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県立高知南高等学校(高知)

2013.03.12

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 『選手権ベスト4・秋季四国大会優勝候補大本命の明徳義塾、秋季高知県大会準々決勝で敗れる!』
 2012年10月6日・土曜日13時前。にわかに信じがたいニュースが、四国中を駆け巡った。相手は併設型中高一貫教育県立校の高知南。県内公立高校では中位以上の実力を有するとはいえ、これまでの明徳義塾との実力差を考えれば、容易に起こる出来事ではなかった。

 ジャイアントキリング(番狂わせ)は、なぜ起こったのか?
 その要因を検証した時、高知南が押し進めた『完璧な準備』が見えてきた。

2週間の準備徹底から始まった驚愕への伏線

 勝利への伏線は、明徳義塾戦の3週間前から始まっていた。
 秋季高知県大会が開幕した9月15日、高知南高知海洋との1回戦に臨むも延長12回を戦う大苦戦。6番・岡﨑史鉱(2年)のサヨナラ打により辛くも2対1と初戦をモノにしたが、嶋川健太(2年)1本柱の高知南にとって、打線の建て直しは急務であった。

▲高知南 岡﨑衛監督

 しかし、現役時代は伊野商で山中直人監督(現:岡豊監督)から指導を受け、高知南就任4年目を迎える岡﨑衛監督は決して慌ててはいなかった。
 19日の2回戦・高知追手前戦までには、
「相手投手はコントロールがいいので、フリーバッティングでどこがダメか一球ずつ確認しました」と、打線の方向性を微調整。結果、2回戦は3回に 打者12人を送り、8点を奪うなど4回までに10得点でコールド勝ち。嶋川の負担を最大限軽減する形で、彼らは明徳義塾への挑戦権を得たのである。
 嶋川、小崎洋伸(3年)のバッテリーは8月に高知と練習試合で対戦した際に得た「遅い変化球なら抑えられる」手ごたえを内角低めの制球で確固たるものにすべく鍛錬を続け、守備練習ではピンチを想定したケースノックにおいて、強い球足への対応を徹底。
 これにより「いつもより後ろに守っても間に合う」(森本悠介三塁手・2年)、「一歩前に出て前に止めたら何とかなる」(竹下凪遊撃手・2年)と会得できた。
 また、明徳義塾のエース・岸潤一郎(1年)投手の攻略のため、
明徳義塾の試合を保護者がビデオ撮影してくれて、1枚ずつDVDに焼いてくれたんです。それを見たことで岸くんはストレートに自信を持っていることと、配球が外角主体だということがわかりました」と、主将の田中健仁右翼手(2年)は語る。

 これがバッティング練習で大きな効果を発揮する。
「岸くんは捕手の配球通り投げるので、コースを絞って統一したバッティング練習ができました」(森本)
試合を迎えるまでの2週間、彼らは明徳義塾戦に向けて準備をし続けた。

 一方で、明徳義塾は、4番の西岡貴成一塁手(2年)以下、5番・岸、6番・逸﨑友誠遊撃手(主将・2年)、7番・宋皞均(ソン・ホキュン・2年)までが、岐阜国体の仙台育英戦からわずか中3日と、疲労を取りきれていないというハンディはあった。

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[page_break:控え選手に至るまでの徹底が呼んだジャイアントキリング]

控え選手に至るまでの徹底が呼んだジャイアントキリング

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▲明徳義塾戦で決勝打の和田拓人(2年)

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 10月6日・[stadium]春野総合運動公園野球場[/stadium]。
 9時59分のプレーボール直後、主導権を握ったのは先攻の高知南だった。1番の弘嶋和樹中堅手(3年)が、「高めだったけど甘く入った」ストレートを狙い通り振りぬき、センター前に運ぶと、二死二塁から4番・嶋川が「ストレートを狙ってはいたが、決め球にスライダーがあることはわかっていたので、そこに反応した」と、流し打ちでいきなり先制。
 2番・山本和季二塁手(3年)が犠打時に指を痛めいきなり交代を強いられるアクシデントはあったものの、その裏、一死一、三塁のピンチで、
「エラーしないように足を動かすことを心がけた」と、野本和季(2年)が1点は与えながらも無難にアウトを増やしたことで、高知南は落ち着きを取り戻すことになる。

▲明徳義塾戦で延長13回207球を投げた嶋川健太(3年)

「中盤、守備でも大きなミスがなかったし、岸くんにも完璧に抑えられている形がなかったのが大きかったですね」指揮官もこう振り返ったように、4回裏に8番・馬場雄大捕手(2年)の犠牲フライで勝ち越された後も、嶋川は5、6回を大きく縦割れするカーブを駆使し、三者凡退に仕留める好投。
 また、攻撃でも4回を除けば毎回、塁をにぎわせる高知南
「みんな声が出ていたし、いい試合のムードを作っていた」(手嶋陽一朗左翼手・1年)と、チームのぶれない姿勢が、敵の焦りを招いた。

 7回表、先頭の7番・小﨑は三球三振。が、ワンバウンド空振りの定石通り、一塁まで全力疾走したことで、西岡の捕球は「完全捕球」と認められず一塁に生きることに。ここで高知南は、明徳義塾のエース・岸の「自信を持っているボール」に的を絞った。「とりあえずフェアゾーンに転がそうと思った」海治光昭中堅手(2年)と、「普段からファースト方向に転がすことを心がけていた」竹下の連続犠打で二死三塁とすると、弘嶋が詰まりながらも岸のファンブルを誘う内野安打で同点。この3人の転がした、ないしは打った球種は全て“ストレート”であった。

