試合レポート

郁文館vs大東学園・都立農業・都立農産

2015.03.23

郁文館サヨナラ勝ち、善戦の合同チーム力尽きる

佐藤佑投手(農業)

 大東学園都立農業都立農産の合同チーム(以下合同チーム)にとって、2011年の秋には、その年の夏に全国制覇を果たした日大三を破るなど、強豪の一角を占めるようになった郁文館は、荷が重い相手であることは確かだ。合同チームの監督である新井裕之都立農業)が、「郁文館と合同チームを組んだら、このチームでレギュラーになれる選手はいないでしょう」と語るように、選手の振り一つみても、実力の差は明らかであった。それでも合同チームは、あわやと思わせる、互角以上の試合をするのだから、野球は面白いし、恐ろしい。

 2回裏に郁文館が、四球で出た5番木村将也高橋凛平が送り、8番石井彗翔の中前適時打で1点先制した段階では、郁文館の楽勝の雰囲気すらあった。

 ところが、郁文館の先発である2年生左腕の山本佳輝の制球が定まらない。3回表先頭の8番藤平貴大大東学園)の左前安打で出塁すると、犠打、内野ゴロの間に三塁に進み、2番徳原凛都立農業)の三塁内野安打で同点に追いついた。さらに3番小俣陸都立農業)の四球の後、4番巨漢・深澤雅史都立農業)の左前安打で逆転に成功。

 ここで郁文館は、2年生右腕の北尾健太に交代したが、北尾は2者連続の四球で押し出しとなり、この回合同チームは3点を入れた。
 4回裏、郁文館は、先頭の6番高橋が三塁打で出塁したが、無得点に終わり、郁文館にとっては、嫌な流れになってくる、
 合同チームの先発である佐藤佑記はカーブなど、遅い球を有効に使い、1球1球丁寧にコーナーを投げ分け、郁文館の焦りを誘った。郁文館の佐々木圭監督は、「丁寧に投げられ、打てそうで打てなかった」と語れば、合同チームの新井監督は、「うまくはまれば、やってくれる」と、エースに信頼を寄せる。

 合同チームは、守備の面でも、決してうまくはないが、しっかり体で止め、丁寧に守り続けた。特に身長173センチ、体重110キロと巨漢の一塁手・深澤は、内野手からのショートバウンド、ハーフバウンドの送球をうまくすくい上げ、アウトを積み重ねていった。

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斎藤選手(郁文館)

 5回表はその深澤から始まる打順で、深澤は左前安打。犠打で二塁に進むと、三盗を成功させた。「この体型ですからね。相手投手が見ていないことを確認して、ギャンブルでもありましたが、走りました」と深澤は言う。さらに合同チームは、6番小嶋優輝大東学園)が四球で一死一、三塁とし、7番箱田将大都立農産)が右中間に二塁打を放ち、2点を追加した。まさに合同チーム3校でとった追加点であった。

 5回裏、郁文館が反撃に出る。先頭の3番大島良介と5番木村の右前安打で一死一、三塁。6番高橋の右前安打で、1点を返し、なお一死一、三塁。続く中村拓巳の低いライナーを合同チームの三塁手がダイレクトで捕球したものの、一塁に送球し、これが暴投になって、さらに1点が加わった。

 郁文館に流れを引き寄せたのは、左翼手として出場したものの、5回途中からマウンドに上がった中村の好投であった。左腕から力強い球を投げ、4回2/3を完全に抑え、反撃のムードを作った。

 一方、1人でマウンドを守っていた合同チームの佐藤佑は、7回を投げ終わった段階で127球に達していた。
 8回裏、郁文館は一死後1番成田明弘の左前安打の後、2番齋藤、3番大島と連続四球、さらに暴投で1点差に詰め寄り、4番宮村陸矢の一ゴロの間に、齋藤も生還して同点に追いついた。

 ここまで好投していた佐藤佑は、「大事なところでフォアボールを出してしまった。初めは良かったけれども、最後の方で疲れが出てしまった」と、反省を口にした。

 郁文館は9回裏、2つの四球に、右失で満塁とし、2番齋藤の右前安打でサヨナラ勝ちを収め、都大会出場を決めた。
 善戦しながら、あと一歩のところで都大会出場を逃した合同チームは、誰も沈んでいたが、新井監督は、「ここまでできるとは。よくやりました」と、選手をほめた。合同チームとしての練習は、週に1回だけ。その割には、十分に一つのチームになっていた。

 苦しみながら都大会出場を決めた郁文館の佐々木監督は、「こういう苦しい経験はなかなかできない」と、苦戦を前向きに捉えた。野球は強いチームにも、弱いチームにも、平等に攻撃の機会が与えられる。一つ一つのアウトをしっかり重ね、攻撃では、しっかり点を取るべき時に取る。その歯車が狂うと、思わぬ展開になることがある。この試合苦戦した郁文館も都大会では、逆の立場にもなり得る。勝者にとっても、敗者にとっても、教訓の多い試合になった。

 この試合惜しくも敗れた大東学園都立農産都立農業の選手たちには、別の戦いが待っている。新学期が始まり、新入部員を迎え入れることである。「女生徒の方が多くて、なかなか厳しいです」と新井監督。これは都立農業だけでなく、都立農産大東学園に共通したことだそうだ。この合同チーム、すごくいいチームではあったが、夏はできることなら単独チームでというのが本音だろう。

(文=大島 裕史

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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