プロ志望 未来沖縄の二刀流左腕・松竹 嬉竜の転機は大阪桐蔭、天理との関西遠征【前編】
先日プロ志望届けを提出した松竹 嬉竜（KBC学園未来沖縄）。誰もが羨む大きな身体を持ち、高校3年間で驚くほどの成長を見せた。今すぐプロで活躍するというわけにはいかないが、将来性を買い、しっかりと下積みを経験させたならば、周囲が目を見張るような選手になる可能性を持つと言っても過言ではないだろう。
KBC学園未来沖縄野球部監督・神山剛史氏の言葉を交えながら、松竹 嬉竜選手を紹介しよう。
無名の中学時代
松竹嬉竜（未来沖縄）
神山監督「石田中学時代の嬉竜は、とにかく無名でした」
中学は軟式で石田中野球部に属していた松竹 嬉竜。チームの人数も試合が出来るギリギリだったようで、県大会出場を争う高いレベルでの野球経験に乏しかった。その松竹 嬉竜の将来性を、どこよりも見据えていたのがKBC学園未来沖縄だ。同校の門を叩いた松竹嬉竜。しかし入学当初はとにかく線が細く、球速も110kmほどだった。
神山監督「しかし、嬉竜が高校一年時の未来沖縄の関西遠征にて、天理や大阪桐蔭などの強豪校の野球に触れてから変化が見られました」
天理、大阪桐蔭に刺激を受ける
松竹 嬉竜の高校野球デビューは早く、一年生の秋一回戦だ。糸満戦の3回、二死満塁のピンチで登板することとなったが、これだけ見ても、いかにKBC学園未来沖縄の指導陣が、松竹 嬉竜の今後に期待していたか伺い知れる。このゲームは糸満に投打で圧倒されたKBC学園未来沖縄は、７回コールドで敗退。松竹 嬉竜の初成績は3回1／3イニング、3被安打1奪三振5四死球3自責点だった。
しかし神山監督（当時は部長）ら指導陣は松竹 嬉竜を関西遠征に同行させる。
神山監督「とにかく練習します。全体練習はもちろんですが、練習後のウェイトトレーニングや自宅でのトレーニングを欠かさずやっていました」
真面目な態度と、怠けることを選択しない姿勢に、天理、大阪桐蔭のハイレベルな野球に衝撃を受けた松竹 嬉竜は、さらに練習に熱を入れていくようになる。その成果の一つを見られたのが一年生中央大会だった。
[page_break:山城京平というライバルに出会う]山城京平というライバルに出会う
松竹嬉竜（未来沖縄）
一年生中央大会初戦、KBC学園未来沖縄の相手は興南だった。この試合先発した松竹 嬉竜は、ヒットを許すもギリギリのところで粘り強さを発揮。6回まで興南のボードにゼロを並べた。しかし相手の投手は凄かった。KBC学園未来沖縄打線は、1回と5回にヒットを１本ずつしか放つことが出来ず、6回までに9つの三振を奪われた。完敗だったが、同級生で同じ左腕の山城 京平のマウンド姿は、松竹 嬉竜に少なからず良い影響を与えた。
冬を越して成長した姿を見せた春
年が明け2020年春。北山に対し、2回までに3点を奪われたKBC学園未来沖縄は、3回から松竹嬉竜を投入した。3、4、6、7、8回と北山打線をノーヒットに抑えるなど、流れを食い止め、味方打線の援護を待った松竹 嬉竜だったが、向こうの投手も好調で追い付くことが出来ない。9回、二死まで取ったがヒットのあと、味方のエラーから相手4番にタイムリーを許し敗退。しかし一方で、7イニング4被安打8奪三振と力強いピッチング。一冬越して逞しくなった松竹 嬉竜の姿は、後にKBC学園未来沖縄初となる夏の大会決勝進出へと繋がっていた。
宮古戦15奪三振の快投
新型コロナウイルスで、戦争以来となる甲子園夏の大会中止が決定した2020年。それでも前を向いて努力してきた先輩たちと少しでも長い夏を過ごしたい松竹 嬉竜の才能が開花した。
初戦の浦添戦で4イニング、次戦の名護商工戦で5イニングを投げた松竹 嬉竜は、3回戦の宮古でも先発すると今まで見たことのない快投を披露。4回一死を取るまでの43球中、奪った三振は驚異の8個。100球目が近付いた7回に同点タイムリーを浴びたものの、後続をこの日11個目の三振に斬る。8回、松竹 嬉竜自身が相手のエラーで出塁すると三塁へ。味方のスクイズの間にホームを踏んだ松竹 嬉竜を、そのままマウンドへ送った神山監督の判断が、更なる大記録を生ませた。上位から始まる8回裏の宮古打線に対し、二者連続三振。9回、二者連続でヒットを許し犠打を決められ一打サヨナラのピンチを背負うも、圧巻の二者連続三振斬りでゲームセット。
神山監督「誰よりも練習してきた嬉竜。エースとしてここは是非、最後まで投げてほしいと。しっかり最後までマウンドを守ることで、チームにもより良い結果を与えると判断し、完投させたゲームでした」
準々決勝の普天間戦では7回途中まで投げて自責点1。チームを準決勝へと導いた松竹 嬉竜。当然ながら準決勝の先発マウンドへ上った。強豪美里工打線を向こうに回した松竹 嬉竜だが、4回を投げ被安打は僅か1本だったが肝心の制球が定まらず不調降板。しかし味方打線が爆発。8回、このイニング先頭打者として登場した東が、打者一巡して10人目として回ってきた2打席目に三塁打を放つなど、一挙7点を奪い大逆転で決勝へ進出した。
残念ながら八重山の前に屈したKBC学園未来沖縄だったが、堂々たる準優勝。そのあとピッチングもさることながら、松竹 嬉竜にはもう一つの進化が現れることとなる。
（記事：當山 雅通）
