Column

県立益田清風高等学校(岐阜)「飛騨の県立校が起こした秋の旋風」【前編】

2017.02.05

 2016年に日本中で注目を集めたアニメ映画『君の名は』の舞台の一つ岐阜県の飛騨地区。未だ、この飛騨から甲子園に出場したチームはいない。2年前の夏の岐阜大会では、飛騨高山にある斐太(ひだ)高校が決勝まで進んだが、惜しくも3対7で岐阜城北に敗れた。

「飛騨から甲子園へ」
あと、一歩。
近いようで遠い、その“一歩”に手を伸ばし続ける飛騨の球児たち。そんな中、昨秋の県大会で、注目を集めた飛騨の高校があった。

攻めて、攻め続けてベスト4

県立益田清風高等学校(岐阜)「飛騨の県立校が起こした秋の旋風」【前編】 | 高校野球ドットコム

細江 順監督(県立益田清風高等学校)

「驚きました。市立岐阜商中京、県岐阜商、大垣日大って県内の強豪が、うちのブロックに全部おるやん!って。先生がクジ引いたんですけど、うちが初戦に勝てば、2回戦で市立岐阜商、勝ったら今度は中京と対戦という組み合わせだったんです」

 益田清風(ましたせいふう)のキャプテン・桂川 岳が振り返る。
地区予選までは、チームはどん底の状態で、全然打てませんでした。予選は1勝1敗1引き分けで、最後はここで負けたら終わりという状況の中で、みんなで崖っぷちの思いで戦ってなんとか武義に5対4で勝って、県大会に行くことが出来ました。地区大会最後の順位決定戦の試合は、ベンチのムードもこれまでで一番良くて、“明るくいこう”という気持ちを前面に出して戦えました」
 

 県大会に入ると、初戦で再び武義と対戦。今度は14対1の5回コールド勝ち。2回戦の市立岐阜商戦でも、1対0のロースコアで試合を制した。さらに、準々決勝の中京戦も、3対2と逆転勝利。益田清風は、1点を守り切る野球はせず、常に攻めの姿勢を貫いた野球で、勝ち上がっていった。

 この大会で特に注目を集めたのが、1年生の左腕エースの今井 亮介だ。秋の時点で球速は120キロ後半も、高い制球力を武器に強打線を封じた。地区大会は故障のため、登板できなかったが、県大会から復帰すると、安定したピッチングでゲームメイク。エースの復帰はチームにとって、大きかった。益田清風率いる細江 順監督は言う。
「秋、勝ち上がれた要因を簡単に言うなら、1年生の今井の力が強豪チーム相手に、そこそこ通用したということ。それから、打線も、1番の二村 翔真を中心に、足も使えるし、しぶとくヒットを打てるメンバーが多かったことかな。あとは、今年のチームが持っている雰囲気ですかね」

[page_break:「僕たちはこのチームを変えていきたい」]

「僕たちはこのチームを変えていきたい」

県立益田清風高等学校(岐阜)「飛騨の県立校が起こした秋の旋風」【前編】 | 高校野球ドットコム

練習風景(県立益田清風高等学校)

 そう語る細江監督の横では、益田清風の選手たちが元気にグラウンドを駆け回っている。部員たちは皆、大きな声で練習を盛り立て、互いに鋭い檄を飛ばし、ファインプレーをたたえ合い、何か引っかかるプレーがあると練習を止めてマウンドの周りに集まってくる。細江監督が昨年、夏の大会で負けた翌日のことを教えてくれた。

「新チームが始まってすぐにね、2年生の桂川と下垣内が僕のところにやってきたんです」

 その時、2人は細江監督にこんなことを話したという。
「勢い任せで、みんなが流されているようなチームじゃ勝てないと思うんです。僕たちは、本気で勝ちたい。このチームを変えていきたいんです」

 下垣内 伶皇は、この日のことをこう振り返る。
「個々が自立せずに、低いレベルでまとまるんじゃなくて、一人ひとりが自立して、高いレベルでまとまらないとチームは強くならないと僕は考えていました。チームが強くなるには、まずは考える力が大切で、もっと考えて野球をやりたいと思ったんです。それは、みんなも同じ意見だったので、新チームが始まってからは、すぐに気持ちを切り替えて、みんなで考えながら取り組んでいきました」

