Column

JX-ENEOS・前田 将希選手兼コーチが語る「スライディング術」【前編】

2016.02.19

 野球には大きく「走」・「攻」・「守」の3つの要素がある。よく「走・攻・守三拍子揃った選手」という形容も用いられるが、近年はかなり傾向が変わってはきたものの、バッティングや守備に比べて、比重が低くなりがちなのが走塁ではないだろうか。

 そこで早稲田実業高、早稲田大、そしてJX-ENEOSと野球のエリートコースを歩み、大舞台でも「足のスペシャリスト」として遺憾なく存在感を発揮している前田 将希選手兼コーチにお話をうかがい、走塁の大切さや、セーフになるためのスライディングのポイントなどを伝授していただいた。

走塁はボクシングのジャブやボディブロー

前田 将希選手兼コーチ(JX-ENEOS)

 あなたにとって、あなたのチームにとって、走塁はどのような位置付けだろうか?
走塁は“お買い得商品”だと思いますよ―。走塁をこう表現するのが、JX-ENEOSの前田 将希選手兼コーチだ。なぜ走塁が“お買い得商品”なのか?前田兼任コーチはその真意を次のように説明する。

「野手ならどうしても関心は打撃に向きます。技術に関する情報もたくさんありますしね。どうすれば打てるようになるかと、常に考えている選手は多いでしょう。対して走塁はどうかというと、打撃に比べると、つき詰めている選手は社会人でも少ない。実は1点勝負の時に、走塁が勝敗に直結することが多いのに…。ですから意識高く取り組めば、他の選手や他のチームと差をつけやすいんです。走塁や盗塁に興味を持てば、野球に対する見方も変わってくると思います」

 前田兼任コーチの場合、それに気が付いたのは早稲田実業高時代だったという。早稲田大時代の50m走のタイムが5秒8で、子供の頃から先天的に足は速かったものの、早稲田実業中(軟式)でプレーしていた頃は走塁に対する意識は希薄だった。

早稲田実業高は、和泉 実監督が走塁に力を入れてましてね。走塁練習も多かったんです。それとOBで、選手時代に快足で鳴らした阿久根 謙司さん(早稲田大-東京ガス、元東京ガス監督)がコーチとして来られていまして。阿久根さんから走塁の奥深さを教えてもらったのも大きかったですね。野球を続けていくなら、自分の持ち味である『足』を生かしていこう、と決めたのも高校生の時です」

 とはいえ、前田兼任コーチのような「足」がない選手は、なかなか走塁に関心がいかないもの。だが「足が速いのに越したことはありませんが、高い意識さえあれば必ず、どんな選手でも走塁は上達します」と前田兼任コーチはキッパリ。そして言葉をつないだ。

「走塁はボクシングで例えるなら、ジャブやボディブローです。アッパーやストレートのように一撃でKOできる力はありませんが、相手にダメージを与えられる。やられた、という精神的なダメージですね。またダメージを与えられなくても、走塁というジャブやボディブローがある、そう相手に思わせるだけでも大きな武器になります。ジャブやボディブローがアッパーやストレートを入りやすくするように、走塁はタイムリーや逆転打を引き出すのです。ですから、チームとして打撃や守備と同じくらいの意識で走塁に向き合うといいと思います。ウチも今年は昨年以上の意識で走塁を磨いていくつもりです」

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[page_break:スライディングの時に減速しないのが鉄則]

スライディングの時に減速しないのが鉄則

 前田兼任コーチが、現在のスライディングの形を確立させたのも早稲田実業高時代。スライディングはベース近くから滑る選手と、遠いところから滑る選手とに分かれるが、傾向的に前者のタイプが多い中、前田兼任コーチは後者だという。

「僕は(二盗での)スライディングの時は“身体を倒して、身体の長さを使った方がいい”という考えです。身体の長さを生かしてベースに入り込むイメージですね(写真1~3)。それには蹴る力も必要で、そのためにはやや遠くから滑る必要があるんです(写真4参照)。僕も楽にセーフになるタイミングの時は、ベース近くから滑って、すぐに立ち上がって次の塁をうかがいますが、ギリギリの時は必ず遠めのところからスライディングしています」

