東北地区記者・高橋 昌江氏が選ぶ今年のベストゲームTOP5
今夏の甲子園では、仙台育英が26年ぶりとなる決勝進出を果たした。第1回大会で秋田中が決勝に進んでから100年。近年では、花巻東、光星学院(現八戸学院光星)など、東北勢にとって春夏11度目の頂点への挑戦だった。一時同点に追いつき、ボルテージが上がった試合展開だったが、東北勢の夢はまたも敗れた。結果として悲願達成はならなかったが、“その時”が近いことも予感させた。この決勝に限らず、今年の東北地方は、特に夏において劇的な試合が多かった。
5位:第97回山形大会準々決勝 山形中央vs山形城北
昨秋、今春と東北大会に出場した山形城北は初の甲子園出場を視野に入れていた。一方の山形中央は昨夏を含め、2010年センバツを皮切りに春夏合わせて4度の甲子園出場がある。しかし、今年のチームの戦績は、甲子園帰りだった昨秋は県大会準々決勝で鶴岡東に敗れ、今春は3年ぶりに地区予選敗退で県大会出場を逃していた。
試合は、山形城北が1回表に敵失で1点を先制したが、その裏、すぐさま山形中央が反撃。二死一、三塁で右打ちの5番・高橋 稜佑が右中間に逆転3ランを放った。今年のドラフト会議で広島から指名された4番・青木 陸が敬遠された直後の、逆方向への見事の一発だった。
両校ともエースが完投しているが、山形中央・佐藤 僚亮は山形大会直前に、左手首にヒビが入るケガを負っていたと大会後に知った。初回にミスで1点、8回には2ランを浴びたが、状態を考えれば、3回から7回まで無安打投球だったことは及第点だ。(試合レポート)
4位:第97回岩手大会決勝 花巻東vs一関学院
花巻東・高橋 樹也(写真は春季東北大会にて)
延長13回の激闘
勝てば甲子園、負ければ終わり——。地方大会の決勝の勝敗は天地ほどの違いが出る。今夏の岩手大会決勝は、秋季県大会優勝の花巻東と春季県大会優勝の一関学院が顔を合わせた。プロ注目左腕・高橋 樹也を筆頭に複数の投手陣をそろえる花巻東。対する一関学院は左右の2枚看板をそろえ、5年ぶりの聖地を狙っていた。春季県大会では、やはり決勝で対戦しており、2対0で一関学院に軍配が上がった。夏の決勝も最小得点での接戦になるだろうと思われた。しかし、予想に反して、試合は乱打戦となった。
6回を終えて、7対7の同点。8回に花巻東が勝ち越したが、その裏、一関学院はすぐに追いついた。8対8で延長に突入。延長13回表、花巻東は一死二塁で主将の佐藤 唯斗が中前に適時打を放って決着をつけた。投げては、エース・高橋が16安打、9四死球とボロボロになりながらも完投した。
3位:第97回選手権大会準々決勝 仙台育英vs秋田商
秋田商をベスト8に導いた成田 翔(写真は3回戦の健大高崎戦)
仙台育英にとっては、3回戦の花巻東戦に続いての“東北勢対決”となった。
3回まで両者無得点と拮抗していたが4回、仙台育英は二死から平沢大河(2015年インタビュー)が秋田商の左腕・成田翔(関連コラム)からソロ本塁打を放ち、先制した。5回には無死満塁から連打で3点を追加するなど、仙台育英が試合巧者ぶりを発揮。一方の秋田商は1対6で迎えた最後の攻撃で2点を奪うなど、意地を見せた。
仙台育英と秋田商は頻繁に練習試合をする間柄。ある時、こんなこともあった。
夏の秋田大会で敗れた秋田商・太田 直監督は仙台育英・佐々木 順一朗監督に「今から仙台育英に行ってもいいですか?」と電話をかけた。佐々木監督が「いいよ」と返答すると、すぐに仙台育英の監督室のドアが開いた。これから、秋田から向かってくるものだと思っていた佐々木監督はビックリ。それくらい、太田監督は佐々木監督を慕っている。甲子園の大舞台での対決は感慨深かったに違いない。(試合レポート)
2位:第97回青森大会決勝 三沢商vs八戸学院光星
まさかの結末
誰もが予想だにしなかった結末だっただろう。今夏の青森大会決勝は、ノーシードの三沢商と3季連続甲子園出場の八戸学院光星が争った。
先取点を奪ったのは王者・八戸学院光星。3回に一死満塁で加角 翔太が犠飛を放った。しかし、八戸学院光星打線は三沢商・野田 海晴を攻略できず、追加点を奪えない。エース・中川 優が力投を続けるも、8回、三沢商は森田 亮の犠飛で同点に追いつき、1対1のまま延長に突入。この時点で予想を超える展開だったが、ここからがまた劇的だった。12回裏、三沢商は米内山 将輝が右翼線二塁打を放つと、野田の二ゴロで三進。三沢商佐藤 拓海は四球で歩き、二死一、三塁とすると、鎌本 憲は2ストライクからのチェンジアップに空振り。三振でチェンジかと思われたが、中川の投球はワンバウンドし、捕手の馬場 龍星は止めきれず。三走・米内山がホームに突っ込み、三沢商が29年ぶりの甲子園出場を決めた。
青森で公立校が甲子園行きを決めたのは19年ぶり。歴史が動いた試合だった。
[page_break:1位:第97回選手権大会決勝 東海大相模vs仙台育英]1位:第97回選手権大会決勝 東海大相模vs仙台育英
甲子園中の佐藤 世那(写真は準決勝の早稲田実業戦)
高校野球が始まって100年。未だ優勝がない東北勢だが、この節目の年に宮城・仙台育英が決勝に進出した。しかし、初回にいきなり2点を失い、3回にも2失点。突き放されたが、その裏、4連打に敵失で1点差に迫る。
ところが4回にまたも2点を献上し、5回を終えて3対6とリードを許した。東海大相模の一方的な展開になるかと思われたが、6回二死満塁で佐藤 将太が中越えの三塁打を放ち、一気に同点に追いついた。
甲子園に沸き起こる「育英コール」。甲子園は、東北地方の初優勝に背中を押していた。7、8回と両者、無得点に終わり、延長もよぎる中、9回、仙台育英のエース・佐藤世那(2015年インタビュー)は東海大相模・小笠原慎之介(関連コラム)に勝ち越し本塁打を浴びた。さらに3点を失い、仙台育英は6対10で敗戦。東北勢の悲願には届かなかった。(試合レポート)
100年目の奇跡は起こらなかった。光星学院(現八戸学院光星)が3季連続甲子園決勝に進んでいた時、東北勢の躍進の要因をいろんな人に聞いた。まとめると、心技体に関して情報が豊富になったこと、土日で遠征ができるようになったこと、交通網が発達したこと。そんなことが挙げられ、なるほどなと思った。
仙台育英・佐々木順一朗監督に夏の大会後、「東北勢の優勝がないのは何故だと思うか」という質問をすると、「まだ、そんな流れではなかっただけの話ではないか。そんなに大それたことは何一つないと思う」と言われ、これもなるほどなと思った。
確かに、東北の地にまだ大旗は来ていないが、力は確実に付けている。組み合わせ抽選会で拍手される時代はとうに過ぎ、初戦敗退するケースは珍しくなった。
高校野球が始まって100年。まだ甲子園優勝はないが、それはまた夢が続いているということ。また夢に挑めるということ。夢は続いている。
(文・高橋 昌江)
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