげていくようにします。肩が温まると痛みが軽減することも多いのが特徴的です。
2)の場合は時間の経過とともに筋力や筋持久力の低下、また崩れたフォームで投げることによって痛みが出現することがあります。練習や試合後に痛みが残る場合はクールダウンとともに患部を氷などで冷やし(RICE処置)、患部の炎症症状を抑えるようにします。それと同時に投球動作の時にしっかりと軸足で身体のバランスが保てているか、骨盤が後傾してお尻が落ちてしまったりしていないかなどを確認する必要があります。筋力、筋持久力強化のためのエクササイズなども積極的に行うようにします。
3)の場合はおそらく当日急に痛くなったというよりは、以前から痛みがある状態でプレーを続けていたことが考えられます。投げ始めから投げ終わりまで痛みの程度が変わらない、もしくはどんどん悪化していくという場合、患部には機能的な損傷があることが想定されるため、まずは医療機関を受診して適切な診察・検査を受け、医師の指示を仰ぐようにしましょう。
また痛みを自覚するようになってからどのくらい時間が経過しているかも確認しておく必要があります。急性期の痛みは数日間(およそ2〜3日)経過すると痛みのピークを越えてゆるやかに回復する傾向にありますが、長期にわたる慢性的な痛みの場合は適切な対応をとらないと、よくならないばかりか、試合直前になって痛みが悪化してしまうことも考えられます。投球フォームが乱れていないか、適切な患部トレーニングを行っているかをチェックするようにしましょう。
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肩の前側が痛いときに確認したい投球フォーム
投球後のケアはもちろん、日頃から肩の状態を良好に保つためのエクササイズも行おう。
肩の前側が痛いというとき、その多くは投球フォームの崩れから起こることが多いように感じています。一番わかりやすいのは、投球側の腕が十分に上がりきらずに投げてしまうときに、その代償運動として肩をすくめて何とか腕を上げようとしたり、身体を非投球側に傾けて見た目に腕が上がったようにして投げているフォームです。こういった場合は肩の後部にある広背筋や僧帽筋などの柔軟性が低下してさらに代償運動に頼るようになりますし、肩こりがひどくなって頭痛などに悩まされる選手も少なくありません。
また身体を傾けて投げることによって腰が痛くなってしまうこともありますし(右投げの投手であれば主に左腰)、身体が早く正面を向いてしまうことによって投球肘の内側にストレスがかかって肘が痛くなるケースもあります。始めのうちはしっかりと軸足でバランスをとって投げていた選手も、練習量が増えるにつれて疲労から身体が思うように動かなくなってくるため、フォームが崩れて肩の前部などが痛くなることが考えられます。
また逆に腰や背中などに痛みを感じている選手が投球動作を繰り返すと、身体のひねり動作が十分に得られないため、上半身に頼ったフォームになってしまいがちです。このような場合にも身体がひらいて正面を向きやすくなり、それを何とかごまかそうとして肩に負担がかかってしまうということになります。上半身に頼った投げ方は下肢の柔軟性とも関連が深く、ハムストリングスなど太もも裏の筋肉や足関節の硬さなども影響することがあります。
肩の安定性を高めるトレーニングを継続する
肩に痛みのある場合、患部周辺部のケアやコンディショニングを行うこととともに肩の機能を安定させるためのトレーニングを継続して行っていくことが大切です。腱板筋群(肩のインナーマッスル)のエクササイズを始め(参考ページ:正しくインナーマッスルを鍛える)、肩甲骨の動きをよくするエクササイズなども日頃から継続して行っていくことが必要です。
試合に向けてなるべくよい状態で試合に臨むためにも、地道なトレーニングは不可欠です。原因を理解し、状態を改善させるためのコンディショニングをぜひ継続して行うようにしましょう。
次回コラム公開は6月30日を予定しております。
(文=西村 典子)