Column

重信 慎之介(早稲田実業-読売ジャイアンツ)「早稲田実業の生徒を象徴するような選手だった」

2016.05.03

 野球1人1人にそれぞれのストーリーがある。今回は、2010年夏に甲子園出場を果たし、早稲田大で通算80安打を記録し、読売ジャイアンツから2位指名を受けた重信慎之介選手の高校時代を和泉 実監督に語っていただいた。重信選手はどんな選手だったのだろうか。

人になびかない人間性を持った選手だった

和泉 実監督(早稲田実業)

 千葉県出身、佐倉シニア出身だった重信 慎之介。同クラブでは卒業後に早稲田実業に進む選手は少なかったが、家族に早稲田関係者が多かったことから、いつしか早実のユニフォームを着てプレーしたいというのが重信の憧れになっていた。そして2009年4月、早稲田実に入学する。入学当時、和泉監督はどんな印象を受けたのだろうか。

「体が小さかったですが、当時から足は速かったですね。それよりも、自分を持っているというか、人になびかない、ぶれないところは斎藤 佑樹に似たものを持っていました。自分でやる練習を好んで行う選手でした」

 話を聞くと、重信は我の強い選手だと感じる。そんなところもプロ向きの選手だったのだろう。またこの代は重信に限らず、個性が強い選手が多い学年だった。

「重信と同期には、主力打者の安田 権守(カナフレックス)、エースになった内田 聖人(JX-ENEOS)、ジャルキン(早稲田大卒)、真鍋 健太早稲田大)とそれぞれの個性が強かったです。上には小野田 俊介(東京ガス)、土屋 遼太(JFE東日本)がいて、1学年下には八木 健太郎早稲田大)がいて、この3学年が揃った2010年は強かったですよ」

 重信が2年になった2010年夏。1番サードとして出場した重信は計6試合で22打数9安打、4打点とすべての試合で安打を放ち、優勝に貢献。初の甲子園出場を果たす。

 甲子園では西東京大会以上の活躍を見せる。1回戦倉敷商戦では5回の第3打席で適時三塁打を放ち、初打点初安打を記録すると、2回戦中京大中京戦では、6打数5安打4打点の大活躍を見せる。そして3回戦関東一戦では4打数3安打5打点と、3試合合わせて12打数9安打10打点と驚異的な活躍を見せ、和泉監督も「重信は良く打っていたと思います。3年間で一番打った大会だったと思います」と振り返るほどの活躍ぶりだった。

 そして更なる活躍が期待された同年秋。ブロック予選で敗れ、都大会出場はならなかった。翌春はブロック予選から本大会を目指すことになった早稲田実業だったが…。

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[page_break:中止になった春季東京都一次予選の悔しさを乗り越えて]

中止になった春季東京都一次予選の悔しさを乗り越えて

2010年の西東京大会優勝シーン

 2011年3月11日に起こった東日本大震災の影響により東京都一次予選は中止となった。そのためこの大会は前年の秋に本大会出場したチームのみ参加の大会となった。

 高野連は断腸の思いで中止の決断を下したが、春の本大会進出を目指す選手たちにとっては、震災とはいえ、悔しい思いがあった。筆者も、ブロック予選に出場する予定だった学校の選手たちが泣き崩れたという話を聞いた。それは早稲田実業の選手たちも同様だった。

「厳しい冬を送ってきて、腕試しする機会がなくなったのですから、それは悔しいですよね。私は30年以上も監督をやっていますが、こんな経験は初めてのこと。でも彼らはめげずに、野球に対する思いであったり、日頃支えている方々への感謝の思いが強くなっていって、日々、結束が深まっていきましたね」

 そして迎えた夏の大会初戦。これまでの鬱憤を晴らすかのように早稲田実業は勝ち進んでいく。

準決勝
関東大会出場を果たした佼成学園を破り、決勝戦へと進出を果たした。決勝では1番セカンドで出場した重信は、それまで21打数12安打6打点と打ちまくっていたのだが、日大三吉永健太朗(現・JR東日本)に抑え込まれ3打数0安打3三振と屈辱的な結果に終わる。試合も1対2で敗れ2年連続の甲子園出場を逃した。

 この試合を振り返って和泉監督は日大三早稲田実業で経験の差が大きく出たと語る。

「うちは0からここまで来たチーム。対して日大三選抜ベスト4、さらに関東大会も経験していて、吉永や高山俊(現・阪神タイガース関連記事)、横尾俊建(現・北海道日本ハムファイターズ関連記事)は前年の選抜で準優勝した時から経験しているのですから、経験値が全く違うわけです。1点差勝負でしたけど、彼らは全くバタバタしていなかったですね」 と振り返った。

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[page_break:高校野球が終わった後はアメリカ一人旅も経験!]

高校野球が終わった後はアメリカ一人旅も経験!

早稲田大学時代の重信 慎之介

 重信は2年夏の甲子園出場で大当たり。さらに最後の夏でも、大活躍。俊足巧打の内野手として、次のステージの活躍に注目が集まっていたが、実は野球を続けない可能性もあったという。

「あの時、重信、野球をやらないらしいですよと周りに言われて、なんであれほどの選手が続けないの?と思うかもしれません。高校生は多感な時期ですから、いろいろ思うところがあったのでしょう」

 この時期、重信はアメリカに1人旅もしたという。
和泉監督は「許す親も親だが、アメリカにいく重信も、重信だと思いましたよ」と苦笑いを浮かべたが、結局、早稲田大で野球を続けることが決まった。重信の決心には次のような要因があったからだと和泉監督は分析する。

「高校生はいろいろなことを考えるわけです。先ほども話したように重信はいろいろな進路を考えていて、彼の中での人生設計は野球だけじゃなかったと思います。彼は夏が終わって一息ついて、いろいろ考えて、アメリカ旅行をしたのでしょう。そこでいろいろなものを見て、感じて、やっぱり野球だと感じたのだと思います。だから大学で続けることになったんです」

 和泉監督は入学当時の重信を人になびかない、動じることがない性格を持った人間と評していたが、高校野球が終わった後の重信は、まさに和泉監督の言葉通りであった。

 早稲田大に進んだ重信は、1年春からリーグ戦に出場。2年春にはレギュラーを獲得し、3年秋には打率.404、7盗塁を記録し、東京六大学屈指の俊足巧打の選手として台頭した。そして4年春には大学選手権優勝を経験し、重信の評価は日増しに高まっていった。

 そして昨秋のドラフトで読売ジャイアンツから2位指名を受けた重信。プロ入り後のオープン戦で連日活躍を見せ、開幕一軍入りした重信だったが、一軍では1試合出場にとどまり二軍降格。現在は一軍を目指して日々、もがいている。和泉監督は、「良いスタートを切ることはできたけど、プロは甘いものではないよ」と話していたが、今、その壁にぶち当たっているということだろう。

 だがオープン戦で連日の活躍を見せていたように、バットコントロール、脚力の高さは首脳陣からも高く評価されている。あとは常に自分の能力を発揮できるかにかかっているだろう。

 和泉監督は「野球一筋なところではない重信の人間性はまさに早稲田実業野球部だけではなく、学校を象徴するような選手」と評していたが、いつか重信 慎之介のキャラクターが[stadium]東京ドーム[/stadium]で光り輝くことを大いに期待したい。

(取材・構成=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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