熊本工vs自由ケ丘
木村方哉(熊本工)
遅れて出てきた男
162球で延長12回を投げ抜き、押し出しによるサヨナラ勝ちを呼び込んだ。そして、優勝した119回大会以来となる熊本工の決勝進出に大貢献した木村方哉。
「貢献」ではなく「立役者」というべきか。
秋季大会ではベンチにも入っていなかった木村は、大会前の練習試合で右足首に死球を受け打撲し、ぶっつけ本番で大舞台の九州大会を迎えた。秋にサイドスローに転向したばかりで、公式戦での先発はこれが初めて。
そんな176cm、73kgの右腕が、武田健吾を筆頭とした好打者揃いの自由ケ丘を3点に抑えたのである。
「序盤はカーブ、スライダーといった変化球を当てに来ていたので、中盤からは真っすぐを主体に組み立てを変更しました」
最速は126キロ。上手投手時代は128が出ていたそうだが、サイド転向後は最速が126キロ止まりだという。それでも、相手打者は詰まる。刺し込まれる。「手元でシュート回転していたのが良かったかも」と淡々と振り返る木村だが、これが武田ら右の好打者には効いた。
試合終盤は毎回のように得点圏に走者を背負い、11回には二死一・三塁で打者が武田という絶体絶命の場面を迎えた。ここでベンチの林幸義監督が伝令を送る。3回の第2打席には逆転の左前適時打を喫している。当然、ここは歩かせるのだろうと思われたのだが、「相手はリーチが長いので外の球は届くぞ。内を攻めて行け」と、あくまで勝負前提の指示を与えているのだ。
「相手は“プロ注”だそうなので、打たれなければ嬉しいな、という程度に意識しました」
という木村の内角直球で、今大会最強打者を中飛に打ち取った。やはりボールはシュート回転しており、芯を喰わせなかった。
「3年生の意地に賭けて与えた背番号。よく投げてくれた」
と林監督。さぁ、鹿児島実に次ぐ大会12度目優勝に王手をかけた熊本工。初戦で先発した「山下滉太が負傷退場し、開き直りのマウンドだった」という木村の力投を、まぶしそうに細めた目で眺める林監督の姿が、また印象的でもあった。
(文=編集部)