立教新座高等学校(埼玉)【前編】
「歴史」と「自主性」を両立させる「立教新座スタイル」
「見よ見よ立教 自由の学府」
立教大学、及び旧名・立教高等学校(2000年に現校名に変更)校歌「栄光の立教」における最後の一節である。このように、自由を校是とする立教新座高等学校。1948年に創部され、1955年春<1959年までは東京都豊島区に立地>・1985年夏に続く「30年周期」での3度目の甲子園を目指す同校硬式野球部もその精神を受け継ぎつつ、近年、他にはない戦い方を打ち出しつつある。
名付けて「アメリカンスタイル」~一見すれば、大学野球にも近いスタイルから彼らは何を見出そうとしているのか?
前編ではその根底にある野球部の歴史や今年4月から指揮を執る冨部 勇人監督が掲げる「各自で練習」の真意を聞いた。
練習は各自で決定、自由闊達な「立教新座スタイル」の歴史
冨部 勇人監督(立教新座)
「レギュラー陣の打撃練習のみ。それ以外の選手は各自で練習」
取材日、冨部 勇人監督が提示したメニューはこの1個だけであった。監督が組んだ練習メニューに従い、一糸乱れず選手たちが動くかつての「高校野球」とは全く意を異にする斬新な光景。極端に言えば「1人OFF」でも構わない設定である。
だが、選手はさぼらない。各自、自分の課題克服に向かって、それぞれのメニューを淡々とこなしている。それも楽な練習に走らず、ポール間走などきついメニューを全力で行っている選手もいた。
しかも大人数がまとまって練習をするようになると、空気が一気に変わる。気になるプレーがあれば、その場でプレーを止めて、選手同士がそのプレーについての意味を徹底的に議論する。
では、なぜ立教新座にはこのような練習が根付いているのか?そこを解き明かすには少々歴史を追う必要があるだろう。
立教新座は1960年に東京都から埼玉県新座市に移転後、1968年に初めて夏の埼玉大会でベスト8入りを果たすと、翌年から3年連続でベスト4入りするなど、1980年代まで埼玉県屈指の強豪として成長を果たした。後に立教大で神宮も沸かせた当時の野球部OBは日本ハムで巨漢内野手として話題を集めた矢作 幸一氏や、今ではタレントとして大活躍している長嶋 一茂氏(元ヤクルト・巨人)である。
そして1985年には後に立教大でも東京六大学屈指の右長距離砲として名を馳せた黒須 陽一郎を4番に埼玉県私立高校初ともなる夏の甲子園初出場。PL学園(大阪)の清原 和博、桑田 真澄の「KKコンビ」が集大成の優勝を飾る中、佐世保実(長崎)を破り甲子園初勝利を達成。「個性」を押し立てたチームカラーは当時から健在だった。
「実力派」「学生監督」の系譜引き継ぐ青年監督
冨部 勇人監督(立教新座)
その後2000年に立教から現校名「立教新座」となっても、野球部は「個性派タレント」を数多く輩出する。プロ入り前に投手転向し広島東洋カープでの11年間で248試合に登板した「左殺し」広池 浩司(現:埼玉西武ライオンズファームディレクター補佐兼ファーム編集室長)や、2009年・東北楽天ゴールデンイーグルスドラフト1位指名・今年2年ぶりに勝利をあげた戸村 健次(立教大)。そして2007年、チームが再びスポットライトを浴びる時がやってきた。
夏の埼玉大会でベスト8入りを果たすと、第90回記念大会として埼玉大会が南北に別れた2008年には南埼玉大会準優勝。当時、立大4年生だった伊藤 界勇氏が学生監督として指揮を執ったことも話題になった。
さらに伊藤氏が就職により監督を退いた後は、2008年準優勝時の二塁手だった城崎 智弘氏が伊藤氏に続く学生監督に就任。その後は2011年から同校OBで1985年の甲子園出場メンバー、後に日本石油(現:JX-ENEOS)時代に日本代表外野手として1996年・アトランタ五輪で銀メダルも獲得した高林 孝行監督。さらに1985年甲子園出場時監督・大野 道夫氏の再任といった実力派監督を経て、今年4月からは同校OB・27歳の冨部 勇人監督が指揮を執る。
このように指揮官を選ぶ際も経験値の「深い、浅い」を状況に応じて使い分ける。これも立教新座野球部の特徴といえるだろう。
冨部監督「各自で練習」の真意
「大野先生の時から自主性を尊重する学校ですが、私が就任してからその色をもっと出そうとしています」
2代空く形にはなったが、「青年監督」が戻ってきた立教新座。ただ、コーチを長年務めた冨部監督は立教高時代から続く伝統を引き継ぎつつ、自分のカラーをそこに組み込もうとしている。
たとえば試合前までのアップ。
「アップは一生懸命やるもの。指導者から見て手を抜いて見えるともう一度やり直し!というチームもありますが、私の場合、手を抜いているように見えても、一生懸命やっていても、試合に100パーセントに持っていけるようなウォーミングアップならば問題ありません」
指導者の視点から見れば「こんなアップをさせて選手がケガをしたら……」と、どうしても思うもの。が、冨部監督に言わせれば、そこを怠ると「自主性重視の野球はできない」という。
「『周りに見られるからアップは一生懸命やる』。こうなると、結局すべてが中途半端になってしまうんですよね。コーチで立教新座の指導に携わっていた時、周りのチームを見る機会も多くあったのですが、概念が曖昧だったり、目的が不明確な練習をしているなと感じるチームがありました」
ここに「立教新座スタイル」のキーワードがある。やり方は問わない。その代わり冨部監督は「目的」を徹底する。
「私の言っていることはシンプルです。すべての練習に対して、しっかりと目的を教える。ですから自主練習の時も『自主練習にはこういう意味があるんだよ』と話すと、選手たちは積極的にランニングをしたり、単距離ダッシュ、ウエイトトレーニング、バッティング、守備練習……。いろんな練習をしています。僕自身もそれを見て『意味を話せば、みんなはしっかりと理解をして 自分に必要な練習に取り組むんだな』と思いましたね」
その究極系が「各自が自由に練習」。すなわち「アメリカンスタイル」ということなのだ。
後編では立教新座「アメリカンスタイル」の深層について紹介。「自由」と「責任」をいかに重ねあわせるかについても探っていきます!
(取材/文・河嶋 宗一)