平沢 大河(千葉ロッテマリーンズ)「千葉ロッテのホープ・平沢の完成形は安打製造機・篠塚 和典!」
「侍ジャパン」や「一流選手」の称号へ向かって日々、レベルアップに励んでいる「プロ野球ネクストヒーロー」。このコーナーでは高校野球で一時代を築いた選手たちのプロ入りまでのプロセスと現在の活躍に迫っていく。第2回は2015年ドラフトで千葉ロッテマリーンズから1位指名を受けた平沢大河選手だ。
ショートで育ててみたいと思わせる平沢の守備力の高さ
平沢 大河(写真は仙台育英時代)
2017年シーズン前、伊東 勤・ロッテ監督は鈴木 大地を遊撃から二塁にコンバートすると発表した。昨年、遊撃のベストナインに選出され、打率.285はリーグ10位の安定感を誇る。リーグを代表するショートストップと言っていい。守備率.978はリーグ3位と平均的だが、守備機会(刺殺+補殺+失策)は中島 卓也(日本ハム)の680に次ぐリーグ2位の632で、これは鈴木の守備範囲の広さを物語っている。遊撃手としての出場数は中島の143試合に対して135試合。ちなみに、ロッテで鈴木以外に遊撃を守ったのは平沢が19試合、三木 亮が7試合、大嶺 翔太が1試合である。
これほど安定感のある鈴木を二塁にコンバートするのである。伊東監督の決意の裏には2つの理由があったと思う。鈴木の遊撃手としては平凡な肩に対する不満、そして高校卒2年目・平沢大河の潜在能力に対する期待である。
平沢を最初に見た2014年秋の明治神宮大会での第一印象は「守備がうまい選手」。その印象は高校時代に見た10試合、常について回った。14年明治神宮大会の九州学院戦は1回裏、二塁ベース寄りの強いゴロを好捕して一塁送球でアウト。7回には安打になったがセンターに抜けるような速い打球を後退しながら捕球。同大会の浦和学院戦(試合レポート)は3回にレフトへ抜けようかという打球を逆シングルで好捕して6-4-3の併殺。7回にはセンターのフライを背走して後ろ抜きで好捕している。
15年の選抜では7回、安打になったが三塁手がはじいた三遊間の打球を好捕してワンバウンドの遠投を試みている。同大会の敦賀気比戦(試合レポート)は3回、三遊間への深い打球を好捕、そのあとのスローイングが悪送球になって打者走者の二進を許すが、強肩が目立った(1ヒット1エラー)。
15年選手権の秋田商戦は1回裏、三遊間のゴロを深い位置からノーバウンドのスローイングで打者走者をアウトに。6回には安打になったがセンター方向への打球を頭から突っ込んで好捕、素早く立ち上がって一塁に投げている。まだまだ書き足りないが際限がないのでこのへんでやめておくが、とにかく好フィールディング、強肩、ゴロ捕りのバウンドの合わせ方など、守りのいい選手というのが、私が平沢に抱いた第一印象なのである。
平沢の打撃は元巨人の篠塚 和典を彷彿とさせる
仙台育英時代の平沢 大河
打撃はフルスイングが身上である。15年選手権当時の体格は176センチ、76キロ。現在の高校野球ではごく普通の上背であり体重だが、この細身の体がねじ切れるようなフォロースルーでボールを遠くに飛ばす、というのが平沢の真骨頂。似ている選手として私が真っ先に思い浮べたプロ野球選手が元巨人の篠塚 和典だった。「安打製造機」「流し打ち」というのが篠塚に対する一般的な印象だと思うが、狙いすましたフルスイングとライトスタンドへのホームランも篠塚の隠れた特徴だった。このときのシルエットが現在の平沢と見事に重なり合う。14年秋の明治神宮野球大会、15年春の選抜、同年夏の選手権の通算成績は44打数13安打12打点4本塁打、打率.295。本塁打と打点の多さがすぐにわかる。