下記は、スライディングは足だけでなく身体の長さを使っていることがわかるイメージ写真だ。

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  • スライディングイメージ(横)

  • スライディングイメージ(前方)

  • スライディングイメージ(後方)

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スライディングイメージ(横)

スライディングイメージ(前方)

スライディングイメージ(後方)

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↑二塁へ滑り込む際は、だいたいこの位置から

 三盗の際は、二盗の時より大きなリードを取りやすく、勢いもつけられることから、より遠くから滑るという。
もっともコーチの立場では、選手のやりやすいスライディングを優先していて「右足、左足のどちらの足で滑るかも、その選手がスムーズな方でいい」と考えている。ちなみに前田兼任コーチは右足で滑るが「本来は左足の方が理に叶っています。送球も見やすいですし、野手と交錯しにくいとも思います」

↑力強く速いスライディングで印象付ける

 前田兼任コーチがスライディングにおいて、もっとも重視しているのは“スピードを落とさない”こと。
「遠くからでも近くからでも、右足でも左足でもいいので、とにかく力強く滑って、スライディングの時に減速しないのが鉄則です。走った勢いそのままで滑り込む。そうすれば、微妙なタイミングの時に審判の両手が開くような気がします」(右写真参照)

[page_break:いかに早くトップスピードに乗るか]

いかに早くトップスピードに乗るか

 リード分を除いた約24m先にあるベースに、スピードを落とさずに到着するには、素早くトップスピードに乗ることも条件になる。

「僕は盗塁の「足」と50m走の脚力はあまり関係ないと思っています。いくら50m走のタイムが早くても、後半に加速するタイプは盗塁で「足」を生かしにくいからです。それよりも50m走のタイムはそれほどでなくても、すぐにトップスピードに入れる選手の方が盗塁では有利なんです。練習をするなら30m程度の短ダッシュで、瞬発力を鍛えるといいでしょう」

 加えてリードの形も大事だ。スピードに乗れるからと、あらかじめ低い姿勢でリードを取っている選手が少なくないが「それだとスタートの瞬間、横向きの体勢から身体を切り換える時、どうしても上体が起き上がってしまうので、軽くヒザを曲げる程度でいいと思います」(写真1~3参照)。

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  • 写真1:リード時の姿勢は軽く膝を曲げる程度

  • 写真2:低すぎると帰塁はしやすいがスタートし難くなる

  • 写真3:そのままスタートを切ればスムーズに移動できる

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写真1:リード時の姿勢は軽く膝を曲げる程度

写真2:低すぎると帰塁はしやすいがスタートし難くなる

写真3:そのままスタートを切ればスムーズに移動できる

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 忘れてはならないのが、盗塁は単に“よーいドン”でスタートすればいいわけではない。けん制されたら帰塁をしなければならないし、素早いスタートを切るには投手のモーションを盗まなければならない。「器用さというか、センスが問われるのも走塁だと思います」と前田兼任コーチは言う。また一般的に、一塁でリードをする時は投手の一部分を見るのではなく、全体を見た方がいいとされているが「自分の中でちょうどいいポイント、投手の動きが一番わかりやすいポイントがあるはずなので、それを見つけてほしいと思います」。前田兼任コーチは「割合でいうなら7割くらいは下半身、投手のお尻から下あたりを見るようにしている」という。

 ここまでは前田コーチが走塁にこだわるようになったきっかけや、スライディングのコツ、トップスピードに乗るための技術を教えていただきました。後編ではスライディングにおいて重要なこと、前田コーチが会心と振り返るスライディングも教えていただきました。
さらに、ここまでの内容を前田 将希コーチと、糸原 健斗選手にモデルとなって実演いただいたスライディングのポイント動画もお届けします!

後編ではスライディングにおいて重要なこと、前田コーチが会心と振り返るスライディングも教えていただきました。お楽しみに!

(取材・文/上原 伸一


注目記事
・【走塁特集】走塁を極める

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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