試合レポート

中越vs北越

2015.07.25

第1シード・中越、雨中の接戦制し準決勝進出

 4回戦から中2日。[stadium]HARD OFF ECOスタジアム新潟[/stadium]では、新潟大会準々決勝4試合が行われた。
前夜から降り始めた雨が止まない中行われた第1試合には、第1シード・中越が登場。昨秋、コールドで破った北越を相手に熱戦を繰り広げた。

 初回、中越は先頭の入澤 武弘(3年)がヒットで出塁すると、続く2番・永井(3年)も11球粘って四球を選ぶ。先制の絶好のチャンスを迎えるが、この日が公式戦初登板となる北越先発の仲野(3年)が、クリーンアップを抑え、先制点を許さない。

 反撃したい北越はその裏、先頭の山我 吉進(3年)のツーベースと犠打で一死三塁のチャンスを迎える。だが、ここは中越先発の高井 涼(3年)が、3番・国松 脩人(3年)、4番・田村 将太(3年)を連続三振に切って取り、ピンチを脱する。

 すると中越は二回、二死二、三塁のチャンスを作ると、1番・入澤がセンター前に運び、2点を先制。これ以上点を与えたくない北越は3回から2年生エース・江村 伊吹を投入するが、序盤から降りしきる雨の影響か、この日の江村は制球が定まらない。

 4回、中越六番・小林弘(3年)にツーベースを打たれると、続く関川(3年)の犠打を悪送球し1点を献上。さらに9番・井口(3年)にスクイズを決められ、点差を4点に広げられてしまう。

 反撃したい北越は、5回に3番・佐藤築(3年)がセンターバックスクリーンへソロホームランを放ち、3点差に詰め寄る。

 だが、中越もその直後に四球とエラーを絡めて1点を追加。さらに5番・治田 丈(3年)の犠飛でもう1点追加したかに思われたが、北越のアピールプレーで、三塁ランナーがホームベースを踏み忘れてダブルプレー。流れが北越に傾くかに思われた。

 だが、この日の高井は安定感抜群。雨も気にせず、自慢のスライダーで強力北越打線を抑えこむ。
8回、北越4番・田村にセンターオーバーのタイムリーツーベースを打たれるが、後続を切って取り、中越3点リードのまま、最終回へ。

 最終回、中越は簡単に二死をとられるものの、相手エラーをきっかけにチャンスを広げ、9番。井口の2点タイムリーツーベースで2点をダメ押し。その裏、ランナーを許したものの、北越を無得点に抑え、7対2で中越がベスト4へ進出した。


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第97回全国高等学校野球選手権大会

エキサイティングプレイヤー 安部 建人(3年・外野手・主将)

 試合終了後、マスコミの対応を終えて、3塁側選手出入口に一番最後に姿を現した。
泥だらけのユニフォームに、どこか清々しさを感じさせる佇まい。
「皆さん、応援ありがとうございました」
深々と頭を下げ、お礼をいう主将の姿に出迎えた保護者、OBは
「ケント、よくやった~」と声を掛け、労いの拍手を送った。
だが次の瞬間、事態は一変する。
頭を下げたまま、膝の力が抜け、うずくまるように倒れこむ。
「くっそー」と何度も叫び、声を上げて泣いた。
そして、頭を地面にこすりつけるような体勢で、
「本当に…本当に…すいませんでした…」

軟式で県優勝、北信越大会ベスト4と輝かしい実績を残し、小千谷市立千田中学校から、同期の国松 脩人田村 将太とともに鳴り物入りで北越高校野球部の門を叩いた安部 建人
持ち前の俊足と卓越したバッティングセンス、守備範囲の広い守りで早くから頭角を現し、2年春にはセンターのレギュラーを獲得。切り込み隊長として、チームをけん引する活躍を見せた。
だが、春の大会後にケガをすると、夏の大会には間に合わず、ベンチ入りを逃してしまう。