左腕に強いのも特徴の一つだ。3つの全国大会で放った13本の安打のうち、右投手から4本に対して左投手から9本放っている。ボールの出所が見えにくい、というのが左打者が左投手を苦手にする理由の一つだが、始動のアクションやステップのアクションを小さく、静かにすることで体のブレは抑えられ、ボールの見えにくさは軽減される。そういう「動きが小さい」美質が平沢のバッティングには備わり、左腕を苦手にしない一因と考えられる。
走塁は「速く走る素質」はあっても、全打席で全力疾走をするタイプではない。14年明治神宮大会の第3打席で三塁打を放ったときの三塁到達は俊足と評価できる11.25秒、15年選手権の明豊戦の第3打席で二塁打を放ったときの二塁到達は8.03秒で、これも俊足と評価できる。しかし、明治神宮大会の九州学院戦、第4打席で一塁ゴロを打ったときの一塁到達は5.32秒、15年選手権の秋田商戦、第3打席の二塁ゴロを打ったときの一塁到達は何と6.48秒という怠慢ぶりだった。
長打力はあってもプロではスラッガータイプではなく、中距離タイプとして生きていく平沢が助っ人外国人のような緊張感のない走塁をしていいわけではない。私が唯一、平沢に対する不満がこの打者走者としての走塁だった。
平沢の凄みは類まれな対応力の高さにある!
平沢 大河(千葉ロッテマリーンズ)
さて、プロ1年目の平沢がロッテで残した打撃成績は以下の通りである。
・二軍 81試合、273打数、58安打、7本塁打、34打点、打率.212
・一軍 23試合、47打数、7安打、0本塁打、3打点、打率.149
プロの壁に跳ね返されたと考えていい成績だが、高校卒新人がファームで200以上の打数に立つのは、将来成功するための一つの関門である。また、ファームで守ったポジションは遊撃81試合、三塁1試合のみ。たとえば、ヤクルトが15年のドラフトで2位指名した廣岡 大志(智弁学園<関連記事>)は昨年ファームで遊撃105試合、三塁21試合、守備位置に就いている。廣岡も今季ヤクルトでレギュラー遊撃手になることが期待される超有望株だが、首脳陣の「遊撃手として育てる」という覚悟がうかがえるのは平沢の方が上である。実際、伊東 勤一軍監督は、リーグ屈指の遊撃手である鈴木 大地の二塁コンバートを表明し、その後継者候補に平沢が入っている。期待の大きさがこういうところからもうかがえる。
対外試合、他流試合に強いのも平沢の魅力の一つだ。高校時代は夏の甲子園大会後に行われた第27回WBSC U-18ベースボールワールドカップの代表メンバーに選出され、ベストナイン(遊撃手)に輝いている。とくに強豪との試合が続いたスーパーラウンド以降、4戦して14打数4安打5打点、打率.286と勝負強さが目立つ。安定して高い打率を残しているわけではないが、打点が多いというのは甲子園大会をはじめとする全国大会でも発揮された長所である。また昨年オフに行われた2016 アジアウインターベースボールリーグ(台湾で行われたウインターリーグ)では打撃成績14位の打率.280、本塁打2、打点7という成績を挙げているのだ。
「CPBL(台湾プロ野球)、中華台北トレーニングチーム、欧州選抜、KBO(韓国プロ野球)、NPBイースタン選抜、NPBウエスタン選抜」という参加チームを見れば、NPBウエスタン選抜以外はデータのない相手ばかりである。そういう相手に対応するには始動のアクションやステップのアクションを小さくしてミートポイントをキャッチャー寄りに置く。さらにコンパクトなバットアクションでヘッドを最短に出すために、大きなバットの引きや上下動を抑える。
そういう対外試合、他流試合の鉄則を守ってしっかり結果を残しているところに惹かれる。一軍戦は平沢にとってはほとんど未知の世界と言っていい。いわば2017年は他流試合の感覚で臨めるシーズンである。類まれな対応力を今年はパ・リーグのペナントレースで見てみたい。
(文=小関 順二)
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