鹿児島実vs飯塚
徳永翔斗(鹿児島実)
完全優勝
昨夏に新チームを発足させて以降、九州は完全制覇である。
エース野田昇吾を決勝8回一死まで温存しながら、大会を通じて宮下正一監督の想像をはるかに上回るペースで成長した左腕、徳永翔斗が夏の2番手候補どころか、完全にひとり立ち状態に。
さらに、センバツ時から一段階のスケールアップを果たした打線は、4試合で29点を叩き出した。絶対的な切り込み隊長、平山大海を怪我で欠く中、今大会は4試合で4通りのスタメンで臨み、代役・抜擢で出場機会を与えられた選手たちがしっかりと役割を果たしていく。
さらに準決勝、決勝は福岡を代表する左右の一流投手を見事に攻略し、そのうえこの2試合ともに無失策試合だ。地元の期待に応えた14度目の九州大会優勝はもちろん史上最多で、鹿児島実が持つ記録をさらに更新してしまったわけである。
主将の豊住康太は言う。
「これまではほぼレギュラー9人だけでやっていた部分もありましたが、今大会で『どの選手が出場しても勝てる』という手応えを掴むことができました」
宮下監督は「控え選手に自信を植え付けること」とテーマを設定して今大会に臨んでいる。とくに4試合28イニングを投げ台頭した徳永を絶賛してやまない。
「悪いなりの投球を覚えてくれました。それに、無理なストライクを欲しがらず『ストライクはいつでも取れるよ』という余裕が備わったことは大きいです」
徳永の好投は、エース野田をも刺激した。
「マウンドに上がりたくてウズウズしていました」というアピールがようやく実り、決勝の8回一死から大会初登板を果たしたエース野田が苦笑いを浮かべて言う。「徳永の成長が結果的に自分を支えてくれるのは凄くありがたいのですが、同じぐらい悔しさを感じますね」
ベンチで戦況を見つめる鹿児島実ナイン
打席で、ベンチで、手のひらを気にする鹿児島実の選手たち。
センバツで東海大相模に0-2と敗れ「あの夜は悔しさで一睡もできませんでした」という宮下監督は、鹿児島に戻るやいなや「1日1000スイング」のノルマをナインに課した結果、選手たちの手には今までに作ったことのないようなマメができてはつぶれた。
その成果もあったのだろう。「低く、強い打球を打て」がスローガンのもと、鹿実ナインの特徴でもある“上からの叩き”はより洗練され、好投手ひしめく九州の投手陣を相手に外野の頭を越す打球が激増。中でも準決勝で先制の2ラン本塁打を放った揚村恭平の“目覚め”に目を細める宮下監督だった。
「たしかに1000スイングは自信にはなっています。ただ、一番大きいのは打者全員の意識が変わったこと。東海大相模線は、相手に対して集中できていませんでした。あの試合を機に『低く強い打球を打つ』という約束事が、より浸透したと思います。全国級の投手が相手になるほど、全員が同じ方向を向くことができます。そういう意味では投手のレベルが高い九州大会って、本当にいいきっかけになるんです」(豊住)
鹿児島実ナインは、昨秋の九州を制した段階から「狙うは全国制覇のみ」と公言してやまなかった。神宮では王手をかけながら跳ね返され、春は全国制覇校に試合をさせてもらえなかった。
「打線はレベルアップを果たしましたが、まだまだ東海大相模の域には達していません。これで気を抜くことなく、夏まで怪我人を出さぬよう、さらに上を目指して練習していきます」
と力強く宣言した宮下監督の背中越しに、晴れ渡る桜島が小さな“祝砲”を挙げた。
(文=加来慶祐)