市立尼崎高等学校(兵庫)「連覇目指す市立尼崎の夏」
公立校同士のファイナルとなった昨夏の兵庫大会を制し、1983年以来、二度目の兵庫の頂点に駆け上がったのは、「イチアマ」の略称で地元民に親しまれている市立尼崎だった。甲子園では八戸学院光星と大熱戦を繰り広げた(試合記事)。延長10回の末、惜しくも4対5で敗れ、33年ぶりの勝利は成らなかったが、兵庫大会で披露し続けた粘り強い戦いを聖地・甲子園でも見せつけた。
あの激闘の夏から1年。2年連続の夏甲子園出場を目指す市立尼崎ナインを直撃すべく、兵庫県尼崎市に位置する学校を訪ねた。
旧チームのレギュラーが6名残った新チーム
殿谷 小次郎主将(市立尼崎)
2016年夏、悲願の甲子園出場を果たしたことで、33年ぶりの8月始動となった現チーム。甲子園のスコアボードにスターティングメンバーとして名を連ねた6名の経験豊富な2年生がそのまま残る、大きなアドバンテージを携えてのスタートとなった。竹本修監督がチーム発足当時の状況を振り返る。
「内野全ポジションとキャッチャー、そしてレフトの3番打者が残ったことで、秋までは間違いなく有利に戦えると思いました。このアドバンテージをしっかりと生かし切ってセンバツ出場を成し遂げる。チームの目標はそこ1本でした」
兵庫県大会3回戦ではプロ注目右腕・山内響を擁する東洋大姫路を延長12回の激闘の末、7対6(延長12回)で下し、甲子園出場校の底力を見せつけた。しかし、続く準々決勝の報徳学園戦では、2対4の逆転負けを喫し、センバツ出場の夢を絶たれてしまう。
7回まで2点のリードを奪いながら、終盤にエラー、四球、バッテリーエラーが絡んでの4失点。殿谷小次郎主将は「忘れられない試合」と語った。
「勝てた試合だったのにこっちが自滅してしまった。せっかくのアドバンテージを生かしきれなかったことがとにかく悔しかった」
1年前と異なる球場の雰囲気が生む「焦り」
練習の様子(市立尼崎)
今春は地区大会で3試合連続の二桁得点を挙げ、危なげなく県大会進出を果たすも、市立尼崎優勢とみられていた伊川谷北との2回戦を4対6で落としてしまう。序盤の3点のリードを引っくり返される痛恨の逆転敗戦だった。
前チームより正捕手を務める谷尻尚紀捕手は「油断したわけじゃなく、チーム全体に焦りが生まれてしまったのが大きな敗因」と証言した。
「昨夏に甲子園に出場してからは、球場の雰囲気が明らかに変わりました。うちがリードしている時は特に感じないのですが、市立尼崎が勝つだろうと多くの人が思っている試合でうちが苦戦を強いられると、途端に球場が『おいおい、まさかここで負けるんじゃないだろうな!?』みたいな雰囲気になるんです。
伊川谷北戦も同点になった時に球場全体がそんな空気になり、気づけばチーム全体に焦りが生まれ、平常心を失い、普段ならそうそう起きないようなミスや力みが生じてしまった。春の敗戦を必ずや夏に生かさなければいけないと思っています。チーム全体の大きな宿題です」
アプローチ改革を恐れないのがイチアマ流
市立尼崎は過去の慣習ややり方にとらわれず、いいと思ったことはどんどん積極的に取り入れることで知られる。
現在、市立尼崎の全体練習メニューの大部分は「走者をつけた実戦形式のノックとシートバッティング」。全体時間に占める実戦形式練習の割合は年々高まり、昨年までは時折おこなっていたフリーバッティング、シートノックは「今ではまったくおこなわなくなった」という。
「実戦で成果を出すことを考えた場合、実戦形式メニューに勝るメニューはない、と思うようになったんです」(竹本監督)
2年前からはウエイト・トレーニングに取り組む時間を増やし、1本70メートル以上の距離を走るメニューを基本的に廃止した。その意図を竹本監督は次のように説明した。
「今まではグラウンドでくたくたになるまで延々と走らせるメニューが冬場のトレーニングの中心でしたが、どれだけ走っても足は速くならないし、体は大きくなるどころか痩せていく。それならば走る量を減らすことで生じた時間でウエイト・トレーニングに徹底的に取り組もうと」
その結果、チームの平均体重は大幅にアップ。短距離走のタイムも向上し、故障者も激減したことが、33年ぶりの甲子園出場を呼び込んだ要因のひとつとなった。
今年は6月の追い込み時期におこなうウエイト・トレーニングの比重を昨年対比でアップ。重量を下げ、回数を多めに設定することでトレーニング中の故障を防止しつつ、筋力を向上させるメソッドに取り組んだ。市立尼崎戦士のパワーアップしたボディにも要注目の2017年夏だ。
[page_break:兵庫連覇がかかる2017年夏に向けて]兵庫連覇がかかる2017年夏に向けて
辻井 亮汰(市立尼崎)
前チームの絶対エース・平林弘人から1番を受け継いだ最速142キロ右腕・辻井亮汰(3年生)もこの1年で大きな成長を遂げた。昨秋まではピンチの場面で本来の投球を見失ってしまうことが多かったが、実戦形式の練習で走者を得点圏に置いた状況で本番のピンチの場面をイメージしながら数多く投げ込むことで、メンタルの強化に成功した。
「ハートの部分はかなり改善されたと思っています。甲子園に導いた前チームのエース・平林さんのように粘り強く投げていきたいと思っています。」
成長著しい長身右腕・小森陵司(2年)らが控える投手陣の柱として、真夏の激戦に臨む。
殿谷主将は言う。
「うちは走塁と守備を軸に、粘って勝っていくのが身上のチームです。盗塁に関しては去年以上に警戒されるとは思いますが、警戒される中でも二盗、三盗を決めていけるだけの練習を重ねてきました。
今年は周囲の期待値が去年とは大きく違うことをひしひしと感じますし、相手チームも昨夏の兵庫チャンピオンという目で、ぶつかってくるとは思いますが、絶対に受けて立つことはせず、常にチャレンジャー精神をもって戦っていきたい。相手がどこであれ、日頃やってきたことをきちんと出せれば、2年連続の甲子園出場は叶うと信じています。目標は甲子園の校歌斉唱。去年果たせなかった甲子園での33年ぶりの勝利を今年こそ果たしたい」
市立尼崎の初戦は7月13日。相手は9日に3428を9対2(7回コールド)で下した兵庫柏原に決まった。兵庫の夏連覇をかけた戦いがいよいよ始まる。
(取材・文=服部 健太郎)
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