試合レポート

実践学園vs都立江戸川

2021.07.09

諦めなかった実践学園に女神、涙の都立江戸川ナインに監督は「満点」

実践学園vs都立江戸川 | 高校野球ドットコム
勝利した実践学園 ※写真は昨秋の都大会より

 フライボール革命の指導や比較動画など活用など、沢里監督の指導により成長を続ける実践学園。対するはセルフジャッジベースボール(SJB)を掲げ、選手たちの判断を尊重する都立江戸川。大会序盤の好カードは、実践学園が延長10回までもつれる熱戦の末に都立江戸川を下した。

 秋、そして春と都大会の初戦で負けていたことで「硬くなると思っていました」と沢里監督のなかでは接戦の試合展開になる予感があったが、それが的中する。
 実践学園は先発・菅沼麟太郎が、立ち上がりに都立江戸川1番・大嶋春翔にヒットを許すなどピンチを招いた。そこで4番・白川秀亮にタイムリーを打たれ、実践学園はいきなり2点を追いかけることになる。

 2回、3回に実践学園は相手バッテリーのミスで追いついたが、「2回くらいから足がつり始めていた」というエース・菅沼が踏ん張り切れない。

 3回に死球で出た都立江戸川4番・白川を二塁に置いたところで、6番・木谷颯太にタイムリーを許して2対3になる。実践学園は、なかなか主導権を握れずに試合が進んでいく。

 両足がつったという実践学園・菅沼と、都立江戸川先発・竹川葉流と2番手・前田哲平の投げ合いで中盤は膠着する。一進一退の攻防が続いたが、都立江戸川が8回にダメ押しとなる2点を追加する。これで2対5となり、試合は決したように見えた。実践学園の沢里監督も「3点差が開いてしまいましたので、もう気持ちしかありませんでした」と負けを覚悟していた。

 しかし、実践学園が9回に意地を見せて同点に追いつくと、10回は打線が爆発する。
 4番・後藤明日の二塁打から勝ち越しのチャンスを作ると、相手の守備のミスで6対5とする。さらに途中出場の村田春陽や1番・矢作将也のホームランなどで一挙14得点の猛攻を見せた。

 最終的には19対5というスコアで実践学園が勝利した。最終回に追いつき、延長で勝ち越せたことについて「20人全員を使ったのは初めてでしたけど、練習の成果が出ましたし、土壇場に強くなりました」と実践学園・沢里監督は選手たちの成長を感じ取っていた。ただ実際はギリギリの戦いを強いられた。

 延長10回にレフトの守備に就いた鈴木宏昌は本職はファーストとのこと。「最後は鈴木のところに打球が行ってビックリしましたが、センターが捕ってくれて良かったです」と総力戦だった。その事実を明かすとともに2回戦の切符を掴んだことに沢里監督は胸をなでおろした。次戦以降は試合序盤から強力打線が爆発することを期待したい。

 また足をつりながらも気合の投球を見せた菅沼は、「自分の投球で雰囲気を悪くしていたので、野手に助けられました」とバッター陣へ感謝の一言を述べる。まずはつってしまった足を完治させることを優先した上で「身体の開きが早く、抜け球が多かったので、映像で見返したい」と沢里監督作成の比較動画で復習したうえで、次戦に挑むことを誓った。

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都立江戸川ナイン ※写真は今春の都大会より

 一方、敗れた都立江戸川は、投手陣に厚みがあった。
 先発したエース・竹川は本格派投手で、ボールを切るように力強くリリースして、伸びのあるストレートを投げ込む。また角度を付けた投球フォームが魅力的なピッチャーだった。さらに、緩急を利かせた曲がりの大きいカーブやスライダーなどでもカウントを取れる。時折、腕が遅れてきて制球が乱れるところがあるが、都立江戸川が誇る好投手であることは間違いない。

 その竹川の後を継いでマウンドに上がった2番手・前田は身長169センチと小柄だが、上半身の力を活かして勢いあるボールを投げる。立ち投げ気味の投げ方ではあるものの、武器の真っすぐを軸に、小さく変化するボールを織り交ぜることで、強力・実践学園打線から凡打の山を築く。テンポも良くリズムの作れる投手だ。

 竹川、前田と都立江戸川の投手陣を中心に守備からリズムを作ったことに、「良い流れで試合を進められていたと思います」と坂本智哉主将も納得の表情をしていた。

 2020年4月から園山監督が就任し、「生徒がボトムアップ思考で野球をやれるようにしたい」という思いからSJBを提案した。選手たちは勇気を出してこの制度を受け入れた。「何が正解かわからない」といった不安を感じながらも、1年間は日々試行錯誤をして自分たちなりに考えて正解を探した。

 そこに追い打ちをかけるように4月末から5月中に対外試合ができず、試合を通じてSJBを実行する機会がなかったが、「紅白戦を通じて実行してきました」とチーム内で連携を高めてきた。

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都立江戸川ナイン ※写真提供=都立江戸川高校野球部

 6月に入って対外試合が出来るようになると、練習試合を通じて自分たちのやってきたことを確認してきた。実践学園戦では、バッターとランナーのアイコンタクトで、スクイズをする。また雨天によるグラウンド不良を考えて、セーフティーバントを仕掛けるなど、自分たちで考えて試合を進めていった。

 こうした姿に園山監督も「成長を見ていてワクワクしましたし、たくましく見えました」と自分が提案したSJBを実行していく姿に嬉しさがこみあげていた。

 試合には敗れたものの、都立江戸川は昨夏ベスト8相手に8回まで2対5とリードしていた。最終回、延長戦でひっくり返されたが、「自分たちのやってきたことは間違いではなかったです。これを次の代へつなげられればと思います」と坂本主将は涙ながらに語った。

 園山監督は実践学園戦を振り返り、「満点の試合運びです」と最後に選手たちの頑張りを称賛した。あと一歩で勝利を逃したが、3年間、園山監督が教えてきたSJBを通じて培ったやらされるのではなく、考えて行動することを今後の人生に活かしてほしい。

(取材=田中 裕毅

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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