Column

クラーク記念国際高等学校(北海道)

2015.06.12

 昨年4月に創部したばかりのクラーク記念国際高が、初の北北海道大会空知支部予選(7月1日から[stadium]滝川市営球場[/stadium])突破を目指し、一段と練習に熱がこもってきている。監督、部長として、駒大岩見沢を春夏合わせて12度の甲子園に導いた佐々木 啓司監督(59)指導のもと、チームには「クラーク旋風」を巻き起こしそうなムードが漂っていた。

監督と部長は駒大岩見沢の佐々木親子

インタビューに答える佐々木 啓司監督(クラーク記念国際高等学校)

 2年生10人、1年生15人。3年生のいない初々しいチームのはずだが、何とも言えない妙な落ち着きが感じられる。そんな空気を作り出しているのはやはり、“ヒグマの親分”だった。

「みんな、だいぶ野球選手らしくなってきましたねぇ。レベル的にはまだまだかもしれないけど、人間的にいい子ばかりなんで、成長が早いですよ」
と佐々木監督は、幾分柔和になった目で、選手の動きを追い続けていた。

 少子化に伴い、多くの高校が合併や廃校となる中、2014年に通信制の高校としては、道内初となる硬式野球部を本校のある深川市で発足させた。日本全国にキャンパスを持ち、校長は2013年、80歳でエベレスト登頂という偉業を達成した三浦 雄一郎さん(82)。2014年のソチ五輪で、スノーボードパラレル大回転で銀メダルを獲得した竹内 智花(31)も同校の卒業生と、話題性には事欠かない。

 そんな学校側は、かねてから甲子園を狙えるような強い硬式野球部を作りたいという思いを抱いていた。その思いを一気に現実化するきっかけとなったのが、佐々木監督の前任校である駒大岩見沢の閉校だった。その報を耳にした学校側は、系列校である環太平洋大硬式野球部の野村 昭彦監督(46)が、佐々木監督と同じ駒大出身であったことから推薦を受け、すぐさまアプローチ。話はとんとん拍子で進み、当時、駒大岩見沢の監督を務めていた次男・達也さん(31)とともに、クラーク記念国際高への着任が決まった。

「前の学校(駒大岩見沢)で達成できなかったことがある。私自身、まだ全国の頂点に立っていませんから」
監督就任会見で、佐々木監督は力強く抱負を語った。

 強打のヒグマ打線を築き上げ、83年センバツに初出場していきなりのベスト8。93年センバツでは4強入りも果たしている。強力打線を武器に、35年間で駒大岩見沢を名門に育て上げたその手腕が、新生校でいかに発揮されるのか。今度は一体どんな打線を作っていくのか、誰もが注目するところだが、指揮官からは意外な言葉が口をついた。

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[page_break:守備からチーム作りをする]

守備からチーム作りをする

佐々木監督がスーパーカートリオと命名した阿部、山口、樺澤(左から)(クラーク記念国際高等学校)

「まずは守りからですね。守備から攻撃につなげていくのが野球の基本」と、佐々木 啓司監督は涼しい顔で言い切った。

 駒大岩見沢時代は、甲子園出場を目指す有望選手たちがこぞって集まってきた。ある程度、基本の出来た選手でやる野球と、出来たてホヤホヤの新生校でやる野球とでは、指導法も変わってくるのが当然だ。「毎日が試行錯誤」と言いながらも、目指すべき方向性はすでに見えていた。
「一気にチームが作れたら楽ですけど、そうは甘くない。やっぱり野球はバッテリーを中心とした守りからです」
と、夏に向けての課題を明かした。

 その課題が顕著に現れたのが今春だった。初戦の岩見沢緑陵戦、1回に失策絡みでいきなり3点を先制される。3回と5回に1点ずつ返して、1点差にまで詰め寄ったが、6回に再び守備が乱れて、5点を奪われた。打撃面でも4回無死一塁から、カウント2ボールとなったところで、強硬策に出たが結果は一邪飛。

「投手が完全にストライクを取りに来る場面なのに、スイングに迷いがあった。私の主義である“来た球を素直に打つ”ということが、まだ浸透していない証拠」
と、指揮官は苦笑い。結局、7回コールドで初戦敗退となった。

 昨年春から公式戦を4度経験する中で、やるべきことは明確になってきた。この夏、佐々木監督は大胆に動くことを決断している。まずは一番のウィークポイントであった捕手に、春は背番号1を付けていた置田 知広(2年)をコンバート。エースには1年生の市戸 優華を抜てきする。

「捕手は中学で正捕手が故障したとき、少しだけやったことがあります。でもほとんど初めてですから、やっぱり不安です」と置田。それでもチームに貢献するため、インターネットで甲子園の動画をみながら配球の勉強に余念がない。