 まずは、目標立て。彼らが最初に立てた目標は、
『細江先生を甲子園監督にすること』
そこから目標を細分化させ、「月間目標」と「週間目標」を決めることにした。

「月間目標は、チームの今月の試合は、こういうテーマでいこうとか、先生から持ち出された案があれば、それを混ぜた目標を考えました」

 8月は「個々の自立」が月間目標。9月も、それを達成できなかったため、継続させた。10月は、「意識の差をなくそう」。10月の途中から11月は、「スピード感と配球を生かす」と定めた。週間目標は、秋季大会期間中は、主に勝つためにできることは何かを考えて考案。オフシーズン中は、今の時期に取り組んでおきたいことを設定している。

 目標だけが独り歩きすることなく、練習で気になる動きがあれば、すぐに部員たちが練習をストップさせる。例えば、『今週は盗塁を目標にしよう』と決めた時。ここで、細江監督が教えるのは基本的な動きのみ。
「あまり、選手をがんじがらめにして、こっちのやることをその通りにやりなさいとは言わないですね。基本的なことは伝えるけど、『あとは自分で考えて』って。この代は、特にそうです。僕が話した後はもう自分たちで、『じゃあ、走る位置はこういうふうにした方がいいんじゃないか。ああいうふうにした方がいいんじゃないか』って、話し合いながら決めていますね」

[page_break:課題は即解決!後戻りはしない!]

課題は即解決!後戻りはしない!

県立益田清風高等学校(岐阜)「飛騨の県立校が起こした秋の旋風」【前編】 | 高校野球ドットコム

監督の話を聞く選手たち(県立益田清風高等学校)

 オフシーズンに入ってからも、選手たちが練習中に集まる回数は減ることはない。

「ちょっと、今のプレーは良くないなという時や、上手くいっていない時に、ポイントが分かる人に確認して再スタートさせています。ポイントが分かっている人は見てはいるけど、それをその場で中々発信できないことも多いので、分かっている人が発信するために、練習を止めて集まるようにしているんです。気付いた時にすぐに話し合った方が意見がまとまって、チームでやることが分かるので、僕たちはこういった議論を大事にしています」

 新チームが始まった直後から、ここまで出来ていたわけではないというが、練習試合を積み重ねて自分たちのチームの状況を毎回振り返っていく中で、今のスタイルにたどり着いたと副キャプテンの下垣内は言う。

 また、練習試合の行きと帰りのバスの中も、選手たちにとっては大事な議論の時間となる。ここで寝ている選手がいたり、特定の選手しか発言しなくなると、容赦なく下垣内からの喝が入る。細江監督は、そんな部員たちのミーティングを聞きながらハンドルを握り、シーズン中は、片道3時間以上かけながらも愛知や三重、静岡などの遠方のチームとの練習試合を重ねていった。週末の練習試合での個々の反省は、全体練習後の自主練習で解決させていくのが益田清風のスタイル。

「自主練習でバッティングをやる選手もいれば、走塁練習をする選手もいる。最初のうちは意識が低い選手は、ただトスバッティングをやるだけで終わるけど、特にこのチームは、個々に考えながらやっているのが見ていてわかります。そうだよね、それお前の課題だよねっていうことに取り組んでいたりしますね」

 細江監督は、今のチームに対して、「あまり、後戻りすることがないチームだった」と話す。
「また、その課題やらなきゃいけないの?とか、プレー以外でも、内面的なところでも、まだそこをやらなきゃいけないのかっていう後戻りが少ないですね。選手たちからは『下垣内先生』と呼ばれている下垣内の引っ張りも大きいと思いますが、キャプテンをはじめ、周りのメンバーがとにかく明るいんですよね。そういうところは、このチームの武器だと思います」

 そして、9月から始まった秋の県大会初戦の武義戦では、故障から復活した1年生左腕・今井が5回を完投。打線も爆発し、14対1の5回コールドで勝利した益田清風の勢いはここから一気に加速していく。

 益田清風ナインの勝ち上がりは後編にてお届け!

(取材・文=安田 未由

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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