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埼玉西武ライオンズ・伊藤 翔 開幕一軍入りで開けた 「独立リーグ経由NPB」の選択肢

2018.03.29

 3月30日(金)いよいよからセントラルリーグ、パシフィックリーグで同時開幕するNPB(日本プロ野球機構)ペナントレース。新星登場にファンの期待も高まる中、昨年パ・リーグ3位でクライマックスシリーズ進出を果たした埼玉西武ライオンズではドラフト3位ルーキー右腕・9891が開幕一軍入りを果たした。

 横芝敬愛(千葉)高卒後、四国アイランドリーグplus・徳島インディゴソックスに入団した19歳。今回はそのブレイクした理由と彼が切り拓いた「独立リーグ経由NPB入り」の意義について考えていきたい。

伊藤 翔と徳島インディゴソックスの「運命的出会い」

埼玉西武ライオンズ・伊藤 翔 開幕一軍入りで開けた 「独立リーグ経由NPB」の選択肢 | 高校野球ドットコム
伊藤翔投手の横芝敬愛高校時代

 オープン戦は5試合で7回3分の2を投げ、わずか1失点。さらに3月23日の東北楽天とのイースタンリーグではリリーフ4回で1死球・4奪三振無失点。「いとう・しょう」の名はすでに埼玉西武ライオンズファンの域を超え、全国のプロ野球ファンに認知されるに至っている。

 

 彼の投球には19歳らしからぬ成熟が見える。常時140キロ中盤のストレートを強気に投げ込むばかりでなく、変化球も横滑りするスライダー・カーブに加え、ツーシームも今季習得。3月7日の福岡ソフトバンクホークスとのオープン戦で2013年から3年連続で打率3割を記録した中村晃から三振を奪うなど、早くも使える変化球にまで仕上げてきた。

 しかし、そんな横芝敬愛 伊藤 翔ですら2年前、横芝敬愛(千葉)高校3年時には、ドラフト指名漏れを経験している。3年夏までには最速147キロまでスピードアップに成功するも最後の夏は千葉大会3回戦・千葉明徳戦に敗戦。プロ志望届を提出し、NPB球団の入団テストを受験したが伊藤を指名する球団はなかった。

 その直後、伊藤は日本独立リーグの雄・四国アイランドリーグplus所属の徳島インディゴソックスからドラフト1位指名を受け、独立リーグからNPBを目指すことに。この運命的な出会いそこが、9891の人生を光射す方向に導く要素になった。

[page_break:徳島インディゴソックスの「環境」が成長の助けに]

徳島インディゴソックスの「環境」が成長の助けに

埼玉西武ライオンズ・伊藤 翔 開幕一軍入りで開けた 「独立リーグ経由NPB」の選択肢 | 高校野球ドットコム
伊藤翔投手(右)と独立リーグ時代、バッテリーを組んだ垂井 佑樹捕手(左)

  徳島インディゴソックス・南 啓介球団代表は当時の伊藤についてこう評する。
「140キロを超えるストレートも魅力でしたけど、(伊藤)翔がすごかったのは変化球でストライクが取れること。独立リーグの投手は変化球でストライクが取れる投手は案外いないんですよ。加えてメンタルも強かったですし、申し分ない投手でした」

 その徳島インディゴソックスの「環境」も彼の成長欲を十二分にかきたてるものだった。2014年のドラフトから2016年の3年間で、福永春吾(阪神タイガース)、今季開幕直前で2年目にして支配下選手登録が決まった木下 雄介(中日ドラゴンズ)など育成枠含めて6人の投手をNPBに輩出した四国アイランドリーグplusの優等生は、彼らの潜在能力を引き出した殖栗 正登トレーナーが主宰する「インディゴコンディショニングハウス」などトレーニング施設も充実していた。

  かくして福岡ダイエーホークスや、台湾・中南米などで右腕一本で渡り歩いた所属していた養父 鐵・前監督から投球のイロハを学び、垂井 佑樹捕手から投球の心構えについて、叱咤激励を受けながら成長を見せた伊藤はレギュラーシーズンで最速152キロを叩き出し、8勝4敗の好成績で徳島インディゴソックスの前期優勝に大きく貢献。
さらにリーグチャンピオンシップ、そしてルートインBCリーグ・信濃グランセローズとの間で戦った日本独立リーググラウンドチャンピオンシップでは連続MVPを受賞し、徳島インディゴソックスの独立リーグ日本一に貢献。最後は年間グラゼニ賞、リーグMVPも受賞し、埼玉西武ライオンズから3位指名を受け、高卒1年目で夢のNPB入りを決めた。

 ちなみに伊藤は昨年12月3日に行われた横芝敬愛高校野球部主催の激励会で、「まずは開幕一軍。3年後の東京五輪、そしてWBCの代表選手になれるよう頑張っていきたい」とコメント。その宣言通り開幕一軍入りを決めた彼の前途は極めて明るいと言えるだろう。

[page_break:伊藤 翔が示す「独立リーグ経由NPB」の価値]

伊藤 翔が示す「独立リーグ経由NPB」の価値

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今年、ドラフト上位指名を狙う鎌田 光津希津手

 こうして中日ドラゴンズに育成1位指名された大藏 彰人を含め、4年間で8選手をNPBへ送り出した徳島インディゴソックス。今季も9891に続く「独立リーグ経由開幕一軍入り」を期す面々がひしめいている。

 まずは伊藤が昨年、福永が一昨年まで2年間背負っていた背番号「14」を継承する最速149キロ右腕・鎌田 光津希(敬愛大)。石井 貴監督直伝の「ナックルカーブ」を武器にドラフト上位指名を狙う。

竹内裕太(鶴見大)もしなやかなフォームから繰り出す速球は最速145キロ。制球力、変化球の精度も高く「トレーニング次第では大化けも可能」と首脳陣から評価を受けている好右腕である。

 そして地元・徳島北高卒の新田 大輔。190センチの長身から最速143キロを武器にする大型右腕。大学進学を考えていたが、伊藤と同じく覚悟を決めて、独立リーグに挑戦した心意気を持つ。開幕は練習生登録スタートとなったが、支配下登録となれば「高卒1年目NPB指名」を最右翼だ。

 このように伊藤の開幕一軍入りにより脚光を浴びている徳島インディゴソックスを筆頭とする独立リーグの「育成力」。伊藤の活躍がそこに相乗効果をもたらせば、独立リーグの価値はさらに高まり、伊藤に続く才能が高い投手が独立リーグを目指すパターンは必ず増えてくるに違いない。埼玉西武ライオンズ・9891・19歳。背番号「36」は日本球界に新たな可能性を提示しながら、右腕を思い切り振る。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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