学校が休校、部活動自粛… 休むと体はどうなるか?
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、学校が休校となったり、部活動を自粛したりという状況になりました。選手の皆さんは戸惑いや不安などもあると思いますが、自分自身でできることを続けながら、野球ができるようになるまで焦らずに待ちましょう。
今回はパフォーマンスアップのためになぜ野球以外のトレーニングが必要なのか、トレーニング効果は「貯金(筋)」できるのかといったことについてお話をしてみたいと思います。
休むことも大事
技術練習で得られない負荷をかけて効率よく筋力を鍛える
【体力要素をピンポイントで鍛えることができる】
野球の練習ではさまざまなプレーを繰り返し、正しいフォームやより高いパフォーマンスが発揮できるようにしていきます。中にはバッティングフォームを安定させるために素振りを繰り返す、といったことを行ってきた選手も多いことでしょう。もちろん競技特性を考えると大切な練習ではありますが、仮にバッティングフォームが安定しない原因が体幹部の筋力にあるとしたらどうでしょうか。
体力要素の中にある「筋力」にスポットを当て、その部分を集中的にトレーニングを行うと、バッティングフォームの安定につながることが期待できます。このように体力要素は「筋力」「スピード」「パワー」「敏捷性」「柔軟性」「バランス」「筋持久力」「全身持久力」といったさまざまな要素で構成されており、この中でも特に鍛えたい体力要素を重点的に強化することで、より高い効果を効率よく取得することができると考えられます。トレーニングがアスリートにとって必要不可欠なものであるという理由です。
ただしこのとき注意しなければならないのは、補強として体力トレーニングを行う場合、野球の練習で行うものよりも「より強い負荷」を「特定の体力要素に与えること」が重要になってきます。素振りを100回行うことによって得られる体幹部の筋力よりも、補強で行う体幹トレーニングの負荷が弱い場合は、結果的に素振りをした方が筋力強化になる、ということになります。
【総運動量に気をつけよう】
オフシーズンは主に体づくり、基礎体力向上といったことを重点的に行い、シーズンに入ると技術練習がメインになってくるチームが多いと思います。トレーニングはシーズン中においても体力レベルを維持・向上させるために続けていくことが理想的ですが、中にはトレーニングの重要性を理解しているために、技術練習を目一杯行った後にさらにトレーニングや補強を行うケースも考えられます。
このときは技術練習とトレーニングの総運動量を考慮して練習内容を吟味する必要があります。総運動量が体力的な限界以上に積み重なってしまうと、休養とのバランスが崩れて肉体的・精神的な疲労がたまり、その状態でさらに運動量が増えるとケガのリスクが高まるだけではなく、体調を崩してオーバートレーニング症候群などになってしまうことが懸念されます。
トレーニングを含む技術練習、栄養、休養はそのバランスが崩れるとより良いコンディションを保つことがむずかしくなります。強くなるためにも適切な休養は必要であることを再確認しておきましょう。
[page_break:休むと体はどうなるか?]休むと体はどうなるか?
全身持久力を落とさないためには軽いジョギング等体を動かしておくことが大切
【トレーニングを中断することで起こる体の変化】
風邪などをひいてしばらく運動やトレーニングを休んでいると、競技復帰したときに「体力が落ちてるな」と感じたことのある選手もいることでしょう。体力要素の中でも継続的なトレーニングを中断することで、一番影響を受けやすいのが全身持久力であると言われています。これは体内に取り込む酸素摂取量が減ってしまうことがその原因として挙げられます。
2週間程度のお休みでもその能力が低下してしまうという研究報告などをみると、全体練習がない時期(春休みや年末年始の休暇など)でも、スタミナを落とさない程度のトレーニングは必要になってくると考えられます。また総運動量が減ってしまい、食事量がいつも通りであれば、体重増加にもつながります。
適切な筋力トレーニングを行っていなければ筋肉量というよりも、体脂肪量によって体重が増えてしまうことになります。一時的なものであればさほど気にする必要はないと思いますが、特にケガをして急に運動量が減ってしまったときなどは気をつけなければならない点でもあります。
【筋力低下は比較的ゆるやか】
筋力は全身持久力に比べるとトレーニング効果が比較的持続すると言われています。研究によると短期間(2週間程度)の中断では最大筋力の低下は見られないというものや、長期間(8〜12週間)の中断による最大筋力の低下率は12%程度というものなどが報告されており、オフシーズンに取り組んできた筋力トレーニングの成果がまったくなくなってしまうといったことはなさそうです。
ただ指導現場では1ヶ月を越えて中断した後にトレーニングを再開しると筋力低下が見られるケースが多かったため、間を空けて再開する場合はトレーニング負荷などを以前よりも軽めに設定し、少しずつ負荷を挙げていくといった配慮が必要となります。
全体練習のない時期は個人で体を動かすことになると思いますが、自重トレーニングで筋力を維持し、軽くジョギングなどを行って運動量を増やすことを意識して取り組むようにしましょう。
参考書籍)「スポーツ科学の教科書」谷本道哉編著・石井直方監修/岩波ジュニア新書
【休むと筋力は落ちる?】
●トレーニングは野球に必要な体力要素を集中的に鍛えることができる
●補強トレーニングを行う場合は、野球の練習で得られる負荷よりも大きくなるようにする
●技術練習とトレーニングとの総運動量を考慮しよう
●全身持久力はトレーニング中断の影響を受けやすい
●筋力は短期間の中断であれば比較的トレーニング効果を維持しやすい
●自重トレーニングや軽いジョギングなどで体力レベルを維持しよう
(文=西村 典子)
次回コラム公開は3月31日を予定しております。