「投手をやっていたから、ピンチのときの気持ちもわかる。それを生かしたリードができれば」と気合を入れている。また、エースとして夏を迎える市戸は「武器はストレートです。大会でも自信を持って投げられるようにしたい」と意気込んだ。

 さらには、ここまで主将としてチームを引っ張ってきた阿部 勇斗(2年)の肩書を選手会長として、新主将には岸 誠也(2年)を指名した。
「ふつう主将は1年間。このまま3年間、阿部にすべての責任を背負わせてしまったら、精神的につぶれてしまう。立場を少し変えてやることで、チームにもいい形ができてくるはず」
と、佐々木監督はその意図を説明。岩見沢シニア時代のチームメイトでもある2人の“ダブル主将体制”で夏に挑む考えだ。

よりもチームはいい感じになってきていると思います。岸と一緒にチームを盛り上げていければ」と阿部。
岸は「はいいところで安打も出たけど、エラーをきっかけに大量点を取られてしまった。試合の中でどう頭を切り替えて、立て直していくかがチームの課題です」と、夏に向けたチーム作りに頭をめぐらせている。

 もちろん、打撃力強化にも余念はない。ヒグマ打線の基礎を作ってきた伝統のハーフ打撃で、コースに逆らわないバットコントロールを体にたたき込んでいる。タイミングをしっかりとって、振り切れるフォームを作ることが目的だ。

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[page_break:学校も最高のバックアップ体制]

「打撃を教えることが私の本職ですから。これがうまくいかないとマズいでしょ」
とヒグマの親分が笑う。フォローを大きくするために、ノックを打たせることも取り入れ、打撃力向上を図っている。

加えておもしろいのが、自然条件をも打撃力アップに結びつけようとしていることだ。今年中に完成する予定の専用グラウンドの設計にあたり、夏場に吹く南からの風を利用して打球が飛ぶようにホームベースの位置を決めた。

「逆風だと、どうしても力んでしまう。無理に飛ばそうとして、変なクセがついてしまうんですよ。バッティングは力を入れてするもんじゃないですから」と、広さも甲子園サイズにするというこだわりようで、佐々木監督の描く青写真は着々と現実化している。

学校も最高のバックアップ体制

取材日は雨のため、室内練習場で練習。7ヵ所で打撃練習、2ヵ所でバント練習を行った(クラーク記念国際高等学校)

 初の北北海大会出場に向けて、目の色を変えているチームに対して、学校も最高のバックアップ体制を整えた。昨年3月に閉校した納内中の体育館を改装して、ハーフ打撃が4か所、マシン打撃が4か所でできる人工芝の広々とした室内練習場が2月に完成。校舎も6月に野球部寮として生まれ変わった。この寮には部員50人を収容可能で、全日型のスポーツコースに所属する部員全員が、佐々木 啓司監督、佐々木 達也部長とともに生活している。練習試合で訪れた相手チームが宿泊できるスペースもある。

 スポーツジム並みのトレーニング室や、学校での勉強の課題をオンラインで提出できるパソコンルームまで完備しており、食事面は栄養士の資格を持つ駒大岩見沢時代の教え子が、メニューを作成。調理場はレストラン並みの最新調理器具をそろえており、選手の栄養管理も完ぺきだ。さらに7月には遠征用の大型バスも届く予定。間違いなく道内、いや全国的に見てもトップクラスの環境が整えられることになっている。

 これに伴い、地元も盛り上がってきている。高齢化の進む地域の活性化に取り組んできた納内地域集落対策協議会が中心となって、3月に「クラーク記念国際高校野球部納内後援会」を発足。企業や団体の賛助会員と個人会員、町内会員などで構成され、公式戦には応援団としてバスで球場に駆け付け、選手と一緒になって甲子園を目指している。
「学校の職員はもちろん、市民、町民の方々の気持ちがヒシヒシと伝わってきます。少しでも早く恩返しができるように頑張らないと」
と、達也部長も選手と一緒になって汗を流している。

 3年生にとっては最後の大会となる夏も、1、2年生だけのクラーク記念国際高にとっては「成長の夏」。成功も失敗も、すべてが血となり肉となる。
「思い切りの良さとか、試合の中での状況判断などは、経験の中でしか身に付いてこないもの。だからこそ、選手が持っている力をすべて発揮できる環境をこちらが作れるかどうか。私の知らない力を出してくれる気がして、楽しみでならないですよ」と佐々木監督はニヤリ。

「先輩がいないので、この夏がどんな雰囲気になるのかはわからないけど、その分、自分たちは他校と違う経験ができる。まずは空知支部で優勝して、北北海道大会に出ることが目標です」と、岸主将は力強く言い切った。

 甲子園という「大志」を抱いたクラーク記念国際高の夏が、いよいよ始まる。

(取材・文=京田 剛

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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