 かくして入念な準備に従い、慌てず、騒がす、自分たちを信じて狙い通りの接戦に持ち込んだ高知南。8回以降、スコアリングポジションにランナーを背負うピンチの連続も、嶋川は変化球で要所を抑え、ホームインを許さない。
「ここまで明徳打線を抑えて、すごいとベンチで思っていました」と、控え投手の高橋直杜(1年)も羨望の眼差しを送る中、試合はついに延長戦へと突入していく。

 4日前の仙台育英戦でも先発で7回93球を投じ、この試合でも12回までに147球の明徳義塾・岸。のちに馬淵監督も「疲労はあった」と認めたように、夏の甲子園を沸かせた1年生右腕の疲労度は限界点に達しようとしていた。
「球威は落ちていなかったが、練習通り高めには手を出さないようにした」という竹下の粘りに屈し、ついに先頭打者に四球を与えた延長13回表。ここで高知南・岡﨑監督は同点適時打を含む2安打の弘嶋にあえて送りバントを指示する。

 一死一塁。迎えたのは本来捕手ながら7回裏の守備から一塁手の守備についた和田拓人(1年)。「これはヤバイな」とおじけづきかけた和田だったが、すぐに無心になれた。
「中途半端な三振をしたらチームの士気が下がる。真っ直ぐだけフルスイングで何でも打とう」。そこには確かな根拠もあった。
「2週間前から自分のスイングを毎日チェックしていましたし、ボールを打つ瞬間まで見ることは特に意識していました」
 それが選球眼も生んだ。フルカウントからの6球目。和田は来たボールを思いっきり振りぬく。三塁コーチャーの小原圭(一塁手・2年)も「すぐに長打とわかった」という打球は左中間を抜く決勝三塁打に。それは、
「今日は2番がポイントになると思って、バットが振れる選手をおいた」指揮官の狙いが見事的中した瞬間でもあった。

 騒然とするスタンド。あと3人。先頭打者の岸が打った三塁ゴロ。「震えながら投げた」森本の送球を殊勲者の和田が脚を広げてさばいた瞬間、ほぼ流れは決まった。
 11回からつり始めた足をひきずりながら投じた嶋川の魂の207球目。それを宋が見逃した時、高知南は22年ぶり2度目の秋季四国大会ベスト4以上の衝撃をもたらしたのである。

▲練習参加選手全員による明徳義塾戦振り返り

「みんなが勝とうとしていた」(大畠智也投手・2年)
「いいムードで試合に臨めた」(熊坂寿輝二塁手・2年)
「あきらめずできたことが勝利につながった」(弘井勇輝遊撃手・2年)
「岡﨑先生の強いノックが守備のよさにつながった」(中北直輝捕手・2年)
 控え選手たちも一致団結して準備できたことを示す言葉が並ぶ中、
「ちゃんとやれば明徳義塾相手でも勝てることを証明できてよかった」と、田中主将は選手22名を代表してこのジャイアントキリングの成果を語った。

 とはいえ、その表情はいずれも今一つ冴えない。それはこの後に戦った準決勝・3位決定戦における悔いがあまりにも大きいからだった。

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逃した大魚の悔しさを糧に、今度は《ゆめのくに》甲子園へ

 『打倒・明徳義塾』から『四国大会出場』に目標が変わる中、迎えた高知商との準決勝。「独特の雰囲気があって自分のペースが乱れ、相手の応援にも呑まれてしまった」とエース・嶋川が語るように、高知南は投打が噛み合わず1対8で7回コールド負け。秋季四国大会、最後の椅子をかけた土佐との3位決定戦でも終盤まで試合の主導権を握りながら8、9回に5点を失い6対10で敗戦。初の四国大会出場は寸前で消えた。

「どっちか2つ、負けられない感じでした。私も3位決定戦の5回終了後、グラウンド整備時に『すんなりはいかない。ここからもう1つ、2つ山場があるから、気を引き締めて行こう』と選手たちに話をしたんです。ただ、それを後日、他校の監督さんに話をしたら『それを言ってしまったのか』と言われまして。私自身も意識していたと思います」(岡﨑監督)。

 そして2013年1月25日・21世紀枠で選抜大会出場を決めたのは・・・土佐。結果的に高知南の逃した大魚は大きかった。選手たちに悔しさは残ったが、それも甲子園に手が届く場所に立ったからこそ抱ける想い。最後に田中は再びチームを代表して春、そして夏への決意を述べた。
「冬の練習ではがんばって体も大きくでき、プレーも上達したと思うので、あとは細かいところをしっかりして、今度は『惜しかったね』と言われないようにしたいです。夏は一発勝負。がんばります」

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高知南グラウンド。奥は遊園地「わんぱくこ〜ち」

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 グラウンド三塁側で回る遊園地「わんぱく・こーち」の観覧車。「ゆめのくに」がすぐそばにある稀有な環境で、選手たちは今日も練習を続ける。ただ、彼らの目指すべき場所はもちろん甲子園。周囲にとって『絵空事』と思われた明徳義塾撃破を完璧な準備で「現実」にした彼らにとって、《ゆめのくに》への道程ははっきり見えているはずだ。

(文=寺下友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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