試合レポート

西日本短大附vs真颯館

2021.07.27

西日本短大附・大嶋がクレーバー投球で完封V、松本翔はプロ志望

 全国優勝の経験がある西日本短大附。2年前に続く決勝の舞台にコマを進めた。対する真颯館九州工から校名変更となって初めて決勝の舞台を踏んだ。学校に新たな歴史を刻むことができるのか。プロ注目最速146キロ左腕、松本翔(3年)がどこまで西日本短大附打線を封じるのか、最大のポイントでもあり、唯一のポイントでもあった。

 ともに思わぬ「ほころび」から始まった。1回表、真颯館の攻撃。二死走者なしから3番打者が放ったなんでもないゴロを西日本短大附の攻守の要、林直樹遊撃手がポロリとこぼしエラーを記録した。しかしマウンドの大嶋柊(3年)は次打者4番打者を三振に仕留め切り抜ける。

 今度はその裏、西日本短大附の攻撃。同じく二死走者なしから四球で出した走者を、先発松本翔が一塁けん制で走者を誘い出したところまではよかったが、挟殺プレーで真颯館の内野陣の連携がうまくいかず、二塁ベースががらあきになり、二死二塁となった。相手のミスを見逃さないのが「西短野球」。全国Vを成し遂げた時からの「伝統芸」は引き継がれていた。4番三宅海斗(3年)が左前タイムリーを放って1点を先制した。三塁側ベンチで「西短」ユニホームが沸きに沸いた。

 実はここで勝負が決まっていたのかもしれない。その後も、3回、5回、6回、7回とボディーブローのように1点ずつを加えていく。徐々に徐々にプロ注目左腕の体力を消耗させていった。7回を終わって5ー0とリード。経験豊富なチームは相手に一瞬のスキも与えなかった。

 マウンドの大嶋にも、相手にスキを与えるわけにいかない理由があった。準決勝の飯塚戦で176球の熱投ながら8失点。伝統校のエースのプライドが許さなかった。真颯館相手に4回までは無安打。5回に初安打を許したが、右腕の力は緩めない。7回には自己最速の144キロをマークした。8回、9回はパーフェクト投球。結局7回以外は毎回となる8奪三振、わずか3安打に抑える完封劇をやってのけた。


 プロ注目左腕に堂々と投げ勝った。27個目のアウトを空振りの三振で仕留めると、センター方向に向かって大きくガッツポーズした。甲子園を決めた瞬間は、何もかもが報われた瞬間でもあった。

 西日本短大附の西村慎太郎監督はエースの変身ぶりに脱帽していた。「すごいなーの一言です。みんなの気持ちを背負って投げてくれたと思います」。さらに驚いたのはチェンジアップを多投していたことだ。「今まで見たことのない抜いた球を投げていた。なんか冷静でしたね」。阪神、日本ハム、メジャーで活躍した新庄剛志氏と同期の指揮官は、背番号1をベンチから頼もしそうに眺めていた。

 大嶋は6回に一死一、二塁と初めてピンチらしいピンチを背負った時、胸に誓った。「準決勝でチームに迷惑をかけていたのでチームを救おうと思った」。打席に入った中軸の4番を三振、5番を一塁ゴロに仕留めた。マウンドで優勝を確信した。準決勝で176球を投げて中1日で臨んだマウンドだった。「軽くキャッチボールして肩回りをほぐしただけです」。西村監督も「今年は準決勝と決勝の間に1日あったのでは大きかった」とエースが完全回復するに十分だった。

 相手の真颯館、末次秀樹監督も大嶋の投球をたたえた。「まったく打てませんでした。甲子園はそんなに甘くないですよ」。柳川の捕手として、柳川の監督として甲子園の舞台を踏む名将も完敗を認めた。

 プロ注目の左腕、松本翔は12安打5失点の完投負けで甲子園に届かなかったが「最高のチームメートでした。最高の3年間でした」と涙はなかった。今後については「プロ志望届を出すつもりです」とさらに上を目指す。「菊池雄星花巻東出身)さんが目標です。ストレートも変化球もキレがある。自分ももっと体力をつけて近づけるようになりたい」。この日の最速は自己最速に3キロ満たなかったが143キロ。力はすべて出し切っての結果に悔いはなかった。

 試合が行われた久留米市野球場で優勝が決まった約30後に、この日の久留米の最高気温36・6度が記録された。グラウンドでは勝敗を超えた戦いが演じられた。大嶋124球、松本翔150球。両チームの投手ともに「勲章」を与えたい。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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