 昨夏ベスト4で日本文理に敗れ、新チームが発足すると主将に任命された。80人を超える部員をまとめながら、自らにも厳しい練習を課す。
その苦労は前主将の箕輪 希翔(現JR新潟)も「いろいろ大変です。自分のことだけじゃなくなるので」と話すほど。
秋季大会で3位になり、北信越大会でも善戦する強豪チームの主将。周囲からの期待が高まれば高まるほど、重圧が襲った。だが、安部はそんな苦労を周りに見せず、ひたすらにチームのために献身した。

 迎えた夏の大会。2回戦屈指の好カードと呼ばれたとの試合をコールドで制し、チームはいい流れのまま勝ち進んだ。だが、好事魔多し。3回戦の試合直前にアクシデントが安部を襲う。練習中に足を痛め、その試合を欠場。4回戦の新発田農業戦(試合レポート)では、試合前のノックも受けず、ベンチから大きな声を張り、チームを鼓舞した。

 4回戦から中2日で迎えたこの試合。安部は試合前のシートノックに参加したものの、スタメンは中学からの後輩・岡元(2年)に譲った。
だが2回、中越9番・井口の放った飛球がショートの後方、センター前を襲う。乾いた芝の上でも捕球できるかどうかという難しい当たりだったが、雨で湿った人工芝に足をとられ、一瞬スタートが遅れた岡元の前に、ポトリと落ちた。

 続く入澤 武弘のタイムリーで先制を許すと、岡元の表情はみるみるこわばった。そんな岡元の緊張をほぐしたのは、安部だった。
チェンジしてベンチに戻る岡元に声を掛け、三回の岡元の第一打席の前にはネクストバッターズサークルに寄り添い、肘当てなどの用具を一緒に付けながらアドバイスを送った。

 1対4、劣勢の5回、その岡元に代わり代打を告げられると、北越応援団からはこの日一番の歓声が上がった。打席に入り、ショートの深いところへ打球を放つと一塁へヘッドスライディング。
執念ともいえる内野安打でチームを盛り上げるが、降りしきる雨の影響か、ナインは思うようなプレーができない。

 2対7で迎えた9回、代打・月橋(3年)が三塁打で出塁するものの、後続が倒れ二死。安部に打席が回る。ボールを見極め、カウント2ボール2ストライクからの5球目。外角のボールに手を出し、空振り三振。その瞬間、安部の、北越の夏は幕を閉じた。


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第97回全国高等学校野球選手権大会

 泣きながら頭を下げる安部に、チームメイト、保護者が一斉に駆け寄る。
「お前のせいじゃない」
「お前がいてくれたから、このチームはここまでこれたんだ」
「ケントが主将で良かった」
そんな言葉を遮るかように、大きな声で泣いた。
そして言葉にならない言葉でつぶやいた。
「甲子園…甲子園に行きたかった」

そんな安部に駆け寄り、寄り添ったチームメイトがいた。
2年半苦楽を共にした、佐藤彰吾(3年)と田中佑(3年)だった。
佐藤彰は、控え内野手として背番号10を付け、ベンチ入り。主に伝令を務め、チームを鼓舞し続けてきた。
一方田中は、今夏はベンチから外れたものの、持ち前の明るさと行動力でチームのムードメーカーを担い、応援団長として声がかすれるほど大きな声で、スタンドからチームを支えた。主将という大役を担った安部に、2人はそっと肩を貸し、労いの言葉をかけた。

2人に支えられながら、安部は帰路に着くバスの前で、他の選手とともに一列に整列した。
涙をこらえ、呼吸を整えてから、チームを代表して集まった保護者、OBに挨拶する。
「今まで応援してくれて、ありがとうございました」
言い終えると再び悔しさがこみ上げた。あふれる涙を止めることができなかった。

誰よりも強い思いで臨んだ最後の大会。目標の「甲子園」にはあと一歩届かなかった。
だが、その思いは間違いなく後輩に受け継がれるだろう。
グラウンドの内外でチームを支え続けた安部の献身的な姿の記憶とともに。

(文=町井敬史


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第97回全国高等学校野球選手権大会

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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