高橋純平(県岐阜商ー福岡ソフトバンク)「なぜ今年の高橋純平は好戦的なのか?」
自主トレ期間中の1月中旬、今年のドラフト1位、田中 正義(投手)<関連記事>に挑戦状を叩きつけたと話題になったのが一昨年のドラフト1位、高橋 純平(投手)<関連記事>だ。「ライバルだと思っている。チームメートでもあるけど、先輩を押しのけて(開幕ローテに)入るつもり」と取材する記者に宣言した。その実力が飛び抜けていることもあり、高橋が他の投手に対して好戦的に振舞うことはなかった。そういう選手がこれほど強い言葉でライバル宣言をしているのだ。田中の存在感の大きさとともに、高橋の今年に懸ける思いの強さがわかる。
高校時代からフォームは文句なしに素晴らしかった
高橋 純平(県立岐阜商時代)
県立岐阜商時代、甲子園大会に出場したのは3年時の15年春だけだが、高橋純平の名前を全国の高校野球ファンに知らしめるにはその1回で十分だった。4対1で勝った1回戦の松商学園戦は完投し、被安打2、与四球1、奪三振11という目の覚めるようなピッチングを展開し、ストレートの最速は150キロ。この見事すぎる成績以上に目をみはったのが投球フォームだ。
始動からフィニッシュまで上体が上下動したり、左肩上りしたり、という悪い動きがまったく見当たらない。微動だにせずスッと立った上半身が下半身に誘導されて真っすぐ捕手が構えたところに向かっていく。さらに腕を前に振って行くときのヒジの位置が高く、球持ちもいい。前年の高橋光成(前橋育英→西武)<関連記事>、前々年の松井裕樹(桐光学園→楽天)<関連記事>以上のスケールの大きさと完成度の高さと言っていいだろう。
3対0で勝った2回戦の近江高戦はさらに完璧だった。松商学園戦が内野手のエラー絡みとはいえ1失点したのに対して、この日は被安打3、与四球1、奪三振10で完封。ストレートの最速は1回戦に続いて150キロを記録し、1回はカーブを多投して、2回以降の力勝負の伏線にした。実際、1回裏は1個も三振を取れなかったが、2回から4回までの3イニングは毎回2つの三振を奪い、その結果球はすべてストレートだった(3、4回はストレートの見逃し)。
準々決勝の浦和学院戦に敗れ、夏は岐阜大会の準決勝で敗れたため甲子園出場は叶わなかった。それでもU-18ワールドカップの日本代表に選出され、ユニバーシアードに出場する大学日本代表との壮行試合では1イニング投げて被安打0、与四球1、奪三振1で無失点に抑えている。
実は夏以降、左太もも肉離れのためほとんど投げていない。岐阜大会は準々決勝の中京高戦だけに登板し、敗れた斐太高戦は3対4で競った試合にもかかわらず登板していない。故障の深刻さがうかがえるし、それでも日本代表に選出されているところに期待の大きさが感じられる。大学日本代表戦、U-18ワールドカップの成績は次の通りだ。
大学日本代表戦 1回、0安打、1四球、1三振、0自責
オーストラリア戦 1回、1安打、2四球、2三振、0自責
メキシコ戦 1回、0安打、0四死球、2三振、0自責
〇キューバ戦 2回、1安打、0四死球、1三振、0自責
<合計 5回、2安打、3四球、6三振、0自責、防御率0.00>
プロ入り後、高橋は恵まれた素質を開花させることができるか?
高橋 純平(県立岐阜商時代)
超高校級の評価を受けて臨んだ2015年のドラフトでは中日、日本ハム、ソフトバンクから1位で入札され、抽選で当たりクジを引き当てたソフトバンクに入団する。12球団ナンバーワンの選手の厚さを誇る球団だけに、即戦力の活躍ははなから期待されていない。1年目のファームでの登板は7試合にとどまり、成績は2勝1敗、防御率2.20。
全国の野球ファンがテレビ画面で高橋の勇姿を見ることができたのは7月14日、倉敷・[stadium]マスカットスタジアム[/stadium]で行われたフレッシュオールスターゲームではないか。ウエスタン選抜の先発として登板、先頭のオコエ瑠偉(楽天)<関連記事>に二塁打を打たれるが4番岡本和真(巨人)<関連記事>の5球目にストレートが最速154キロを計測し、最後は150キロのストレートで空振りの三振に切って取っている。
最初の方で高橋の長所は「投球フォーム」と書いたがもう1つ付け加えると、大谷翔平(日本ハム)<関連記事>と酷似した〝ある部分″に高橋の意識の高さを感じる。それは投げ終わったときの左足の引きである。大谷はこの動きを「(ステップした足で)ブレーキをかけてボールを加速させるため」と話し、同じ動きをする菅野智之(巨人)<関連記事>は「ピッチング動作の中に止まっている時間を作るためステップ位置に上がり傾斜のついた板を置いて投球練習をしている」と言う。日本を代表する大谷と菅野と同じ取り組みをしているところに、高橋のピッチングに対する並々ならぬ意欲を感じるのである。
ソフトバンクのチーム作りにも注目したい。2014年以降、3回のドラフトで15人を指名し(育成ドラフトを除く)、そのうち13人が高校生という極端な指名を続けている。そしてこの動きと連動するように昨年から福岡県筑後市に二軍施設、[stadium]HAWKSベースボールバーク筑後[/stadium]を開設。この施設の設備内容が凄い。たとえば、投手の投げるボールの回転数などが計測できる「トラックマン」という高価な機器を6人が一斉に投げられる室内ブルペンに、1人に対して2台分、設置されているのだ。そして、そのデータが福岡にいる工藤 公康監督がリアルタイムで見ることができる。
ダイエー時代、さらにソフトバンクに受け継がれた当初、ホークスは選手に資本を投下する球団だった。99年以降の18年間、優勝7回(日本一5回)の成績を見ればその資本投下が功を奏したことがわかるが、現在は選手より施設への資本投下の方が目立つ。一過性ではなく、長いスパンで強くあり続けようとする球団の取り組みがわかる。
その[stadium]HAWKSベースボールパーク筑後[/stadium]で技術を磨いたプロ3年目までの選手に将来のエース候補が勢ぞろいしている。前出の田中正義、小澤怜史<関連記事>、松本裕樹たちで、その中でも今季最も期待をかけられているのが高橋純平である。「そういう自分の立ち位置をわかっていますよ」というサインが田中への挑戦状だったのではないか。高橋が飛び出せば、田中達後続も続き、ソフトバンクの将来性重視のドラフトは一挙に花咲くことになる。
(文=小関 順二)
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